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「うわーーん!助けて苗字さーーん!!」

「こ、これは一体どういう状況で…」

「及川が馬鹿すぎてマジクソなんだよ」


現在私はわんわんとわめいている及川君を背中に、青筋が何本か立っていて今にもブチギレそうな岩泉君を前に二人に板挟みになっている状況だ。
な、なんでこんなことになったし…!
当然及川君が駆け寄って来たかと思えば私の背中に回って震えて、岩泉君が仁王のような歩き方でずんずんとこっちに来て…だめだ、全く状況が掴めない…。


「来いクソ川!!今日はみっちり勉強すんぞ!!」

「やだよ!!折角のオフなんだから今日は苗字さんと一緒に帰る予定なんだもん!」

「あれ、私そんな話聞いてないけど!?」

「今決まったの!」

「っざけんじゃねえ!こんな点数とりやがって!次の学力テストで赤点取ったら補修で部活潰れんだぞ!!」

「え…及川君って勉強できなかったの!?」

「できないわけじゃないんだけどさ……英語は苦手なんだよ…。岩ちゃんだってそんなに成績良いわけじゃない癖にっ!!」

「お前よりは良いわ!!いいか、今日はお前んちでみっちり勉強すんぞ。問題集終わらせるまで寝かせねえからな」

「うわーん助けて苗字さーーーん!!」

「……及川君、岩泉君の言うとおりちゃんと勉強しよう…勉強は学生の本分ですよ…」

「え、うそ苗字さんも岩ちゃんの味方!?ずるいよ二人して俺の事苛めて!!なんか最近やけに仲良いしこれは浮気だよ浮気!!」

「あ?ぶっとばすぞ」

「す、ストッーープ岩泉君!!冷静に!冷静になって!!私も及川君に勉強教えるの協力するからさ!」

「え……」

「…マジでか?」

「私もあんまり勉強はできる方じゃないけど…英語ならまだ得意な方だから多少は教えられると思う」

「岩ちゃん、今日俺んちで苗字さんと勉強会するから来なくて良いよ」

「んな都合の良い事考えてんじゃねえよ。俺も行くから安心しろよ苗字」

「うん」

「うんって何!?ちょっとほんと仲良すぎでしょ二人とも!!」


そんなこんなで放課後は及川君の家で勉強会をする事になった…。
まぁ私も学力テストの為に勉強しないとって想ってたし丁度良かったや。
だけどまさか及川君のお家にお邪魔する事になるとはなぁ…な、なんか少し緊張してきた…。


「ただいま〜」

「じゃまします」

「お、お邪魔します…!」

「今お茶持ってくるから部屋で待ってて〜」

「おう」


流石幼馴染…。まるで我が家のような振る舞いで及川家の中を歩く岩泉君の後を追い及川君の部屋らしき場所へ向かう。
及川君の部屋は意外にも和室で、あんまり物は無いけどちょっと散らかっていた。男の子らしい部屋だなぁ。


「お待たせーー!!岩ちゃん、俺の居ない間に苗字さんに変な事してないよね?」

「するか。いい加減めんどくせえぞお前」

「だって岩ちゃんは女の子にモテないから二人っきりになった瞬間襲いかねな…ごめん、嘘だから殴んないで…」

「岩泉君、クールダウン…平常心だよ…」

「次言ったらぶっ飛ばす」

「はーい…じゃあさっそくゲームでもする?それでも映画のDVDでも見ようか〜?」

「勉強しないなら私帰ってもいいかな及川君」

「……最近苗字さんが俺に厳しい気がするんだけど気のせいかな…」

「日ごろの行いのせいだろ」


渋々鞄から勉強道具を取り出す及川君にホッと胸を撫で下ろし私も筆記用具やノートを取り出す。
私は数学が苦手だから分からないところは二人に教えてもらおっと。


「…及川、手ぇ止まってんぞ」

「んー…ここの文法が分かんなくてね…」

「どれどれ…あ、ここはねー…これが先に来るから代名詞はこっちに置いて、」

「…っ…!!」

「って、及川君聞いてる?」

「き、聞いてるに決まってんじゃん!!」

「え…なんでいきなりツンモード…」

「苗字、あんまり及川にくっつくな。及川が集中できなくなっから」

「あ………ご、ごめん……」

「う、うん…俺もごめん…」


ウワァアアア!!及川君の手元の問題を見るのに無意識にくっついてしまっていた…!!
はっずかしい…!!だ、だめだ私…今はちゃんと勉強しなきゃ…!!集中集中…。


「徹ーーーっ!!居んのかー!?」

「ヒッ…!!」

「ちょっ、猛!?勉強してるから入ってくんなって言ったでしょうが!!」

「あ、はじめ兄ちゃんだ!!はじめ兄ちゃんバレーしようぜ!!」

「おー猛。今勉強してっから後でな」

「ほらほら子供は出ていく!婆ちゃんとこいって遊んでなさい!」

「あれ、知らない女がいる!ねえちゃん徹の新しい彼女か?」

「え、ええっと…?」

「コラ猛!!近い!!離れなさい!!」


いきなり襖が開いたかと思えば坊主頭の男の子が現れ、及川君が止める声も聞く耳を持たず私に近づき顔を覗きこんできた。
こ、この子はいったい…及川君の弟かな…?


