11 気持
今まで何人かの女の子と付き合ったことはあったが、自分から告白したのは玲奈ちゃんが初めてだった。
最初は恋愛感情など全く無かった。仲が良い先輩の妹で、会えば普通に喋る程度―自分でも分からない。いつから彼女を好きになったのか。
もしかしたらあの時、惹き付けられたのかもしれない――インターハイの決勝戦での玲奈ちゃんの姿に。
彼女に「同情ならいらない」と拒絶された時に、少なからずショックを受けた。同時に、俺を受け入れて欲しい、という思いが芽生えた。
俺を拒否しないで欲しい、玲奈ちゃんの側で玲奈ちゃんを見ていたい。触れたい――
そして、気付いた。
ああ、俺は彼女の事を好きなんだと。
自分自身が自分の感情に一番驚いたが、自然と納得できた。そして、口に出してしまっていた。
彼女は、俺の思いをどう思ってるんだろうか―?
「よーし、今日の練習は終わり!!以上!」
「ありがとうございました――!!」
日曜日の海南バスケ部の練習が終わった。この後は自主練習する者も多いが、その中の1人である清田は直ぐさま牧に駆け寄った。
「牧さん、今日は残るっすよね!?」
「あー……悪いが用事があってな。今日は残れん。じゃあな」
それだけ言うと牧は体育館を出ていく。
「えー!!牧さん先週もすぐ帰ったじゃないですかー!いっつも残ってんのに!なんで……ムゴッ」
後ろから手で口を塞がれ、清田はじたばたする。
「信長、まあいいじゃないの。練習するよ」
「じ、神さん!牧さんの用事って何か知ってます?」
「んー……知らないけど、予想はつくかな」
「え?」
「はい、練習練習ー」
神に背中を押され、しぶしぶ清田は練習を始めたのだった。
牧は先週も訪れた海岸に向かっていた。
潮の香りが入り交じっている風が心地いい。待ち合わせ場所に近付くにつれ、少しずつ緊張が高まっていくのを感じた。
あ……
1週間前と同じように、玲奈ちゃんは砂浜に足を伸ばして座っていた。海をじっと見つめている後ろ姿は何故か目が離せない。
「玲奈ちゃん」
玲奈は声がした方を振り返ると、にこっと微笑んだ。
「牧さん、今日もすみません。来てくれて」
「それを言うのは俺の方だよ。俺の言ったことが原因だからな。わざわざこっちに来てくれてすまない」
「いいんです、また海も見たかったし」
玲奈がそう言うと、2人の空気は静寂に包まれた。牧は試合でも感じたことが無い位、鼓動が早くなっているのを感じる。
しばらくして、玲奈が口を開いた。
「……牧さん、この間の、お返事なんです、けど」
「――ああ」
「……最初、言われた時は、ただ吃驚して、何も考えられなくて。正直、自分が牧さんの事を好きなのか分からなかった」
「……だろうな」
「……でも、牧さんが、この前私にしてくれた……事を、他の女の子にするのは……嫌だと思ったの」
牧は目を見開いて玲奈を見つめた。
「そう思ったら、なんか……私にとって牧さんは……友達に対する好きではないんだ……って分かって……」
玲奈は少し俯きながら、牧に笑って言った。
「私……牧さんの事が……好き、みたい……」
玲奈は顔を上げると、少し恥ずかしそうに顔を赤らめ微笑んだ。
「こんな私でいいんなら、宜しくお願いします――」
玲奈はひとつ頭を下げてお辞儀してから顔を上げたが、目を見開いたまま微動だにしない牧が其処にいた。
「……牧、さん?」
玲奈は少し不安になり、恐る恐る牧に話しかけた。
「……玲奈ちゃん、本当に?」
玲奈はまたうん、と頷く。
「今言葉にして、私も改めて確認した。私は、牧さんが好き、って――」
最後まで言い終わる前に、玲奈は牧に抱きしめられた。
玲奈の身体に添うように抱きしめられて、この腕の中にいてもいいんだと、玲奈は心から感じた。
「……正直、駄目かもなって思ってたんだ」
牧はひとつ息を吐くと、安堵して呟いた。玲奈は牧の胸から顔を上げると、お待たせしてごめんなさい、と微笑んだ。
その笑顔を見た牧は、玲奈に顔をゆっくりと近付け、唇と唇を触れ合わせた。
玲奈は突然の出来事に驚いて、固まって動けない。呆然と牧を見つめると、またキスをされた。
触れるだけのキスから、唇をついばんで吸われる。玲奈は牧にされるがまま、心地いいキスを受け入れていた。
暫くしてゆっくり唇が離れてお互い見つめ合う。牧はバツが悪そうに玲奈に向かって呟いた。
「……玲奈ちゃん、悪い……」
「う、ううん……大丈夫……びっくり、したけど……」
2人は照れくささを隠すように笑い合った。
そして沢山の話をした。今まで離れていた時を埋めるように――。
2011.11.20