夢小説 | ナノ

Trojandeath



▼ リゾット夢「Sweets」 21.7.9


「体力ねーなァこれだから新人はよォ!!なってねェ〜〜〜んだよ!!!!」
 偽物のような青空にギアッチョの怒声が弾けたが私は相変わらずくたびれたぬいぐるみのように半ば横になりつつ道の脇にへたりこんでいた。
 トレーニングで走り込みをしていたのにすぐ動けなくなってしまったのだ。
 元々運動神経は死滅してたが体力はそこそこあったハズなのに、この頃とても怠く、頭も肉体ももやに包まれたようで使い物にならず、したいこともロクに出来ずイラついてた。
 そこへリゾットが近付く。
 と、視界が突然持ち上がり、遠くまで見えるようになる。脚もブラブラして安定しない。何だなんだ?
 焦って首を回すとすぐそこにリーダーの顔面があり恐ろしく叫びそうになるも「ヒッ、」と息を鋭く吸い込むだけで堪えた。(偉い)
 怒られるかとヒヤヒヤしてると、彼はそのまま何処かへ歩き出す。
「えっ、えっリーダー?自分で歩け」
「いいから黙っていろ。」
 シャッター閉店ガラガラー!並に勢い良く閉められてしまい黙って大人しくドナドナされた。
「何だありゃ、今時お姫様だっことか………女子も引かね??」
 イルーゾォが怪訝そうに離れて行く二人を見る。
「リーダー案外堅物に見えて天然なとこあるしな…。」
 メローネは端末から目を離さず淡々と述べる。
 残された彼らは思い思いの予想をしつつトレーニングを再開したりサボって殴られたりした。


 ボフッ。
戻って来たのはアジトだった。仮眠用の白いベッドにやや乱雑に横たえられる。枕を他人と共有したくないからタオルくらい敷きたかったが手元に無いしリーダーも何も喋らなくて怖いしで我慢することにした。
「お前…」
ハヒィ。
豚ですわたくしめは薄汚い家畜ですトレーニングすらまともに行えず誠に申し訳ありません家畜は畜生らしく保健所にでも行きますブヒィと思ったが殴られかねないため心に留めた(再度偉い)。
「肉は食ってるのか。」
アヒィ。
何のことかサッパリパリンコですが飼料は摂っておりますウヒィ、あ、そこにウヒが………(牛
「ぁ、ははい……。(?)」
 副作用で食欲落ちてない時はちゃんと食ってるし。
「変なダイエットなんかはしていないだろうな。」
「し、してませんしてませんッ」
 何やら分からんが怒られるのを予感し強めに否定しといた。
 リーダーはいつもするように腕を組み顔の辺りに手をやって何か考えている。

「お前のはおそらく鉄不足だ。」
「その体力と気力の落ち方、端から見てもわかる疲労……。いつも見ているからわかる。」
「何をですか?」
「鉄分の足りなくなったヤツらをな。」
 ああそっちね。そりゃそうか。
「お前が使いものにならないと邪魔でしかない。今日から食事と生活の指導をするからキリキリやれ、いいな。」
 あれ?

 その日から肉や魚などタンパク質を重点的に、野菜も食べること(レバーは不味くて全然食べれなかったからナシになった)、それだけで足りないから鉄や亜鉛の薬剤を飲むこと。加工品は吸収を妨げるためなるたけ摂らないなど細かく決められ、毎食の写真と内容をリーダーに送ることになった。正直病院に任せた方が良いと思う…。
「1日2食?ふざけているのか」と言われ恐ろしかった。早起きして3食摂ることも約束させられた。そもそも食事にそこまで興味が無いため辛かったが時にリーダーが抜き打ちで検査しに家に来て怖いから辞められなかった。
その時「これならお前でも食べられるだろう」と貰ったレバーペーストをパンに塗ると、レバーそのものよりは食べやすかった。
「どうだ」
「…ぅーん…レバーよりは食べやすいです。ありがとうございます」
 彼も対面に座り同じものを食した。ハッキリ言って仕事の怖め上司と食事なんてノドを締められてるカンジだが、どうやら怒ってはいなそう?となんとか水で流し込む。
目の前の彼を見ると私の3倍速くらいで食べ進んでおりびびる。一口がそもそもデカくて、パンは見る間に消えて行った。
「……どうかしたか」
ウッカリ目が鉢合わせし冷汗、何でもありませんと即座に返す。
この頃からリーダーがうちに来て食事を共にすることが増えた。

