30

不安で仕方がなかった期末テストも無事に終わり、来週から夏休みを迎えようとしていた頃。



「頼む苗字。お前にしか頼めねえんだ!」

「…嫌なら断ってくれてもいいんだからね?」

「お前もちゃんと頼めよ及川!どんな状況か分かってんのか!」

「…だってぇ〜…」

「だってもくそもあるかよ」

「まぁまぁ…えっと、ごめん。突然の事で呆けちゃったからもう一回説明してもらえないかな?」

「あぁ」


男子バレー部で夏休み中に何度か行われる遠征合宿。毎年遠方まで赴き他県のチームと練習試合を重ねており今年も例外ではないらしい。
遠征中の食事や洗濯などの世話はマネージャーの役目らしいが、今年はマネージャーが少ない上に夏休みの初めごろに行われる遠征でマネージャーの一人がどうしても外せない用事で遠征を欠席するらしく人員不足なのだそう。
OBや保護者に頼むにも急な事なので頼む事もできず私に白羽の矢が刺さったらしいけど……。
な、なんで私が…。


「お前なら俺らと面識あるしマネージャーも知ってんだろ?」

「ま、まぁ…三年のマネちゃんは去年同じクラスだったし…」

「それにお前の料理美味いしな。大声じゃ言えねえけどうちのマネージャーあんまり料理得意じゃなくてよ」

「うわー岩ちゃん!マネちゃん達に言いつけてやろー!!」

「うっせーぞクソ川!!そういうわけだ。もうお前にしか頼めねえんだよ…」

「うーーん…」

「予定とかあんのか?」

「いやぁ、得に無いんだけどね…」


岩泉君の後ろにいるチラッと及川君に目を向けるとあからさまに不機嫌そうな顔をしている。
私に来てもらいたくない…んだよね…。確かにせっかくの遠征合宿なのに私が居たら気が散っちゃうよね…だけどあんなあからさまにされるとちょっとショックだ…。
だけど及川君には申し訳ないけどお世話になっている岩泉君がここまで私を頼りにしてきてくれてるから断りたくないんだよねぇ…どうしようか…。


「え、えっと…私は構わないんだけど…」

「親が反対するか?」

「ううん、それは大丈夫……けど…」

「けど?」

「…その……お、及川君が…」

「あ?…って!何不貞腐れた顔してんだテメェ!!」

「あだっ!!暴力はやめて!痛いよいわっちゃんっ!!」

「お前がふて腐れた顔してるからだろうが!!何が気に入らねえんだよ!!」

「べっつにー…気に入らないわけじゃないけどさ…」

「だったら問題ねえな。苗字、悪いけど頼むな」

「へ、へい…」


ほ、本当に良いんだろうか…。
遠征合宿は明後日から5日間東京で行われるらしい。
私は主に食事のお世話と洗濯を手伝えば良いそうだ。
私なんかで勤まるのかも不安だけど、それより及川君の不機嫌さが気がかりで仕方ない…。
けど引き受けたからにはしっかりやらないとね。合宿中はできるだけ及川君の邪魔にならないようにひっそりとしていよう。




「そういうわけだからお兄ちゃん、私明後日から五日間は留守にするから家事は任せたよ〜」

「マジか。めんどくせぇー…」

「お父さんもお母さんも忙しいんだからそれくらいしないと」

「てか遠征先って東京だろ?自由時間とかあんならあっちの婆ちゃんたちに会ってこれば?」

「んー、そんな時間ないかも。ずっと練習試合続きだって言ってたし。まぁお盆には帰るしいいんじゃない?」

「だな」


テレビでプロレスの中継を見始めるお兄ちゃんを横目に旅行用のバッグに荷物を詰めていく。
今まで運動部に入ったこともなかったからタオルとか着替えとかどんだけ必要なのか分かんないなぁ…。
及川君に相談…いや、あの不機嫌な態度をされた手前聞きづらい…。
若利君に聞けば色々と説教されるのは目に見えてるから却下だな。


「……あ、そうだ」


あいつなら適任じゃないか。
今の時間ならもう家に帰ってるだろうし電話してみよっと。


「……あ、もしもし鉄朗?久しぶりー。今大丈夫?」

『おー久しぶりぃ〜。なになに名前ちゃん、もしかして鉄朗君の声聞きたくなっちゃったとか?』

「あははウケる。鉄朗君ってスポーツやってたよね?ちょっと相談があるんだよ」

『オイ華麗にスルーすんな。スポーツについて相談…?お前なんか始めたの?』

「ううん。ちょっと手伝いで遠征合宿に参加することになってね。五日間あるんだけどタオルとか着替えとかどれだけ持っていけばいいか見当もつかないからさぁ」

『あー成る程ね。部員と手伝いじゃ運動量も違うからわかんねーけど多目に持って行きゃいいんじゃねえか。多いに越したことねえだろ』

「えーなにそれ。頼りになんないなぁ」

『すんまっせーん。遠征ってどこ行くんだ?』

「東京」

『マジか。会える?』

「たぶんそんな時間ないかも」

『予定とか分かったら一応連絡しろよ。折角こっち来んだから会いてえし』

「うわっ!!今寒気がっ…!!鉄朗が素直とか気持ち悪いね!?」

『ひでぇなお前…。せっかく名前ちゃんのだいしゅきなイトコの鉄朗君が会いたいつってんのにぃ〜?』

「何年前の話掘り返してんの殴るぞオイ」

『DVよDV!!』

「お黙り寝癖男。まぁとにかく予定が分かったら連絡するけど期待しないでよ!」

『おー。集団から逸れて迷子になんなよ。お前そそっかしいから』

「うっせーー!!じゃあねアホ鉄!!」


勢いよく終了ボタンを連打し通話を遮断する。
ったくあの従姉弟は本当に良い性格してやがる…しかもあんまり参考にならない返答だったし。
まぁ少し多めに持って行って足りなかった場合は洗濯機借りて洗えば良いか。
エプロンとかも持って行った方がいいのかな。部員の皆さんの食事作るんだし不衛生だといけないしね…。
あと足りないものは明日買に行こう。お菓子もいくつか買って行ってもいいよね。
なんだか遠足に行くみたいでわくわくしてきちゃったなぁ。実際はそんな甘っちょろいもんじゃないんだろうけどね。
及川君の事もあるししっかり気を引き締めなきゃ。



2015.2.4



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