夢小説 | ナノ

Trojandeath



▼ チョコラータ夢「誰も知らない」

男性がベッドに横たわっている。
こちらに気付くと、口角を上げ、子供のような、無垢で純真な笑顔を向けてきた。
そうすると、私は、たまらなくぶん殴りたくなるのだった。
それじゃ足りない。
鉄バットと、焼きゴテと、万力と、たばこと、ペンチにミンチ器、なんでもぜんぶでメチャクチャにしてやり、全身二目と見られないようにずたずたにして、ぶっ殺してやりたい。
常々そう思ってはいるが、その勇気がないのだった。


《誰も知らない》


彼だって、ずっとこうだった訳ではない。
以前の彼を一言でいうなら、『極悪人』である。
超ウルトラスーパーの。
そのクソでクズなサイコパス男は、チョコラータといった。
彼は、生き物は、いや人間でもなんでも殺してもいいと思っており、実際見境なく手にかけた。
私は、正直あんまり人を殺してまわるのはどうかなと思ってはいたが、彼の、他人を気にせず自らの(クソな)信念を貫くというか、「自分を信じる」という迷いのなさが私には足りないもので、憧れのようなものを感じていた。
彼は「自分がどうしたいか」を一番に考えており、セッコ以外の他人にはあまり興味がなかった。
私のこともいちいち介入して来ず、快適だった。
それで、ずっと一緒にいたのだ。

でも、ジョルノ・ジョバァーナ。
彼のせいで全てが終わった。
チョコラータは、彼に原形を留めないほどボコボコにされ、瀕死になった。
でも、べつにそれはいいのだ。彼は、そうされるだけのことをしてきたから、当然の報いだと思う。
問題はそのあとだ。
彼は、全身ぼろきれみたく、いやそのものになっていたのに結局死ななかった。生き延びやがったのだ。
ゴキブリよろしくの生命力で。ホイホイされればよかったのに。
脳には重い後遺症が残っていた。

それで、なんにも考えられない赤子のようになった彼と、私は取り残された。
以前はわたしに散々イヤガラセをし、いじめてきたのに、いまではヘラヘラとにやついてくる。口から涎を垂らして。
悪いことも、何にもわからなくなった。何も考えられない。
身体の傷が少しずつよくなってきても、おかしくなってしまった脳は戻らない。もうどうにもならない。取り返しがつかないのだ。
私は、彼が「生きていてよかった」と「死んだ方がよかった、マシだった」を行ったり来たりした。
彼は、いま、私がいないと生きてはいけない。
時々本当に逃げたくなる。彼を置いて。
だけどもそれができない、見捨てられない。

「夢主」
彼が私の名を呼んだのだ、となかなか気付けなかったのは、普段、そんなことをしないからだ。
名を間違えて呼んだり、滑舌がハッキリしなかったり、焦点の合わないことが殆ど。なのに、今の彼は私をしっかり見据え、明瞭に声を発した。顔つきがふだんの赤ん坊のようではない。
どうしたのだろう。
まるで。以前の、健康だったころの彼みたいだ。
手招きをし、私を近くに寄せてから、彼が言った。

「お前はもう、ここに居なくて良い。何処へでも行け」

それだけ一気に言ったと思うと、またベッドに倒れ込み、眠りこんでしまった。
私はそのまま暫く凍りついた。
彼の、全然使えなくなった身体や、こわれた脳の牢に、ほんの僅かな正気の彼が閉じ込められていたのだと分かってしまったからだ。
私はこれで、彼を殺してしまうことも、逃げることもできなくなった。


やはり死ぬまで面倒をみよう。そう珍しくハッキリ決意した一週間後、チョコラータは好物をのどに詰まらせ死んだ。
その後夢主がどうしたかは誰も知らないと言う。







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