桜散りゆくこの時期、今俺は中学校の入学式を迎えている。式中、寝たふりをしながらちらりと女子の方を盗み見る。まあ目的は"女子"ではなく"莉央"単体なのだが。真新しい制服に身を包んでいる姿はいつもより大人っぽく見えるが、つまらなそうに欠伸を噛み殺している姿はいつも通りで少し笑えた。莉央を見ていると飽きない。面白くていつもなら苛々してとっくにキレているだろうつまらない入学式も、比較的穏やかな気持ちで出られている。一緒に過ごしていると心が暖かくなって、自分が普通の人間のような気さえしてくる。莉央と出会った時を思い出してみた。先生に連れられて教室に入って来た彼女に一目惚れして、喧嘩したところを見られた時は流石に怖がられてもう関わらないだろうと思っていた。だが彼女は俺のことをただすごいとだけ言い、仲良くしたいと言ってくれた。本当に嬉しかった。それからずっと行動を共にし、喧嘩に巻き込んでしまったって彼女は「助けてくれるって信じてたから、怖くなかったよ」と笑顔で言い、俺から離れないでいてくれた。――俺は莉央に依存している。それは俺を抑制する枷であり、また時には俺を爆発させる火種にもなる。愛情、と呼ぶには大層歪んだ感情を抱いたりするときもあるけれど、この感情はぶつけてしまうと駄目だ。もしぶつけてしまえば、よくて俺から莉央が俺から離れていき最悪の場合は俺が彼女を壊してしまうだろう、肉体的にも精神的にも。
気持ちが沈んできたところでちょうどよくスピーカー越しの少しくぐもった声が聞こえ、思考が中断された。どうやら入学式が終わったようだ。席を立ち、さっきの考えを振り払うようにかぶりを振る。上級生のとくに歓迎もしていないような疎らな拍手に包まれながら体育館を後にした。



「静くん!」

ソプラノの耳によく馴染んだ心地よい声。彼女は俺のことを静くんと呼ぶ。理由はなんとなく、だそうだ。まあ俺も少し嬉しかったりするからいいのだけれど。声のした方へ振り向くと当然のように莉央がいて、にこにこと笑顔を振り撒きながら俺に近付いてきた。――そんな顔を周りに見せるなよ。俺は少し顔を顰ながら話しかけた。

「どうしたんだ?莉央」
「特になにもないんだけど………ふふ、静くん制服似合うね!」
「ああサンキュ、莉央もな。ところで、何でそんなに笑ってんだよ」
「ありがと!え?そんなににやけてた?」
「かなりな」
「うわあ、はずかしー…………だって静くんが格好いいんだもん。にやけるに決まってるよー」

顔を赤くして、そう素直に言う莉央。純粋に嬉しく思い、気分も一気に急上昇。自然と上がる口角を手で隠しつつ、そんな莉央を素直に可愛いと思った。

「そういうこと、簡単に言うなよ…………」
「…………静くんにしか言わないもん」

――俺、自惚れてもいいよな?





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