『もう、疲れちゃいました。…………別れましょう』


そう、言うだけ言って一方的に切られた電話。――彼女は何と言った?別れる、その言葉が俺の思考を支配し、ぐるぐると頭の中でリフレインされる。

(嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!!)

もう一度確かめる為に彼女に電話するが、携帯から流れてくるのは電源が切られているという機械的な女性の声だけだった。

(本気、なのか………?)

そう思った瞬間カタカタと小刻みに震え出す腕を押さえ付け、跡がつくくらい強く強く、ぎゅっと握り締めた。だらし無くソファに腰を沈め、ははっ、と空笑いが洩れる。ぽたり、と握り締めた手に冷たい感触。情けなく震える指で頬に触れて、初めて自分が泣いているんだと気付き、自虐の笑みを浮かべた。――好き、だったんだ。どうしようもなく。確かに最近は仕事が忙しかったし、デートしている時も不良に絡まれて、俺はキレてしまってデートどころじゃなくなった。これじゃあ愛想も尽かされるわなあと苦笑し、次々と溢れ出す涙を拭った。拭っても拭っても止まらない涙は俺の傷付いた心を表してるようだった。


――ピンポーン


インターホンの、音。誰だ、と思いつつもこんな涙でぐちゃぐちゃな顔を人に見せる訳にもいかないのでソファからは立ち上がらない。居留守を使おうとしたが、次に聞こえてきた声に俺は思わず立ち上がった。


『静雄さん?いないんですか?』


控えめに俺の名を呼ぶ声は、さっき俺に別れを告げた彼女の声だった。俺は慌てて玄関に向かいドアを開けると、そこにいたのは申し訳なさそうな表情と驚愕した表情が入り混じったような顔をした彼女だった。

「…………なんで…」
「静雄さん、今日は何月何日ですか?」
「4月1日だけど…………ん?」
「エイプリルフールですよ。…………別れるなんて、嘘です」


彼女のその言葉を聞いた瞬間力が抜け、目の前にいる彼女に寄り掛かった。首筋に顔を埋めるといつもと同じ彼女の優しくてほんのり甘い臭いがして安心する。

「よかった…………」
「静雄さんが最近あまり私を構ってくれないので、飽きられたと思って…………ごめんなさい。でも泣くほど思ってくれていたなんて、嬉しいです」

彼女はそう言って優しく俺の頭を撫でた。小さくて柔らかく、暖かい彼女の手が、俺をあやすように何度も頭を撫でる。ゆるゆると顔をあげると、申し訳なさそうな色を浮かべた彼女の瞳とぶつかり、俺は安心したように微笑んだ。


「構うなと言われても構ってやっから、もう別れるなんて二度というなよ」




エイプリルフール

       大成功!

(俺を騙した罰だ、今夜は覚悟しとけよ)
(…………大成、功?)

――――――――――
小話とかいいながら普通の短編より長いってどういうこと・・・
最初はシズちゃんだと可哀相かなあと思い臨也で書こうとしてましたが一応静雄メインのサイトなんでね!
というかもうこれ同姓同名の別人ですね・・・
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