「えっと…」

「ねえちゃん名前なんてーの?」

「苗字名前です…」

「名前か。俺は猛!徹の甥っ子!」

「猛ーー!!なに呼び捨てにしてんの!?俺でもまだ名前すら呼べてないのにぃいい!!」

「甥っ子…!?及川君っておじさんだったんだ…」

「その言い方やめて〜〜!!おれまだ高校生だからね!?ほら猛、良い子だから外で遊んで来なさい!」

「名前ってどこに住んでんの?徹と同じ学校?」

「無視!?」

「うん、同じ学校だよ。私のお家はここからだとちょっと遠いかな…」

「ふーん。名前はバレー好き?」

「うん。自分でプレーはできないけど見るのは大好きだなぁ」

「じゃあ俺トスするから見ててよ!!上手になったんだぜ!!」

「うーん…でも今勉強してるから…」

「ちょっとくらいいいじゃん!おーねーがーいー!」


及川君の甥っ子はとても人懐っこいらしく、私の背中にくっついて外に行こうとねだっている。
可愛いなぁ…。及川君にこんな可愛い甥っ子が居たなんて知らなかった。
私ずっと末っ子でお兄ちゃんしかいなかったからこうやって年下の子に甘えられるのにずっと憧れてたんだよねぇ…。


「猛…いい加減にしないと怒るよ?」

「ちぇーっ…名前晩御飯食ってくのか?」

「ええっと…」

「苗字さんと岩ちゃんの分も晩御飯頼んでるから。夜遅くなるし姉ちゃんの車で家まで送ってってもらうからお家の人にはそう連絡しといてねー」

「え!?そんなの悪いから大丈夫だよ!!自転車もあるし自力で帰れるから!!」

「ここは甘えとけ。チャリは明日及川が学校まで漕いで行きゃいいだろ」

「で、でも…」

「一緒に食べっ「食ってけよ名前!!名前が一緒の方が絶対楽しいじゃんか!!」

「うん……ありがとう。じゃあお言葉に甘えさせてもらおうかな…」

「……猛に良いとこ全部持ってかれた……」

「泣いてねえで勉強しろ。できるまで飯は無しな」

「岩ちゃんの鬼ぃいい…」


及川君のお言葉に甘えて晩御飯をよばれるだけでなくお姉さんに家まで送ってもらう事になった…。まさかこんな事になるとは…。
お母さんに今日は友達の家でおよばれするから晩御飯は要らない事と、帰りは家まで送っていただく事をメールで伝えておいた。
それから夕飯の時間まで三人でみっちりと勉強をし、なんとか及川君もノルマを達成できたのでこれで少しは安心だ。


「徹〜。晩御飯できたよー」

「はーい」

「どもっす」

「いらっしゃい一君。あら、そっちの女の子が噂の名前ちゃん?」

「え!?は、はい!苗字名前です。お邪魔してる上に晩御飯まで頂いてしまって…お手伝いもせずにすみません…」

「礼儀正しい子ねぇ。そんなの気にしなくて良いから!ささっ、リビングに行きましょ!」

「かーちゃん早くメシぃ〜!」

「はいはーい!」

「名前も早く来いよ!」


猛君に腕を引かれ及川君のお姉さんらしき人の後を追う。
猛君がお母さんって呼ぶって事は及川君のお姉さんだよね…。姉弟揃って美人だ…。
リビングのテーブルには美味しそうな夕食が並べられていて、思わず目が輝いてしまう。
煮物に魚にお浸し…和食だ〜!嬉しい!


「食いつきそうな目で見てんな苗字。そんなに腹減ってたのか?」

「それもあるんだけど…私んちお母さんがあんまり料理が上手じゃなくて食事なんかは私が作ってるんだ。だけど煮物とかって味付けが難しいからつい面倒になって避けちゃうんだよね…だから久しぶりに食べられると思ったら嬉しくって」

「ええっ、名前ちゃんいつも料理してるんだ?すごいじゃない!ちょっとお母さーーん!徹の彼女料理上手なんだってーー!!」

「ちょっ、やめてよ姉ちゃん!!」

「あっらぁ!!どれどれ、まぁこの子が!?可愛らしい子じゃないの〜!!こんな可愛い子どうやって引っかけてきたのよアンタ!!名前ちゃんよね?徹がいつも煩いから覚えちゃったわよ〜。一君の方がよっぽど男らしくてかっこいいのにどうして徹と付き合ったの?」

「え……あ…っと…!?」

「お母ちゃんやめてーー!!ほんとお願いだから!!俺色々と死にたくなっちゃうよ!?息子が死にたくなってるけどいいの!?」

「勝手にしてなさい。ねえ名前ちゃん、徹っていつもどんな感じ?優しくしてもらってる?」

「どうせ徹なんていつも顔だけで勝負してるからいざ付き合うとどう接したらいいか分かんなくてから回ってるに決まってるじゃないお母さーん。どうせツンデレかましてんじゃないの?」

「姉ちゃん!?見透かしたような事言うのやめてよ!!俺恥ずかしいからほんと!!」

「うっせーぞ徹〜。名前、ピーマン食うか?」

「………え…っと……」

「及川家はだいたいいつもこんな感じだから慣れるしかねえぞ苗字」

「………」


強烈な及川家の先例にMPがゴリゴリと削られてしまった…。
だけど及川君のお母さんもお姉さんもとってもいい方で、私を気に入ってくれたのか食事中も色々と話をしてくれて、今度煮物の作り方を教えてあげるからまたいらっしゃいとまで言ってくれた。
及川君がこんな明るい性格な理由が分かったなぁ…。
私の家も色んな意味でにぎやかだけどね。
緊張したり驚いたりと色々あったけど及川君の家に来て良かったなぁ…。


2015.1.25



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