 ある時料理にも興味が無いと口を滑らすと彼が作ってくれた。怒られるかとビクついたのを申し訳なく思った。
肉と野菜の簡単なピリ辛炒め物と野菜スープで、美味しかった。
「リーダー、いつもありがとうございます。ほんとに……あの……………。」
「一人で食べるのってあんまり集中出来ないし美味しくないからあんまりどうでも良かったんですけど、リーダーが来てくださるようになってから……あの…えーと(何言いたかったんだっけ?何処まで話したかなあっそうそう)食事が美味しいです。」
 彼はこちらを向いたまま暫く黙っていてやはり怒ってたら(略)と怯えてると、やっと貝柱を切り口を開く。
「それはよかったな。」
 いつもの眉間のシワが薄らいだように見えた。


「リゾットさん。」
の後は、コンソメ幾つでしたっけ、書類の確認お願いしますなどが連なる。
 いつの間にか私はリーダーを名前で呼ぶようになっていた。普通ならこんなことは絶対無い。仕事の人は『仕事の人』で、目上の人には敬語確定周りの人の呼ぶように敬称で呼ぶ。
 いつも器があるように、そこに嵌るように決まりきった形式を保つのが精一杯だし、変えたいとも思わない。そんな私が。
 うまいか。はい、おいしいです。そんなやり取りを繰り返すうち、何か狂ったのかもしれない。お互いに。お互いというのは、彼もいつも凍り付いたような顔で眉間に影を付けているのが、私との食事中和らぐことが増えたように見えるからだ。
 しかし、私は他人の考えがいつも読めなかったし、本当に怒ってないのかも分からない。他人はいつキレ出すか分からないからいつも緊張してるけど、リゾットに対してそう考えることも本当にウイルスレベルの目視不可な小ささで変化してきてる気がする。私が私じゃ無くなるようでそれが何だか妙に怖い。

「体調はどうだ。体力はついてきたようだが」
 良いですと返すと、そうかと納得したように言い、短いショットグラス?入りの何かよく分からないお酒を含む。
 テーブルには温かいスープとサイコロステーキと付け合わせ野菜が並ぶ。良い匂いがする。
「お前の書類は丁寧で助かる。他の奴らのはいい加減だったり判り難かったりでなかなか大変でな」
 肉を口に運びながらそう言うと、フッと目を細め、何か思い出すように笑う。あのリーダーがこんな風に笑うんだなあ。別人みたいだと新鮮な気持ちになる。
「……あの。」
 私もつられてちょっと浮かれてフワフワしている。
「前から思ってたんですけど。リゾットさんがお父さんだったら良かったなって、よく思います。」
 恥ずかしいから少し俯きつつ、しっかりしてるしちゃんとしてるし…と続け、彼に視線を移すと飲みかけた水のグラスを机に置き、動かない。
 しまった、また何か人の嫌がることを分からずに言ったのかもしれない。そうだよな、嫌われては無いと思ってたけど単なる部下から父親に、とか言われたらフツーにキモいよな。どうしよう。
「あ、ぁのごめんなさい、違くて……。」
「オレはお前をそんな風に思ったことはない。」
 バシリと叩かれるように言ったきり、彼は口を開かなかった。私はずっと口からステーキを戻しそうだった。

 あれから一度も彼とは食事をしていない。血液の数値を見せた時、これだけ良くなれば心配ないだろうが、食生活は変えるな、慢心するなと言われたくらい。
 突然一人の食事に戻り、ぬいぐるみを置いてみても何だか物足りず、そこらの本やTVに気が散って食べる気がしない。お腹が空いてるハズなのに興味が無い、そんなだった。
 リゾットは職務中何も態度を変えないが、それも、何も言ってこないのも却って怖い。紛らわそうと他のメンバーを試しに一通り順番に誘ってみるも、良く考えれば私は他人との食事は緊張するタチで、特に対面なんか有り得ない、せめて横にしてってくらいだし、TVとか音楽とかbgmが無いと気まずいわ咀嚼音が気になるわハナシも合わないわ(というか常識から擦り合わない)で散々だった。
 思い返すとリゾットとの食事は怒られたらどうしよというオソロシサで固まることはあっても、向いに彼がいるのにそこは最初から気にならなかったし、彼の意向で食事に集中するようにとTVも点けなかったが不安は感じなかった。会話があっても無くても、いつもは黙ってることに耐えられず何か話さなきゃどうやって何を?分かんないよ助けてー(会話力無)となるのに自然だった。何でだろう。

