夢小説 | ナノ

Trojandeath



▼ アレッシー夢「印象派」 21.8.7


「ハ〜〜〜ァア………………………。」
 馬鹿みてーにでかい溜息を流しながら、遊園地の気味悪い着ぐるみみてーなのが背を丸めてショボショボ進んでくのが見えた。
「おい。おっさん。なにしてんだ」
 無視しようと思ったがうっかり苦手なホラー映画を弟に勧められるまま観てしまって一人でいたくなかったのかもしれねえ。勝手に声が出てた。
「オインゴ…」
 ヤツは意外そうに、海老姿勢のままこちらを見やった。

「いやな………なんつーかさ……。まあ困ってるってゆーか?そーゆうワケではねえんだけどよ…しかし多少悩んではいるかもねでもいやあの」
 もじもじと手を知恵の輪のように絡ませつつ頬を赤らめ、先程から何一つ進まない話。かわいいアイドルとかがやれば可愛い仕草だと思うが、こいつ38歳独身のオッサン。アレッシー。めちゃくちゃに気持ち悪い。吐きそうになってきて、声掛けたのメチャクチャ後悔してる。
「いいから話せよなんもねーなら帰るぜオッサンおれだってヒマじゃねえ〜んだよ、弟もいるしよ!」
 胸ぐらを掴み上げると、ヒッと短く息を吸い、ようやく話し始める。
「笑うんじゃねえぞ。あのよ………。」

「そーゆーコトなら簡単じゃねえか。協力してやんぜ(わりとヒマだし」
「!マジか?!あんがとよ!!」



「お〜〜い夢主ーッ、待ってくれー」
 馬鹿みてーに名前を叫び散らされながらこっちに走ってこられんのって結構苦痛。普通に人居るし。
 その辺を歩いてると、知り合いのオッサンが私を見つけたようで、駆け寄って来る。出来の悪いオブジェとかマスコットキャラのようなずんぐりとした体型に変な髪と変なカオ。何もせんでも目立つのに(悪い方に)わざわざ騒いでますます目立ちたいわけ?馬鹿じゃねえの。
 無視しようかと思うと、もう追い付かれた。足はムダに速いんだよね、この人…。
「夢主!ぁっあのよォ、どーせお前ヒマだろ?かいもんとかメシとかいかねえか」
 冗談だろ?なーに抜かしてんだかこのジジイ、調子ん乗ってんじゃねえぞ。別にアタシも可愛さとか(特に内面)一切無いけど、なんでアンタみてえな汚ねえオッサンと出掛けてやんなきゃいけねえんだよ。介護かよ。おカネくれても行くかアヤシイというか払って当然というか貰っても行かねえわとか思いつつ黙ってると、彼はこちらを見つめ、下がり眉している。
 こいつ、こんなカオするっけ?困っててもあんまりスナオに出ないというか、黙って汗かいてるようなイメージあったが意外。
 彼に先立って黙って歩き出す。
「ドコ行く」
「え〜〜〜と……ラーメン屋とか?」
 コレダ!みたいなツラしてるけど皆が皆ラーメンDAISUKIだと思うなよ。
「あたしラーメン嫌いでは無いけど食うの遅いし食べ切れない絶対多分。」
「えっ!マジか………(女子って何食うんだ」
 まじなんでこいつ話し掛けて来たんだろ。

***

「あ、コレもうやっときましたから!ソレも私やりますね!」
「あ、あんがとよ…。」
 夢主はよく気がつくというか、おれの仕事までやってくれたし、こんなキモイおっさんにも普通に話しかけてきた。すげえボケッとしてズレてたけど、他の奴らと違って……なんだろこの感じ。よくわかんねえ。

