夢小説 | ナノ

Trojandeath



▼ アレッシー夢「淋しい熱帯魚」 21.1.22


カーテンを閉めても隙間風を感じるようになってきた。
外には白い層ができ、向こうへ開くタイプの窓を開けるとそこだけ削れた。これでも近年雪が随分減り、窓が埋まって真っ白くならない。明るいしあまり雪掻きせずに済むのはいいが、少し物足りなく感じた。

「アレッシー。起きてよ。いつまで寝てんの老人が」
重ね掛けした毛布の下敷きになったまま、丸まって動く気配がない。
ドシンと横を蹴ってやると、呻いた。
「オラ起きろ!冷めるだろ」
ほぼ自分用にというだけであっためた昨日の残りのなんか豚肉とキムチとモヤシを味噌とかなんかでアレしたあれが刻一刻と座卓テーブルの上で冷めていく。
この時期はラップをしても、沸かした湯も全てがスピードスケートのような速さで温度を損なった。いちいちレンジであっため直すのは面倒だ。
「ギャッ!」
ともンァ"ッともなんとも判別できない断末魔でどうやら目覚めたらしい。
私の両手は今まで彼が包まっていた毛布×2でモフモフし、あったかい。やや重いけど…。羽布団は二人とも使ったことがないから買ったことがない。軽くて保温に優れるらしく気になるが洗濯できないっぽいのはいただけない。
「うぅっ………。夢主!おれをこっ殺す気かよ!!????!こんなクソさみーのに………っ」
パーカーの袖をさすり寝起きのいつもよりもっとブスな顔でやっと身を起こす。
私は構わず座卓に着き、彼を無視して先に食べ始めた。まだブツクサ言いつつ、アレッシーも漬物を摘む。
TVがどっかの政治家が辞職したとか、住宅地に猿が出たとかごった煮の情報を垂れ流す。平日の、朝のニュースをとっくに終えてしまったTVはやる気がなく、他に観れるものはない。だけど人といて無音で食事を摂るのに耐えられず、こうして点けっぱなしにしていた。
私も彼も、時々TVに視線をやりつつ隣で飯を食った。
「ごちそーさん。」
手を合わしてから立ち上がり、食器を流しに置く。彼が先に食べ終えるのはいつもで、私はチンタラしているのだった。
「おれ、ジャンプ買ってくるけど。なんか買ってくるもんあるかい?」
スッカリ目の覚めたらしい彼は今日が月曜だとちゃんと分かっていた。私は正直忘れてた…。
「ぅーん、あー、えーと、……ないかな?あっいやーまだ牛乳あった?け、なかったら2本くらいヨロ」
「おぅ」
そう言って冷蔵庫を覗いてから、ださい財布を尻ポケットにぶっこみ、コートを着込んで出て行った。
こっちはのったら食い終わり、あー皿洗わないとな……と思うと少し腹痛がしたがすぐに終わった。

その後は皿を洗い、二人でジャンプを回し読みし、私は図書館で借りた本も読み、今日は彼が飯を作り、そのまま眠った。

〜〜
火曜日。
「お〜〜い夢主。お前寝過ぎじゃねえのォ?いつまで寝てんだよ。えらくないねェー〜〜」
視界が薄赤くなり、実在なようで曖昧な世界が突然途切れていなくなる。光で真っ白い外が見え、カーテンが開けられたとわかった。
割と意識は覚めたがなんだかムカつき、毛布を頭までくるみシカトした。
「あっ!おいてめー隠れんな!!ぅりゃっ」
昨日の仕返しか毛布をひっぺがそうとしてくるから、そのまま毛布ごと蹴り上げてやった。
「ぐえぇっ!」
完全にシャッキリした私は文句を付けてくるアレッシーを放置し、うがいをして専用のブラシで舌を磨く。こうしないと口の中がベタベタした感じで嫌だからだ。
台所のキティちゃんのなんかコンビニとかスーパーのシールを集めるとゲット?とかで貰った時計は、もう12:51を指していた。
なんでこんなに寝ちゃったんだろう。流石に12時前には起きてることが多いんだけど………いつもと同じくらいの時間に寝たはずなのに?

