10 助言


『はい、もしもし』

「……絵梨?玲奈だけど、今電話大丈夫?」

『いいけど、どうかした?なんか用事?』

「……急で悪いんだけど、今日絵梨の家泊まってもいい?晩御飯、私作るから」

『泊まるのはいいんだけど、玲奈その足でご飯作れるの?こっちの事は気にしなくていーよ』

「家でも作ってるから大丈夫。おじさんは?仕事?」

『仕事。うちは私1人だから。今から来る?』

「一回家に帰ってから行く。ご飯の材料は持ってくから。じゃあまた後でね」


 そう言うと玲奈はすぐ電話を切った。絵梨の両親は離婚しており父親と2人で暮らしている。なので絵梨は家事全般はできるのだが、玲奈は急に泊まりに行く事に少し引け目を感じていたので料理をする事を申し出た。

 玲奈と絵梨は中学は別だったものの、小学校の同級生なので家も近いし親も周知の仲だ。誰にも文句は言われない。玲奈は少し足早に自宅へ急いだ。









「これおいしー。作り方教えてよ」

「……いいよー……。今度レシピ書いて渡す……」


 玲奈の作った晩御飯を2人で食べながら、絵梨がチラッと玲奈を見やる。


「……何かあった?だからうちに来たんじゃないの?様子おかしいし」

「……」

「言いたくないんだったら別に言わなくてもいーけど」


 少しの沈黙の後、玲奈が口を開く。


「……今日私海南に行ったじゃない?」

「うん」

「で……牧さんにさ、告白された……んだ。返事、出来なかったけど……」


 これには絵梨も驚いて目を見開いた。


「牧さんて――インターハイで会った、あの牧さん?」

 玲奈は頷いた。


「へー。牧さんもやるねえ。まあ、付き合う気無いなら振った方がいいんじゃない?」


 絵梨は箸を休めることなく淡々と答える。


「……分からなくて。自分の気持ちが。牧さんは好きだけど、その、恋愛感情として好きなのかが……」

「……まあ、分からなくもないけど。今日牧さんに何かされたの?」

「ええっ!?何かって何!?」

「あんたのその挙動不審ぶりからして、告白されただけじゃないでしょ。目もなんか腫れてるし。キスでもされた?」

「さ、される訳ないでしょ!!……抱きしめられたりは……したけど……」


 玲奈は誘導尋問の如く絵梨に喋ってしまった。絵梨はご飯に目を向けたまま玲奈に言う。

 
「……じゃあさ、今日玲奈がやられたような事を、牧さんが他の女にするとしたら、玲奈はどう思うの」

 
 玲奈は固まって絵梨を見つめた。


「牧さんが他の女を抱きしめたり、その他諸々を他の女とやってもいいと思うなら、牧さんに恋愛感情は無いんじゃないの。御馳走様ー」


 絵梨は手を合わせると、自分の食器を片付けようと立ち上がった。


「玲奈はもうちょっと食べなよ。あんた運動する割にはあんま食べないから」


 絵梨がダイニングテーブルから離れても、玲奈の頭の中で絵梨の言葉が何度も繰り返される。

 牧さんが他の女の子を抱き締めたり、胸を貸してくれたり、慰めたり、頭を撫でたり、耳元で囁いたり、笑いかけてくれたり――


 牧さんが――他の女の子にするの?


「それは……ちょっと……嫌、かも」


 玲奈がひとり呟いたのを絵梨は聞き逃さなかった。


「……まあ、ゆっくり考えたら。すぐに返事しなきゃいけない訳でもないんでしょ」

「……うん。ありがと、絵梨。聞いてくれて」

「いーえ」

「……この際だから聞くけど、絵梨は仙道くんとまだ付き合ってるの?」

「……高校入ってから音信不通ー、で自然消滅。お互い連絡取ってない」

「……いいの?」

「んー?あいつはあいつで飄々とやってんでしょ」

「……そっか」

「あれ、玲奈って仙道に会ったことあるっけ」

「無いよ。小学校違ったし、絵梨と仙道くんの中学校とも校区違ったし。雑誌で見たことある位。あ、試合で遠目から見たことはあったかな?」

「ふーん。あ玲奈、全部食べなよ、それ」

「はいはい」

 
 口をモグモグ動かしながら考える。絵梨の事も少し気になるが、まずは自分の事だ。さっき絵梨がくれたアドバイスは、玲奈の心に変化をもたらしているのは間違いなかった。




2011.11.15



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