9

「ご、ごめん。今日のお昼は用事があるから…」

「へっ、へぇ〜…。そうなんだ…なら仕方ないよね」


私の言葉に一瞬固まった及川君にもう一度ごめんと謝ると「別にいいってば」と少し不機嫌そうな声が返ってきた。

な、なんか申し訳ない事しちゃったかな…。
でも今日は図書委員の当番の日だからしょうがないんだよ、及川君……。






「……ふあっ」

「あれ、眠いの?国見君」

「…すみません。こう静かだとどうしても睡魔が…」

「あはは、だよねぇ」

「苗字さんは眠くないんですか?」

「今日はそんなに眠くないかな。読みたい本もあるしね。あ、少しくらいなら寝てていいよ国見君。時間になったら起こしてあげるから」

「んー…あざっす…」


もう半分夢の世界に旅立っているような国見君が机に突っ伏せばすぐに心地のよさそうな寝息が聞こえてきた。
相当眠かったんだろうなぁ。
図書当番が同じ日になることが多い一年生の国見君とは何度か雑談をする機会があったけどいつも眠そうな顔をしている気がする。
部活で疲れてるってぼやいてた気がするけど、一体何の部活に所属してるんだろ。背も高いしバスケ部とかかなぁ…。

図書室を見渡せば人が三人程居るけど皆安眠を求めに来ているようで国見君と同じように静かに眠っている。
こう静かだとさすがに私も眠くなってくるなぁ…。でも本も読みたいし…。
うーーーーーん……………


「……はっ!」


いけない、今寝落ちそうになってたよ私!!
あー、でもちょっとくらいなら良いかな…。10分だけ…。

そうやって目を閉じた瞬間、ガラガラと開かれた扉の音にハッと目を開ける。
だめだめだ、利用者が居るのに寝てちゃいけない…。
カウンターに人影がさしかかり、返却かなと顔を上げればなんと及川君がそこに立っていた。
こんな所でどうしたんだろう。


「及川君…」

「…暇だったし図書室なんて辞書借りに来た事しかないからさ…」

「……へ、あ…そうなんだ…」

「………そっちで寝てんの、当番の人?」

「う、うん。相当眠かったみたいだから私が寝て良いよって言ってね…」

「ふーーーん」


おおう、やっぱりお昼ごはん断ったの怒ってるのかな…。
及川君は意外と子供っぽい所があるみたいだから拗ねてるのかもしれない。
でもなんで私が図書当番だってこと知ってるんだろう。望ちゃんに聞いたのかな。

沈黙が続き、なんだか気まずい雰囲気が流れ遠慮がちにチラッと及川君の様子を伺う。
あ、うん拗ねてるねこれ。あからさまにツーンってした顔してるよ。大人げないなぁ…。
だけどその様子が妙に可愛く思えて思わず笑ってしまった。


「ちょっ、なに笑ってんの…!」

「ご、ごめん…なんか及川君って可愛いなぁって…あはは」

「かっ、可愛くなんかない!俺より苗字さんの方が……」

「え?」

「んーーー……おいかわさん……?」

「わっ!!国見ちゃん!?寝てる奴って国見ちゃんだったの!?」

「及川君、国見君の事知ってるの?」

「知ってるも何もバレー部の後輩だよ!中学も一緒だったし」

「く、国見君バレー部だったの!?」

「……なんで及川さんがここに……」


寝ぼけているのか瞼だ開き切っていない国見君が私と及川君をじっと見つめる。
そっか、国見君ってバレー部だったんだ…。
頭が揺れ始めている国見君にまだ時間じゃないから寝て良いよと言えば頷いて再び眠りに落ちた。


「練習で疲れてるんだって国見君。大変なんだね、バレー部の練習」

「まぁ国見ちゃんは特にコーチに厳しくされてるしね」

「それだけ期待されてるってことか…すごいねバレー部」

「…苗字さんはさ、バレー好き?」

「うーん、球技はあんまり得意じゃないけど…あ、でも試合とか見るのは好きだよ!長七海がバレーやってて小さい頃は試合も見に行ってたし。アタック?が決まるとドスンって落ちてすごいよね!」

「…もし興味あったら練習見に来ない?試合形式の練習とかもしてるからさ」

「えっ……見に行ってもいいの?」

「ダメだったら誘ってないよ。見に来てる女の子も多いし…」


女の子って……ああ、及川君のファンの子達か…。
どうしよう、もし見にって及川君の新しい彼女だってことが知れたら睨まれるんじゃないかな私…。
及川君のファンが悪い人たちだとか疑いたくないけど憧れの人の彼女が私みたいなのじゃいい気分はしないだろうし、せっかくの楽しい時間に水を差す事になってしまったら…。


「えーっと…わ、私試合とか静かに観戦できる方じゃないし、もし練習の妨げとかになっちゃうといけないからやめておこうかな…」

「えっ、」

「ごめん!わ、私本の返却作業があるから!」


勢いよく立ち上がり数冊の本を抱え立ち尽くす及川君の横を通り抜ける。
私のチキン野郎〜〜〜!!!
ファンの子たちに悪いなんてただのこじつけで本当は恨まれるのが怖いだけの癖にーーー!!
ああ、せっかく誘ってくれたのにあんな風に断ってしまうなんて…。
本当は前からバレー部の練習を覗いてみたいと思ってたのに。
はぁ…また及川君を傷つけてしまった……。



2015.1.16



prev next
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -