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Sに溺れる 2
藤真「違うって、全然違う!」
玲奈「え?違うの?…いった!」
藤真「どう考えたらその公式になるんだよ。」
お昼までの甘いムードはどこへやら…。
ここは健司の部屋。
約束通り、あたしの追試に向けて部活を早めに切り上げてくれた健司が勉強を見てくれていた。
はっきり言って、かなりのスパルタ先生ιι
テンションが上がらないってゆーのはこーなるのがわかっていたからだった。
玲奈「もうっ、さっきからバシバシ叩かないでよっ!」
藤真「何度言ってもわかんないからだろ?」
玲奈「…っっ。…だって、難しいんだも――いたっ!」
藤真「ちゃんと授業聞いてればわかるっつーの。お前がバカなだけ。」
玲奈「……。」
藤真「なんだよ。」
玲奈「ちょっと休憩しない?」
藤真「しない。」
玲奈「いいでしょ?少しだけ。」
せっかく辛かったテスト期間も終わったんだし(まぁ、あたしは追試があるけど…ιι)ちょっとはまったりしたいよ。
なのに、あたしの気持ちに気づくはずない健司は冷めた眼差しで上から見下ろす。
怖いくらいに冷ややかだった。
藤真「やる気ないなら帰れ。ったく、お前の為に時間作ってやってんのにお前がそんなんじゃ付き合ってらんない。」
教科書をパタッと閉じて上向きに吐いた息で前髪を浮かせ「やれやれ。」と言わんばかりに呆れ顔だ。
玲奈「…健司?」
明らかに不機嫌な顔に問いかけるように名前を呼ぶ事しかできなかった。
藤真「お前どうしたいの?」
玲奈「え?」
藤真「こんなんじゃこの先の成績も目に見えてわかる。なのにこのままでいいわけ?」
玲奈「…どういう事?」
藤真「まっ、もう一年高校生続けんなら別に良いけど?俺は。」
玲奈「なっ…やだっ!絶対に嫌っ!!」
身を乗り出して食ってかかると真剣な顔をしながら健司が呟いた。
藤真「なら頑張れよ。」
玲奈「うん、わかった!」
叩いたりするのはちょっと納得行かない。
けど、表情も言葉もあたしを心配してくれての事なんだ。あたしは姿勢を戻し、教科書を開いてシャーペンを持った。
藤真「…っ(笑)」
玲奈「ん?何?」
藤真「…お前さ、もしかして変な事考えてた(笑)?」
玲奈「えっっ!?」
藤真「イチャイチャしたかったとか。」
玲奈「あ…いや…っ//」
藤真「テスト期間も終わってこーやって俺の部屋で二人っきり。なんか期待してた。だろ(笑)?」
全部を見透かすような視線はあたしの心が読まれているようだった。
玲奈「なっ、違うよ…やだな//そんなわけないじゃんっ、だって今日は勉強を――」
藤真「ま、そうだけど…」
玲奈「…っっ」
体がビクつく。
テーブル越しだけど、あたしに向けて伸ばした手を頭から耳にかけて撫でるとそこから口元にかけて指先だけで妖しくなぞり出す。
玲奈「け、健…っ」
健司にその気はないのかもしれない。
けど、こんな風に触れられてそんな目で見つめられたらあたしは求めるような声しか出せなかった。
玲奈「……っ。」
藤真「そうだな、頑張ったらご褒美あげてもいいぜ?」
玲奈「ほ…本当?」
藤真「頑張ったらの話。何がいい?」
何がいい?なんてそんなの…聞かないでよ。
わかってるくせに…。
あたしはハッキリ言って変な事しか考えてない。
あたしは…っ。
玲奈「キス…してほしい。」
藤真「キス?それだけ?」
玲奈「…あ、と…そのっ」
藤真「……あと(笑)?」
恥ずかしいっっ//
絶対その目はあたしの言いたい事わかってるくせに…。
玲奈「っ、いっ、イチャイチャ…したい…//」
藤真「やっぱり(笑)わかった。じゃあ、これ。」
玲奈「えっ!?何これっ!」
藤真「これ全部、一時間で終わったらな。」
玲奈「全部!?一時間で!?」
顎がはずれるくらいの量…。これをわずかな時間で??
藤真「俺なら30分あればできるぜ?」
あなたとは頭のレベルが違います…ιι
藤真「ご褒美欲しいんだろ?」
玲奈「…うんっ。頑張る!」ご褒美争奪はケータイにアラームをつけ時間を計り、健司のスタートの合図で始まった。
**そして、一時間後**
ピピッピピッピピッピピッ
時間を告げるアラーム音にハッとした。
人の欲望は強い。
大嫌いな勉強をよそ見せずに一時間みっちりと集中してできるなんて思いもしなかった。
…でも、やっぱりあたしには難しくって出された問題全てができたわけではなかった。
にの「ごめん、健司…あと5問出来なかった――ね、寝てる?」
いつからなんだろうか。目の前で寝てるのに全く気づかなかった。
玲奈「…健司?」
あたしの声にピクリともせずすやすやと寝息をたてている。
寝顔でさっても今のあたしには色っぽく見えてしまって一気に鼓動が激しさを増した。
勉強をしてた時よりも静まってる気がする室内。
そしてあたしの手は健司に触れていた。
ちょっとだけ…。
柔らかくってサラサラの髪に触れて反応を見た。
微動だにしない健司にあたしの行動が今にも暴走しそうだった。
白くて透明感のある肌、長い睫毛はまるで女の子の様。
次第にエスカレートするあたしは気づけば健司の隣に移動していた。
もうちょっと…触れたい。
キス…したいな。
こんなに触っても気づかないんだもん、いいよね?
