Sに溺れる 1


学園のアイドル

学園の王子様

↑これが健司の愛称。

みんなが騒ぐ彼の表だけの顔。

実際は口が悪くってメチャクチャSな男。

そんな男と知りながらも恋をして、晴れて友達から恋人になったあたしたち。

恋人になったらもっと甘い毎日が待っているのかと思った。

でも、現実はそう甘くない。
彼女になった今でもなんだろ、“女の子扱い”されてない…気がする。

確かに、たまにではあるけどデートしてるし、キスだってそれ以上の事だってした。

でも、普段の扱いは友達の頃と何ら変わりなんてないように思っちゃうあたしは欲張り過ぎなのかな?

元々、優しい方じゃない。
からかわれたり、冷たくあしらわれたりそんなのは毎日の事。

嫌な事を言われたりされたり…
なのにあたしの気持ちは膨らむばかり…

やっぱ、うまい具合に飴と鞭を与えられたら、冷たくされてもいきなり優しくされたら…どーでもよくなっちゃう。


そのくらいあたし、健司に溺れすぎちゃってる。




『Sに溺れる』




玲奈「うわ…どーしよ…。」


期末試験の結果が手元にやってきた。
覚悟はしてたけど結果は想像を遙かに越えるヒドさに我ながら愕然とするばかり。


玲奈「こんなの親に見せれないよι」


紙を折りたたみ机に突っ伏した。


玲奈「あっ、ちょっと!」

藤真「げ、どーやったらこんな点取れんの?」


油断した隙に隣の席に座る健司に取られ、哀れな結果を見られてしまった。


玲奈「健司!勝手に見ないでよっ!返して!」

藤真「あんなに教えてやったのに。お前さ、ココ、どーなってんだよ(笑)」


人差し指でツンツンと頭を突っつき人を小馬鹿にしたような顔つきであたしを見た。


玲奈「うっιιごめん…。でも、今回は難しかったんだもん!もぅ、いい加減に返してよ!」


ぴょんぴょんと跳ねて取り返したいところだけどそうはさせるかと健司は手を高く挙げていた。

身長はそこまで高くない健司だけど、あたしの身長では到底届かない。


玲奈「〜〜っ!そーゆー健司はどーなのよ!見せてっ!」

健司「どーぞ(笑)?」


躊躇なくヒラリと目の前に出された時点で悪い結果じゃないのは確か。


玲奈「偉そうにっ!どーせ中の中ってとこなんでしょ――に…二位!?学年で!?」

藤真「ごめんな?期待に添えなかったようで(笑)ちなみに一位は花形だろうな。」


学年で二位のそれはそれは素晴らしい成績に文句を言いたくて仕方ないあたしの口は一ミリたりとも開かなかった。

教科を問わず成績優秀、種目も問わずスポーツ万能、それでいて顔も良くってモテモテの健司に抜け目なんてない。

同じ人間なのにこうも違うなんてなんて罪なんだろう。

神様の意地悪っ!
不公平だよっ(怒)


藤真「そんなにむくれんなよ。」

玲奈「ぶっ!ひょ、ひょっろ!」


無意識に膨らましていた頬を利き手の左手一つで挟まれ、ため込んでいた息が自然と口から漏れると同時にうまく喋れなかった。


藤真「っっ(笑)チョーブサイクっ、はははっ(笑)」


あたしの顔は健司にされるがままのひょっとこ風な顔、爆笑されるのも無理はない。

気づけばやりとりを見ていたクラスの注目の的であり、笑い物にされていた。


玲奈「〜〜っっ、健司っっ!」


恥ずかしい。
みんなの前で恥かいちゃったじゃん!

怒りと羞恥でいても経ってもいられないあたしは健司の手を振り払い足早に教室を後にした。

健司の意地悪は今に始まった事じゃない。
でも今回はさすがのあたしもいつもみたく流せなかった。


藤真「いつまでむくれてんだよ。」

玲奈「……。」


廊下に出たあたしを呼び止め顔を覗かれる。


藤真「…怒った?」

玲奈「…そりゃ、みんなの見てる前だったし少しは…。」


めずらしくあたしの機嫌を取るかのような態度の言葉。


藤真「…わかった、今日俺んち来いよ。」

玲奈「えっ!?」


期待が頭をよぎる。
久々にお家デート!?


