夢小説 | ナノ

Trojandeath



▼ ギアッチョ夢 子どものギアちと遊ぶ 21.7.28

「やる」
 手の平に、一個ずつねじったプラ紙に包まれた一口サイズの四角いチョコが3つ置かれる。
 声の方を見やれば、そこには私の腰ほどの背丈しかない男の子が、チョコの大袋を持ち口を弓なりに沿わせている。
「どうもありがとう」
 ポンポンとソファの隣を叩くと、察した彼が座り込む。
夏の陽射しに照らされた彼の髪はフワフワと氷のようで涼しげだ。顔を赤くしているから冷やした麦茶を持ってきてやると、小さく「アリガト」と俯きがちに呟く。
 彼が袋からチョコを一掴みし目の前のテーブルに出し、一つ口に入れる。私も合わせて包装を解く。
「美味しいね、ありがとう」
「ん………。」
 麦茶を飲んでもまだ顔の赤い彼は、まだ暑いのか俯いたままだ。
 暑くて部屋の扉を開け放していると、玄関の前に誰か来たのが聞こえる。すぐにピンポンが鳴り、私はドアを開けた。
「あら夢主ちゃんありがとうね。ホラギアッチョ帰るよ!!」
 彼女は可愛いギアッチョの腕を乱暴に引っ張り、そのまま再びそれじゃあありがとうねー、と半ば叫びつつ外へ消えて行った。
 玄関で見た彼はこちらを見つめ、何か言いたげであった。



「あの女!どうせアタシのこと馬鹿にしてんでしょ地味なくせして!クソが!!!」
 胸まである巻いた髪を散らし、バッグを床に叩きつける。
「どうせ碌に働いてもないクセに………」
 この人がこうなってるとき、心臓が静かにバクバク動いてる。動くこともできず、ジッと固まって目立たないようにしている。
 この人はなんなんだろう。なんでいっつも怒るんだろう。
「ハァーーーーーーーーー……。」
 大きなため息が聞こえると、身を固める。なにかおれが悪いことしたんだろうか。足音がうるさかったのか。チョコをねだったのがダメだったのか。そもそも邪魔なのか。
 いつものようにあの人はソファに寝そべり、目を瞑った。
 おれはどこへ行けばいいかわからないから、そのまま絨毯に座ってジッとしてた。

「アンタはいいよねえ!外に遊びに行けて」
「遊んでない、働いてんだろ」
「あんたばっかりいっつも。ズルい」
 父さんがご飯を食べるとき、母さんはいつも怒ってる。よくわからないが、いつも怒られる父さんはかわいそうだと思いながら部屋へ戻った。
 そもそもあそこのジイさんが独り占めして……、おれにそんなこと言うな、と聞こえたが、なんのことかはわからなかった。



 ギアッチョくんとこはちょっと遠めの親戚だ。
私の父方の祖父がこないだ89だかでin病院にてメシをノドに詰まらせくたばったのだが、兄妹が沢山おり、その更に子供がギアッチョくんの父親なのらしい。
私はこうゆー血縁関係の話を聞いてもサッパリ分からないから嫌いだ。

「いつもゴメンねえ。これみなさんで召し上がって。」
 手渡されたのはタテヨコ30cm程度の白い箱。リボンの模様がつき、可愛らしい。
「それ、クッキーなの。甘いの食べれる?」
 はい、と答えると、苦笑いしつつ彼女は返す。
「ホントは私がみたいんだけどね、忙しいから…。それじゃ、また後で来るから。大人しくしてるのよ!!」
 最後だけ怒気強く、それは自分の子に向けられていた。
 いつも綺麗にしてるししっかりしてて私とは大違いだなあ。働いて家事もしてってバケモンかよ。
 扉が閉まるのを見届け、くるりと振り向き、視線を落とす。
「今日は何して遊ぼっか」



「あんたがもっと稼いでくればアタシはあくせく家事したり働かなくて済むのに!役立たず」
「違うだろ!」
そもそも……、と怒鳴りつける母さんとイマイチやり込められてる父さんを、端っこからじっと固まって見ている。
「そもそもあのジイさんが保険金と土地代独り占めするからアンタのおやじもビンボーだしアンタもろくでなしのかいしょーなしなんだろ!クソジジイ!!!」
 父さんはイラついてるけどもう何も言わないで、だまって食べてとっとと自分の部屋に戻った。
 リビングにはビリビリした母さんとおれだけが残された。あの人は相変わらずタメイキをつき、ふて寝してる。
 おれは、今日お姉ちゃんとトランプして遊んだことを思い出していた。