ねだった事はあっても自分からキスなんてした事はない。
でも、大胆な気持ちとは裏腹にあと一歩が踏み出せない。
心臓が壊れちゃいそうだよ。
あと数センチ、あと…
藤真「焦れったい。」
玲奈「わぁっ!!」
バチっと見開いた健司の瞳にあたしが映った。
ビックリしたのは当たり前で、あたしは勢いよく健司から離れてしりもちをついてしまった。
玲奈「いったぁ…。…起きちゃった?」
藤真「起きてた。」
玲奈「えっ!?うそっ!いつから!?」
藤真「アラーム鳴った時。」
玲奈「な、んで…寝たフリなんか…。」
起きてたって事は、今まであたしがしてた事全部、バレてるって事じゃん。
恥ずかしくって顔が見れない。
顔から火が出そうとは正にこの事。
藤真「このまま寝てたらお前が何するかなって思って(笑)」
玲奈「う…っ//」
なんてゆー策士っ!
とゆーより意地悪なの!?
はっ!そんな事より変態って思われてないだろうか…。
あーもうっ!今更後悔しても遅いけどあたしってば煩悩に任せて何しでかしてんのっ!
バカバカバカっ!!
藤真「もうやめんの?」
玲奈「えっ?」
藤真「キス、したいんだろ?」
玲奈「…したい、けど…でも健司の出した課題、全部出来なかったから…。」
藤真「知ってる。じゃぁ、しない?」
玲奈「だって、出来なきゃ…。」
藤真「ちゃんと集中して頑張ったみたいだし、今回は特別にいいぜ(笑)?」
玲奈「え、いいの?ホント?」
藤真「ああ。ほら。」
ん??ほら??
えぇー!?
藤真「何だよ、しないの?」
玲奈「や、する、けど……あたしから!?」
近づいてきた健司があたしの前で目を閉じた。
これって…
あたしからキスしろって事!?
今まで見た事のないキス顔をまじまじと見てしまいあたふたしてしまう。
藤真「ほら。」
玲奈「うん…。」
ドキドキ…ドキドキ…。
音を立てずに触れるだけのキスで限界で、すぐに唇を離してしまった。
玲奈「……っ//」
藤真「…何これ。」
片目をうっすらと開けた健司は明らかに不満そうだった。
玲奈「……。」
藤真「全然感じない。ちゃんとしろよ。」
玲奈「ちゃんとって…あたしなりにちゃんとしたつもり、なんだけど…。」
藤真「ったく、こーやるんだよ。」
引き寄せられて深くされる口づけに言葉が出せない。
それと共に理性が飛んでいきそう。
藤真「わかった?」
玲奈「…こんなの、無理、だよ。」
あたしの返事の後に出る健司の笑い声。
藤真「お前って本当にバカ(笑)」
玲奈「なんでよっ!」
藤真「来いよ、教えてやっから。」
玲奈「ん…。」
差し出された手にあたしの手を重ねた。
無数に降るキスにあたしはついてくのが精一杯で気づけばベッドの中。
もうすでに健司のペースだった。
ちらりとテーブルに目をやれば散乱した教科書とノートにシャーペン。
ベッドの中、裸のまま健司の腕に抱かれて疑問に思った事を聞いた。
玲奈「てゆーか、勉強はよかったの?途中だよ?」
藤真「あー。まぁ追試は三日後だし、あと二日みっちりやればなんとか平均はとれるだろ?」
玲奈「も、もし、平均取れなかったら?」
藤真「別れる。」
二言返事に目が丸くなる。
玲奈「えぇ!?…本気?」
藤真「そう言ったら頑張るだろ?」
玲奈「当たり前じゃん!別れるなんて絶対に嫌っ!」
藤真「…だな、しっかり勉強しろよ(笑)?」
玲奈「うんっ!」
ふっと笑顔を浮かべておでこにされた温かくて優しいキス。
さっきの言葉が冗談なのか本気なのかはわからない。
だけどあたし自身は健司を嫌いになる理由なんかないし、なれるわけがない。
好きだもん。
別れたくない。
だって、どんなに意地悪なドSでも、そんな健司に溺れるくらい惚れてるのはあたしだもん。
きっとあたしはこれからも健司に翻弄されてくのかな??
でもいい。
確かに嫌になる事もあるけど、今は癖になっちゃうくらい心地よささえ感じるから。
溺れすぎ、かな(笑)?
〜fin〜