「おれ今日仕事だからな。」
今日はアレッシーが用意した食卓に着く。
「何時だっけ?」
「……えーと…5時からだから〜……帰りは………遅くて8時とか?」
彼の仕事はよく知らないが、とにかく日程も時間も不安定で、完全出来高制みたいな感じらしい。詳しく聞こうとすると困った顔をするしこの人は嘘が得意じゃなくて、あんまり足りない脳を迷わせるのもなとそのままにしておいてあげている。
「ふーん、あったかくしてきな」
「言われなくても」

私もバイトでも働きたいのだが面接で落ち、受かっても全く続けられずで、ほんの少しある貯金が私の全財産だった。履歴書にも社会にもイライラした。
ちゃんと?何がしかで賃金を得るアレッシーは凄いなと思った。(スーパーとかの店員にも思うけど)

彼を送り出し、先日落ちたバイトを思い出しては死ねっと思うとまた少しだけ、弱い腹痛がした。トイレに行くとああまたかと納得した。昨日手帳を見たが確かに先月もこの辺だった。
余り痛くなくて良かった、いつかは酷く体調を崩して大変だったと実家に居た頃を思い出した。あの時は何故か酷い痛みと吐き気で寝込み、大変だった。

これぐらいなら全然平気、まだ14時だしスーパーに食材と生活に欠かせないニベアを得に行った。
外は痛いくらいで、家の中との気温差で死にかけた。
スーパーは物体と音と光が飽和して、フラフラものを集める。
レジ列に並んでいると、珍しく早めの時間帯に行ったのに割と混んでいて、並ぶ人々に店員さんは大変だろうなと考えると店員とお客が全て頭に入ってきて自分が注目されているような気が、気だけし、脳が硬直する感じがしたが平静を保った。

所々凍った路面特に横断歩道の白いとこに注意して帰宅し、何作ろうかなー味噌汁とテキトーな炒めでいいかなと冷蔵庫に食材を詰めていると、なんだか段々腹痛が増してきた。
なんとか詰め終える頃には蹲っており、すぐ痛み止めを飲んで横になる。息が夏の犬のように短くなり、微妙な吐き気が続いた。まさか痛み止めのせいじゃねーだろーな、いやこんなすぐ効くわけないと打ち消す。
横になり毛布に包まっていると薬が効いてきたのか段々気付くと楽になったが、立ち上がると目眩のようになり、とても動けなかった。どうしよう………。
窓を見やると外はもうとっくに暗くなっている。冬の陽は短いから、16時でもう薄暗くなり始め、枕元の緑の気に入りの腕時計を取ると18時48分。まだ彼は帰ってこないだろう、LINEでお弁当でも買ってくるように送ろうかと考えると玄関で扉の開く音がした。
「お〜い夢主、帰ったぞーー………夢主?いねーのか?」
「アレッシー…。」
「ん、あれ?どしたんだよ。サボりかあ?」
「ごめん、ちょっと体調悪くて……ごはん作れてなくて………。あのね」
アレッシーには悪いがまた外に出て何か買ってくるか、少しある冷凍のなんかを食べるかにして貰おうかな。多分彼は今から料理はしないだろうから。
と言おうと思ったが、間。
剃刀で切ったような停止、流れてはいるのに止まった空間があり、話せない。
この寝たままの体勢ではあまり彼の顔が見えないが、外の寒い空気と共にいつもの加齢臭がする気がする。
彼の口がやっと動き、空気を振動させる。

「………………ハァアァァア??!!!!!おれ頑張って働いてきたんですけど!!!???おめーはずっと家でゴロゴロしてただけじゃねーか!こんな寒い中帰って来たのにメシもねーのかよ!!!ったくなんだよもう!!!」
舌打ちまでされ、私は動かなかった。よく知ったものが側にある。私はこれをよく見たことがある。
毛布の中で、ブツブツ言いつつ彼が恐らく冷凍の何かをチンしている音を聞いていた。
その後もうっすら聞こえるTVの音と、箸と茶碗の当たる音なんかを耳に捉えつつとにかく横になっていると、アレッシーがドアをいつものようにノックもせず開けた。

「あのよお、そろそろお前働いたら?」

私は黙っていた。

〜〜

水曜日。
私はかなり元気になり、家事もできた。
ただ、アレッシーを起こさなかった。いつもは早く、といっても9〜11時くらいだけど、先に起きた方がもう一人を起こすことにしていたが、もうなんかいいやと思った。
ご飯も私の分だけ食器を用意した。いつもは用意してあげてたけど馬鹿らしい。
一人でTVを観ながら朝昼ごはんにして、家に居たくないから図書館に行く。
外は知らない人しか居なくて、誰も私に構わなくて本当に良い。人が沢山居るのは嫌だけど知らない人が一箇所に集まるのはなんだか愉快な気もする。誰も居なくて良いけど。

