ぽかぽかとした陽気が眠気を誘う昼下がり、私は一人池袋の街を歩いていた。今日は来良学園の入学式だったため、まだ真新しい制服を身に纏い、軽快な足取りで闊歩する。学校初日だった為気合いを入れてセットした髪が体の動きに合わせてふわふわ揺れる。そんな些細なことにも気分を良くし、頬を緩ませて歩きながら手を突き上げ大きく伸びをした。

――のがいけなかった。

空に向かい突き上げた腕は空を切らず、ゴツッと何か固いものにぶつかる音がした。嫌な予感がする、こういう予感ほど良くあたるんだよなあ、と的外れなことを思いながら顔を上に上げると、いかにもな感じの不良達と視線がかちあった。

「あ、すみません!」

―予感的中。腕を下ろし謝ったが、流石不良と言うべきか、悪い意味で期待を裏切らなかった。

「おい。すみません、だあ?
そんなんで済んだら警察はいらねえんだよ!」

(こんなことで警察呼ばれたら警察もたまったもんじゃないよ!)
言いたい言葉を飲み込み、顔を強張らせ、戸惑うように恐る恐る声を出す。

「あの、そんなこと言われても・・・・」
「なんだ?こっちは被害者だぞ?慰謝料払えよ!」

ギャハハハと下品な笑い声が響く。流石に多人数に一人じゃ歩が悪く、俯いて悔しさに下唇を噛み締めた。黙っていると不良達の一人が私の顎に手をかけ、無理矢理顔を上げさせる。

「黙ってねえでなんとか言えよ!
ん?良く見たらこいつ結構可愛いじゃん」
「金がねえなら体で払うか?あ?」

……本格的にやばくなってきた。腕を掴まれ路地裏に連れ込まれようとする。さっきまで多少はあった余裕がなくなってきた。次第に怖くなり目尻に涙がうかんでくる。だが私の頭の中は意外に冷静だった。それだけは避けなければと、涙を堪えて捕まれていないほうの腕を動かした。

「おい!暴れんな!」

必死に動かしていると、腕を掴んでいる不良の顔に当たってしまった。やばい、そう思ったがすでに遅く、目の前の不良は怒りをあらわにした。

「このアマ…!」

不良が腕を振りかぶる。次に来るであろう痛みに咄嗟にぎゅ、と目をつむる。

―パシッと音がした。
(あたって、ない?)

恐る恐る目を開けると、不良の後ろに長身で金髪の、バーテン服をきた人が立っていた。サングラス越しに目が合う。目付きは悪いが、色素の薄い、綺麗な瞳に見つめられ、こんな状況にも関わらず胸が高鳴った。不良の拳はその人の顔の前にある。どうやらそのバーテン服の人に当たってしまったようだ。振り向いた不良が顔を青ざめる。

「あ?なんだよお前……ひっ、平和島静雄!」

――平和島静雄。
池袋に住んでいてその名を知らない人はいないだろう。池袋最強といわれている喧嘩人形。そして最も名前負けしている男。


「手前等、覚悟はできてんだろうな?ただでさえあのノミ蟲野郎のせいでイライラしてるっつうのに、わざわざ俺を煽らせるようなことしやがって…………死んでも、文句はねえよなあ?」

地を這うような低音にビクッと反応したがその次の行動にはもっと驚いた。ツカツカと歩いたと思えばそこにあった自動販売機に手をかけて持ち上げ、投げた。それは私の目と鼻の先スレスレを通って不良達を吹っ飛ばした。けたたましい音と共に自動販売機と不良達は地面にたたき付けられ這うように逃げ出していった。

(……びっくりした)

平和島静雄の噂は聞いていたが、本当に自動販売機を投げるなんて。色々な恐怖が去って行き、安堵したら腰が抜け、ヘタリとその場に座り込んでぼーっとしていると、声をかけられた。

「あー、その…大丈夫か?
悪かったな、怖がらせちまって」

困ったように苦笑しながら言い、優しく頭にぽん、と手を置き逆の手で私の腕を掴み立ち上がらせてくれた。どきどきどき、心臓がせわしなく動き顔に熱が集まる。怖がらせて悪かったな、と最後に頭を一撫でして平和島さんは去って行った。



 噂なんて

    あてにならない


(きゅん!)


――――――――――
続くかも
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