 正直、今の状況はあのセリフのせいに決まってるから撤回して謝れば良いのかもだが、本当にそう思ったのだから嘘吐くわけにもいかない。だってほんとに思ったんだから。
 彼は「そんな風に思ったことは」と言ったが、私のことはどう思っていたんだろう。私を見て何を考えてたんだろう?真面目な人だから正そうとしてくれたのかもしれないけど、やっぱり今も怒ってるかどうかすら分からなかった。
 段々、職場に行こうとしたりリーダーと連絡を取ろうとすると吐き気がするようになってきていた。
 食べないとと思うが働いて疲れて更に料理、後片付けは無理過ぎる。生活能力の低さにより、諸々の水準が元のレベルに低下しつつあった。シャワーも大変で、3日に1度なんてのもザラだった。皆に迷惑は掛けたくないけど私は事実として物理的な無能だから居なくても平気な気がするし、もう仕事を辞めたい、それが許されなければもう全てを終わらせたい、それしか無い気さえする。
 彼にあんだけ時間を使わしてこれがオチ、また全部ジグザグに切り裂き後ろに何も積み重ねられない、全てを壊すだけで何も得ない自分のままだったんだと再認識した。


「夢主。ちょっと来い」
 アジトの廊下でリーダーに呼び止められる。
 いや、ええと、と咄嗟に断ろうとすると、来い!と腕を引かれ、リーダーが事務作業する部屋へ引っ張ってかれた。痛くはないが何があるのか、脳をキリでつつかれるようだった。
「ここのところ食事の経過を送っていなかったな。その様子…また適当な食事で済ましてるんだろう」
「………。ごめんなさい。」
 申し訳ないわ叱られたくないわで顔を上げられない。
「リーダーにあんなに色々していただいたのに、あの………すみません、ごめんなさい。」
 深々と頭を下げる。
 姿勢を直すと少し驚いたような顔があった。
「あの…リーダー?」
 彼はハァッと息を吐く。
「別にオレは謝罪が欲しい訳じゃない。ただお前の…部下のケアをするのもリーダーの務めだからな。」
「……この間は失礼なこと言ってすみませんでした、ずっと謝りたくて………」
「?何のことだ」
 父親のくだりを説明する。
「ああ、あんなことか…。別に謝る必要はない。そもそも怒ってなどいない」
 じゃあどうしてあの日から………とは聞こうとしても口が開かなかった。



 別にオレは夢主のことは娘のようだと思ったことはない。部下としてだけ見ていたと言っても嘘になるだろう。あいつとの食事は満たされるものだった。
 しかしあいつはオレを肉親のように思っていたらしい。認識の相違は仕方が無い。あいつの望むものをおれは与えられない、オレの望みを夢主に押し付けることも出来ない。
 離れるのが両者の得策だろうと、充足した時間を捨てた。
 あいつはオレを名前で呼ばなくなった。そういうことだろう。欲しい物は手に入れる最大限の努力をするが、カネも復讐も。
 夢主にそうする気は起きなかった。



「リーダー。あの……。」
 なんだ。いつもの変わらない落ち着いた声がそこにある。
 また一緒にご飯を食べませんか。言いたいけど、彼の負担にというか嫌な思いをさせたらどうしよう。以前と同じように穏やかな時間が流れるとも思えない。上手く話せるのだろうか。


 食器が皿に当たる音だけが響く。話し声は一つもない。
 胃が締め付けられるようで、全然喉を通らない。
「……うまいか。」
 前もこんなやりとりした気がする。
「はい…。」
 彼の声はやっぱりずっと聴いてたいような心地がするが、それは私に向けられてなくて良い。ずっと居たいと思ったけど、それは今の私でも彼でもないと思う。もうやめようと決めた。


 それから、夢主はまたリゾットにメールで食事のデータを送るようになったが、あの温かい時間をお互いが求めても、二度と戻ることはなかった。




end




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