「それにしても立派な家よねえ」
 はあ………、と曖昧に返す。言ってもウチの家ってより祖父のなんだけど。しかも元々住んでたとこが近隣の飛び火で燃えちゃって、割りかし良い土地だったからそのお金で建てたらしいっていう。このことで「焼け太り」という単語を覚えた。
「ウチもこんなんだったらねえ。ウチの主人じゃとても無理だけど。」
 それじゃあ、と言って彼女は去ってゆく。ふと横のギアッチョを見ると動かずに母親を見ていた。
「こないだトランプしたし、今日何しようか?こないだねえジェンガ買ったんだ!」
 小さな手が震えながら木のパーツをつまむ。眉間にシワをよせ、口を固く結ぶ様を見てるとどうにも笑いたくなるが堪える。
 ようやく上に積み終えると、塔はグラグラと揺れた。彼は目を見開くも、いずれ静まった。
 さてどこから取るか。虫食い穴だらけの塔はどこを取っても崩れそうに見える。ぐるりと見回し、位置をズラしてゆっくり引き抜く、と………。
 水満杯のバケツをひっくり返したような音でジェンガは崩れ落ちてしまった。バベルほど高くはないが神の怒りに触れたのかもしれない。
「ああーーー!!!!」
「姉ちゃんのまけー」
 彼はニカッと頬を吊り上げて言う。言語は壊されなくて良かった。
「ほんとどんくせえなー!」
 小学生にケタケタ笑って馬鹿にされるのはなかなか楽しい。
「負けちゃったあーもう」
 何度も飽きるまで繰り返し塔を壊して遊んだ。
 次の日は公園で砂遊びした。
「あっ、ズリーぞ!今刺しなおしたじゃん!!」
「ちっ、ばれたか」
「やりなおし!ズルすんな」
 棒倒しは大変白熱した。案外真剣になってしまい大人気はなかった。
 ブランコを後ろから押してあげると彼はわーわー言って喜んだ。
 帰るとポケットから何故か砂がザラザラ落ちて来てびびった。服に虫もくっ付いててキレた。



「ねえ、人に失礼なこと言わないのよ。人の悪口言ったりするのもだめ。」
 じゃあ自分がいつも父さんにおれに言ってるのはなんなんだ。
「母さんはいいの?」
 聞くなりまたギャアギャアさわぎ出すから公園を思い出して気にしないことにした。



 河川敷の側の草原、座り込む人。蒸し暑いながらも風は通り、長い草を波のように揺らす。
「はいでーきた」
 戴冠式宜しくギアッチョくんの頭にシロツメクサとアザミで編んだ冠を載せる。
「………………………。」
 黙りこくって上を見つめている。手に取り、しげしげと眺める。気に食わなかったのかなあ……。
「これ……おれも作れる?」
 もちろん!そう言って二人で山のように輪を生産した。雑草に魂があったら地獄行きなレベル。ネックレスもブレスレットもできた。忘れてたからわざわざ作り方をネットで調べてよかった。
 陽がゆっくりと落ち始め、山の上ではピンクの雲が輝く。ただなんとなく眺めていると、彼の視線を感じ、意識を戻す。
「なあに?」
 暫く黙ってから口を開けた。
「なんか……怒ってる?」
 彼の顔はいつもより険しいというか、身体にも力が入っている。
「まさか……なんで?楽しいよ」
 それを聞きほっとしたように肩を下ろす。
「なんで怒ってるって思ったの?」
「………母さんも………………」
「母さんよく黙ってイライラする…。」
 彼の視線は下の草辺りに落ちている。フワフワの髪を撫でる。一瞬驚いたようだが黙って目を閉じ、頭をこちらへ近付ける。
「ギアッチョくんといると私楽しいよ。大人になったら親なんか必要なくなるしね…。」
 うっかり後半ややトーンが下がってしまった。
 ぎゅっと手に何か押し付けられる。花輪だ。私の手に通そうとするも、彼が自分に合わせて作ったものなので幾ら顔を赤くして踏ん張っても嵌るはずもない。
「もっかいつくる!」
「でももう暗くなるよ。帰らなきゃ」
 先程までピンクだった雲は薄紫へ見る間に移り変わる。彼は渋っていたが、お母さんに怒られちゃうよ、と言うと大人しくなった。家までギアッチョくんは余り喋らなかったが、柔らかい指を伸ばして来たから手を繋ぐ。
「姉ちゃん…おれのこと好き?」
 ポツリとディミヌエンドに消えそうな声が鼓膜に拾われる。
 顔を覗き込むと目を細くして口は三日月に似て、目を合わせようとしない。
「当たり前でしょ、何言ってんの」
 私を映す瞳は水色に反射していた。