「あ、夢主。これ。やるよ」
 手渡したのは、色々色々いろいろ調べまくって悩みまくった末の、かわいいハンカチ。こーゆーの好きだろたぶん。わかんねえ……。
「え、…い、いいんですか?ありがとうございます。」
「こないだの礼つーか……。まあそんな。」
 おれ今ありえん程顔真っ赤、白熱灯レベルに熱い。
 ガサガサとファンシーな模様付きの白い包みを開ける。
「あ、かわいい。ありがとうございます。」
 イマイチ表情が乏しいが、コイツはいつもこんなんだ。それより感謝の言葉がうれしくて、あんなハラハラして店員に話しかけられないように、不審者とか怪しまれないように注意して買った甲斐があったぜ。
「こ…今度メシでも行こうぜ。」
「………………。」
 黙ったまま見つめられるとすげえ汗かく。コイツはよく黙って考えるからこええんだよ……。
「はい。誘ってください。」
 緩やかな微笑みはおれの何かを溶かした。


***

 彼と二人で街へ並んで歩いてくと、何やら音がする。サイレンみたいな高かったり低いのが混じったヤツ。
「キャーーーーーーーーーーッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「ぅわああぶねえっ!!」
 叫び声だ。
「なんだろ?」
 辺りを見回すと、後ろからスゴイでかい蜂の飛行音。
 アレッシーが消えた。
 どこ行った?
 人の叫び声の中、キョロキョロすると、道の端っこ辺りにそれはあった。
 変な形に青黒くなった手足、温い匂い。
 アレッシーは跳ね飛ばされたのだろう、血の温泉に浸かったように見えた。暴走車から逃げたせいで周りから人は消えてた。
「アレッシーー…。」
 瞼をこじ開ける。まだ明るいのに黒目がスゴク広がってる。次に左腕の親指の下の方の手首に指を添えるも、振動は無い。
 立ち上がり、手をリュックのポッケから出したティッシュで拭き、それを彼の『死体』に放る。そのまま特に通報もせず、私は来た道を帰った。




「あいつ、マジかよ……」


 アレッシーはどうやら死んだ。生温い匂いの血を出しまくり、瞳孔も開き、脈も無い。オマケに側に居た私が救急車すら呼ばなかったのだ、今頃どっか引っ張ってかれて、多分無縁仏的な共同墓地的なトコでシメだろう。

 空き缶入れと化した自転車達を通り過ぎ、カラスが荒らし、生ごみの散乱したゴミ捨て場を見た。さっきの彼の匂いに少し似てた。
 あー、出し忘れて溜まったプラごみ出さんとなあ。めんど。


***


「え〜〜〜と。あのォ〜ーー………………。」
「いや…何も言うな。」
「なんか…ヘンな提案してマジ悪かったす、つーかまさかあんなことになるとは思ってなかったっすほんと」
「いいから黙ってろよーーーーッッ泣きてえんだよこっちは!!!!」
 ウワ。顔真っ赤にして怒鳴るオッサンまじキモ。思わず殴りつけたくなったが、余りに憐れすぎて今はやめてやることにした。

 おれの提案した計画はこうだった。
 オッサンが、『夢主が自分をどう思ってるか知りたい』と言ったから、おっさんに変装したおれが目の前で死んだフリでもすりゃ本心が聴けるんじゃねえかと。おっさんは陰から観察して。
 まさか車がガチで突っ込んでくるなんざ思ってなくてビビったけど、咄嗟に躱し、身体を変形させて折れたように見せ、脈は脇にボールを挟んで止め、瞳孔もいじって開いといた。血は血糊と、多少は作って出した。
 アイツのことだから心配し過ぎて泣いちゃうんじゃねえの、可哀想かな、ショック受け過ぎてネタバラシして嫌われたら………とか二人でだべってたのが馬鹿みてえだ。
 あいつ、黙って無視して帰りやがった。「大丈夫?」の一言もナシ。頭おかしいんじゃねえの。流石にオッサン嫌われすぎだろ。
 一応酒少しだけオゴってやって(ヤだったがおれの提案だったしそもそも盗ったカネだし)なんとか宥めたりすかしたりしてアレッシーを帰した。
 あいつ、アレッシーと結構仲良さげに見えたし優しい大人しいだけの奴だと思ってたが、おれが今まで見てた夢主は一体誰だったんだろう?





end






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