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「お兄ちゃん、ちょっと味見してくれない?」

「お。クッキーか。いくらでも味見してやるよ」

「一つで良いですよー。そう言って全部食べちゃうじゃんお兄ちゃん」

「どれどれ…んー、まぁまぁだな」

「まぁまぁか…。ちょっと堅すぎたかな…」


お皿に乗せたクッキーの山から一つ摘まみ口に入れる。
うーん…やっぱり堅い気がする。
今日は立て続けに及川君を傷付けてしまったので差し入れにクッキーでも作って行こうかと思ってたんだけど、これじゃあ及川君受け取ってくれないかもしれないなぁ…。


「それ誰かにあげんの?」

「その予定だったんだけど…どうしよう」

「……彼氏?」

「え!?あー、いや…」


なんて説明すればいいんだ…!
イケメンに告白されて咄嗟に返事しちゃって責任とって他に好きな男できるまで付き合う事になったんです〜なんて言えない!!
きっとどうしてお前はそう流されやすいんだってお兄ちゃんに説教されるはずだ…それだけは避けたい…。


「え、ええっと…まぁ彼氏、かな…最近付き合い始めて…」

「……へぇ〜…どんな奴?」

「どんなって……努力家でバレーが上手くて…い、イケメン、かな…」

「ふーーーん……」


めっちゃ疑いの目を向けられてる!!
その視線に居た堪れなくなり、ありがとうおやすみと早口で告げて兄の部屋を飛び出した。
はぁ〜…。なんだかどっと疲れた…。
せっかく作ったしクッキーはラッピングして明日学校に持っていこう。

台所に戻り後片付けをしながらぼんやりと今日の事を思い返してみたけど、やっぱりあんな風に断なんていけなかったなぁと後悔した。
あの時の及川君の驚いたような顔が忘れられない。
…冷たい口ぶりだし子供っぽいし、少し怒りっぽい。だけど私を好きだと言ってきちんと向き合ってくれる彼の姿が、本音を言えば少し嬉しかった。
あの雨の日だって…自分が濡れてしまっても私に傘を傾けてくれた優しさに今更ながら胸が熱くなる。

私も逃げてばかりでないで、きちんと及川君に向き合わないといけない。
私なんかを好きだと言ってくれた彼を、今度は私が及川君を知る努力をしなくちゃ…。



2015.1.17



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