アジアの国の寺における地獄についてと、微生物との共生についての本を2冊借り、仕方なく帰るとアレッシーはバイクの雑誌を読み、床に転がってた。
「…おぅ、おかえりぃ。」
こちらを見ずそのまま声を掛ける。
「……ただいま。」
声色は昨日とは違い、いつもと同じトーンだ。忘れちゃったんだろうか?
自分のためにご飯作るのはいいけどコイツのために作りたくない気がして、台所へ向かい食器を乾かす細い金属の棒を組み合わせたカゴからいつも使ってる切れ味の鈍い包丁を手に取る。

雑誌から目を離さずマグカップに口を付けるアレッシーに普通に歩いて近付く。
あと4歩くらいのとこで気付いた彼が私を見上げた。
「……?どうかしたかよ?」
急所とかはよくわからないから、とにかく首に腕を落とす。
人参を切ってるときともこんにゃくとも違う感覚がして、血が出たから多分ここでいいのかな?よく分からないけど満身の力を込め刀身を押し込む。
私よりずっと身体のでかい彼は、右手に雑誌、左手にカップのせいで反応が遅れた。
私を掴もうとする手も空を掻き、目もあらぬ方向を向いた。本当に口からも血が出て驚いた。首からの出血が逆流したのかもしれない。本当に繋がってるんだなと思った。
何度も引き抜いてはまた貫く。とっくに彼の顔色はおかしくなり手も碌に動かないが(私の刺す反動か痙攣で動いてるだけなのでは)、手を洗うとき手首までちゃんと石鹸をつけ、落ちたか不安で何度も水で擦り続けたりペットボトルの蓋も毎回無意識に5回くらい閉める私としてはこのくらいやっとかないとちゃんと死んだか気になって許せないからオーバーキル気味に刺しておいた。
彼の血でぬめって手が滑りそうで怖かった。
はあっといつの間にか荒くなった息を吐くと、クリーム色の絨毯に血飛沫と既に物体の彼がゆっくり崩れた。
これどうしようかな………でかくて邪魔だな。生きてるときからそうだったかもしれない。
「夢主」
暫くべとべとの手で包丁を握り込んだまま思案していると、床に置いてあるアレッシーの赤汚くなった厚めの唇がなめくじのようにうねる。真っ赤になったそれは赤いリップよりもっと鮮烈な色で、脳に染み込む。
黙って見つめると、転がったままなおも続ける。
「どうしたんだよ?なあ……。」

「なあって!」
雑誌を持ったままの彼は眉を寄せやや不安げに私を見上げていた。
包丁を、使ったことないがショルダーバッグを上げて持つときのようにし、陽気に固定する。
「いや、今日何食べたいかなーって」
「っ包丁こええよ!
………まあなんでもいーけどよ…あんたが作ってくれんなら。」
そう、と返し台所に立つ。さっきアレッシーを刺した包丁で大根を切り分ける。
別に彼が死ぬことは正直どうでも良い。でもあんなくだらん馬鹿のせいで私が刑務所行きなんて絶対許せない。彼にはそんな価値が無いし、死体だって彼は小心者のくせに随分かさばるから処理に困るし、だから見逃してあげることにした。

「あーぁ、宝くじとか当たんねえかなあ〜っドバッと3億円くらい!」
そしたらなんだってできるぜ、と阿呆を抜かす彼に適当な相槌を打ちながら、取り敢えず世界中から履歴書が滅びますようにと願った。
点きっぱなしのTVでは、おばさんが『人と抱き合うとセロトニンが出る』『辛いことからは逃げていい』『とにかく人に相談することが大事、人にはやさしくしてあげること』と白痴フェイス(いや画面は見えなかったが)で飽きもせず垂らした。こんなんで金が貰えるなんて楽な商売だ。
スタジオのタレントだかリポーターだかは家族や友人との支え合いが、人との繋がりで、地域で支援がどうのと足りない頭で必死に低予算の尺を稼いでた。
私は、
誰も私を心配しなくても助けてくれなくてもそんなのずっとだから構わんしお前らなんか頼りにしねえよ〜〜〜!!!ばあか〜〜〜!!!!!!!!ピロピローッ(できるだけ阿呆な顔で両手を耳の前でウーパールーパーの赤いあれみたくして指を動かす)
とかかすなことを考えてた。
なんだか口元がニヤケた。


END




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