「ばあさん、アタシに派手好きだって。ガキの面倒も自分で見ないだって、クソだもう死ねばいいのに……」
 母さんは自分で言ったことも忘れてばあちゃんやじいちゃんや父さんの悪口を毎日おれに言って聞かせる。
父さんは自分のことしか考えてない、何もしてくれないし手伝ってくれない、全然おカネも稼いでこない。
「あんたは私と一緒だよね……置いてかないもんね」
 大好きだよ、世界でいちばんいちばん大事。そう言って抱きしめられた。

「友達と遊んでくる」
 寝ている母さんに言って、自転車で風を切った。




 突然の電話に慌てて出ると、ギアッチョくんのお母さんだった。
「そっちにギアッチョ行ってない?!」
 最初からボリューム全開な声に軽く離したが、いえ来てませんけど……そもそも今日はバイトだったし、と言い切る前に
「いつの間にかいなくて帰って来ないのよ!!!」
と怒声のような音が響く。時計を見ればもう20時で、あの子がこんな遅くまで帰らないとは思えない。
「ケーサツにはもう連絡したけど………もうッ………………!!」
 明らかに混乱した様子で、なんと言おうか考えると、尚も何か喚いている。
「父さんも全然心配してくれないし…帰ってこないし………ババアが聞いたら私が悪いってまたアタシのせいにされる何でアタシばっかりなんで」
 何でなんでと繰り返す様は壊れぇかけのォrecord〜ってカンジだ。
「とにかくっ何かあったら連絡してね!!!!!!」
 言うなりブッッと切れてしまった。何処へ行っちゃったんだろ?もしかするとウチに来るかもしれないし、けど探しに出た方が良いのかな……。
 一晩中待ったが、彼が訪れて来ることも続報も何も無かった。
 翌日9時頃、着信音で目覚めると、ギアッチョくんが見つかったと言う。すぐ準備して家を飛び出した。








 辺り一面白い壁、空調が利き外よりは遥かに過ごしやすい。
 目の前のベッドには少年が寝ていた。腹部は少しも上下しない。脇では母親が泣き、父親は俯いて動かないでいる。
大変な時なのに、良くしてもらったからと、母親がすぐ私も呼んでくれたのだ。

 彼は川で発見された。あの、私と行った場所だった。午前5時頃、早朝にランニングしていた人が川に浮かぶ彼を発見し、引き上げた時既に息はなかったという。飛び出した岩に引っ掛かり遠くまで流されずに済んだのだと。
警察へ届け出ていたのと、近くに止めてあった自転車の防犯登録から彼だと分かったのだそうだ。
 彼女に何か声を掛けたかったが今がいつで現実なのかよく分からず思考が回らない。ドラマとかだと白い布掛けるけどそういうのはないのかねとか下らないことを考えた。色々話しに来た看護師は人の死に大して興味も無いようだった。
 よく見ると横の低い棚の上に、濡れた花輪が載っている。丁度私の手首に巻けるくらいだ。
 これ……と見ていると、お父さんが察したのか語ってくれた。
「それ、ギアッチョが見つかったとき握りしめてたんだよ。あの辺りに生えてる草だったから、………そんなの作りに行ったのかな…あいつ」
 後半は私への語りかけというより半ば自答のようであった。

 なんで、なんでえと繰り返すお母さんと何も言えないお父さん。
 私と言えばあの花輪は私のモノなようだから貰ってっていいのかしらなどと考えていた。
 外はまだ眩しく、冷たい麦茶を飲みたいような照り返しだった。






★end ★





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