藤真「また勉強教えるから。だから機嫌直せよ、な?」


上がりかけたテンションは見事に砕かれた。

でも…

腰に手を回されたら嫌な顔は出来ないし、可愛くない態度なんてとれなかった。


玲奈「うん、行く。」こうして放課後は健司の家で勉強会となった。


そして昼休み。
いつものように用意した二つのお弁当を持ち、あたしは屋上へとやってきた。

健司は毎回のようにファンに囲まれてお昼を誘われているから目で『先行ってるよ?』『おう。』の用に合図を交わしている。

結構な時間が経った。
お昼休みも半分も過ぎた頃、ドアを開け健司がやってきた。


藤真「ったく、シツコイっつーの。」


悪態をつき、ドカッと目の前に座ってネクタイを緩め、眉間に皺を寄せながら溜め息をついた。


玲奈「今日はまた遅かったね。どーぞ。」


嫌味な訳じゃない。
…いや、これはもう嫌味なのだろうか。
あたしはあえて健司の目を見ず、ブツブツ言いながらお弁当のふたを開け差し出した。


藤真「毎回の事だろ?いただきます。」


健司に悪びれた様子はない。
いつものようにパクパクと食べ始めた姿を黙って見ていた。


藤真「…食べねぇの?」


まったく箸をつけないあたしを横目に健司がお茶を口に含む。


藤真「食べないなら食うぞ?」


ヒョイッとあたしの分のお弁当をかっさらい、再び食べ始めた健司に聞いた。


玲奈「ねぇ。周りの子ってあたしたちが付き合ってるのわかってるんだよね?」

藤真「…なんだよ、いきなり。」


付き合ってもうすぐ2ヶ月。
学校一モテる健司にはファンの子が大勢いる。
モチロン他校生にもだ。

そんな彼と恋人になれば敵も多いかと思ったけど実際にはそうでもなかった。
嫌がらせをされたりするのかとハラハラしていたけど、健司のファンの子は例え健司に彼女ができたとしても本人に嫌われたくないみたいで問題は起こしたりはしない。

そこはすごく助かるんだけど、さっきみたいにあたしの存在を完璧無視で健司をお昼に誘ったり、遊びに誘ったり、キャーキャー言ったりと結構自由。

(まぁ、キャーキャー言うのは別にいいとして。)

あたしもそこは大人にならなきゃと平然を装ってはいるが内心はやっぱり嫌だ。
良い気がする訳がない。

当の本人は“王子様”の仮面を取る事はなく誰にでも優しい。
言い方を変えれば八方美人とも言う。
誰にでも良い顔してるけど、実際さっきみたいな毒のあるセリフと表情が本性。
あたしとバスケ部の人にしか見せてはいない。


玲奈「もうちょっと早く切り上げてきてよ。」

藤真「…?何が?」

玲奈「ファンの子たち。…もうはっきり言えばいいのに、迷惑って。そう思ってるんでしょ?」

藤真「まぁ。」

玲奈「健司の口からハッキリ言えばみんなだって遠慮する、かも…しれない、し……な、何?」


藤真「…妬いてんの(笑)?」


ふふんと口角を上げ、流し目加減でニヤつく健司に一気に顔が赤くなる。


玲奈「違っ!」


からかってるその顔でさえあたしには妖艶に移り、朝から悪かった機嫌もどこかに行ってしまっていた。


藤真「違わないだろ?」


気づけば健司の顔が目の前にあって重なる唇。


玲奈「…もう一回…。」


肩を抱き寄せられ、優しく再び触れる健司の唇。

このたまにある甘さが…堪らなくあたしを溺れさせてる理由。





藤真「違うって、全然違う!」

玲奈「え?違うの?…いった!」

藤真「どう考えたらその公式になるんだよ。」


お昼までの甘いムードはどこへやら…。

ここは健司の部屋。

約束通り、あたしの追試に向けて部活を早めに切り上げてくれた健司が勉強を見てくれていた。

はっきり言って、かなりのスパルタ先生ιι
テンションが上がらないってゆーのはこーなるのがわかっていたからだった。


玲奈「もうっ、さっきからバシバシ叩かないでよっ!」

藤真「何度言ってもわかんないからだろ?」

玲奈「…っっ。…だって、難しいんだも――いたっ!」

藤真「ちゃんと授業聞いてればわかるっつーの。お前がバカなだけ。」

玲奈「……。」

藤真「なんだよ。」

玲奈「ちょっと休憩しない?」

藤真「しない。」

玲奈「いいでしょ?少しだけ。」


せっかく辛かったテスト期間も終わったんだし(まぁ、あたしは追試があるけど…ιι)ちょっとはまったりしたいよ。

なのに、あたしの気持ちに気づくはずない健司は冷めた眼差しで上から見下ろす。
怖いくらいに冷ややかだった。


藤真「やる気ないなら帰れ。ったく、お前の為に時間作ってやってんのにお前がそんなんじゃ付き合ってらんない。」


教科書をパタッと閉じて上向きに吐いた息で前髪を浮かせ「やれやれ。」と言わんばかりに呆れ顔だ。


玲奈「…健司?」


明らかに不機嫌な顔に問いかけるように名前を呼ぶ事しかできなかった。


藤真「お前どうしたいの?」

玲奈「え?」

藤真「こんなんじゃこの先の成績も目に見えてわかる。なのにこのままでいいわけ?」

玲奈「…どういう事?」

藤真「まっ、もう一年高校生続けんなら別に良いけど?俺は。」

玲奈「なっ…やだっ!絶対に嫌っ!!」


身を乗り出して食ってかかると真剣な顔をしながら健司が呟いた。


藤真「なら頑張れよ。」

玲奈「うん、わかった!」


叩いたりするのはちょっと納得行かない。
けど、表情も言葉もあたしを心配してくれての事なんだ。

あたしは姿勢を戻し、教科書を開いてシャーペンを持った。



2へつづく


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