夢小説 | ナノ

Trojandeath



▼ チョコラータ夢「ブラウン管から飛び出る電波が」 20.5.15

タン、タンタタン。
レオタードの女性がステップを踏む。
平均台の上に吸い付けられるように手脚が回転する。
どこかの器具から外れた留め具が台の上に転がっている、その手前、奥にタン、タン!
蝶のような手やしなやかな脚が繰り出される。
先のとがった留め具はぎらぎらしている、獲物を狙っている、無機質に。
だが、蝶はみごと平均台を渡り終えた!
そして、ねじの外れた器具が倒れこみ、女性の目を抉りさった。

私はそれを見、笑い転げた。
〜〜〜

…といっても、現実のことではない。
スプラッタ映画だ。
某有名な、最初に大事故が起こり、そこで生還してしまうとあとでより一層悲惨な死に方をするという……。

「すきなのか?」
横に居た男性が問う。
この緑の奇怪な頭の人は、以前レンタルビデオ店で私がホラー/スプラッタ映画を5本まとめ借りしようとしたところに声を掛けてきた変な人だ。それから時々連絡を取り合い、こうして一緒にホラーを観たりする。
全然知り合いのいない私には珍しく趣味が合ったのだ。
「うん」
「じゃあもっといいものを見せてやろう」
と言って立ち上がり彼が持ってきたのは、一本のビデオテープだった。
ガシャリと機材に入れ、再生される映像を二人で眺める。

彼は先ほどより、随分興奮しているようだ。
よっぽど気に入りの映画なのらしい。
しかし、それにしてはbgmや画面の切り替えといった演出が一切入らない。ドキュメンタリー風なのだろうか?
右下に日付と時間が表示されているだけで、あとはときおり撮影者とおぼしき男性の話し声、被写体の映像くらいだ。
なんという映画だろう、レンタルビデオ店に置いてあるホラー/スプラッタものは大抵借りてしまったが、こんなのは観たことがなかった。けっこうマイナーなもんかもしれない。(ヲタクはドハマりするとマイナーなほど無条件で興奮してしまったりするよね。あるよね。お恥ずかしいが)
それに、彼が手に持っていたとき、テープの背には日付しか記載されていなかったような気がする、それも手書きの。キオク力が死んでるからなんとも言えんけども。
なにかのダビングだろうか。ダビングって犯罪じゃないっけ、忘れた。

そうこうするうちに(なにもしてないけど。数回水を飲んだくらいだ)ビデオは進む。
始め薄暗い部屋で二人の男性が居り、一人がベッドに寝かされ、もう一人は医師のような、あの血の反対色である薄黄緑のペラそうなレインコートみたいなのにおそろいのマスク、手袋の3点セットをし、ベッドの上のカレを見下ろしていた。
それからなにやら拷問道具のようなわからん機材諸々を揚々と取り出し、『実験』に取り掛かる、そういったストーリー(?)だ。自主制作にしては気合入ってんなーというカンジの。

血がドバドバ出る。
おお、ココどうやって撮ったんだろ、映像に関しては無知なんだ(※大抵なんでも無知)とか赤くてうるさい画面を観ながら内心ふざけていると、隣の彼はもう大興奮、サッカー大好き少年にセリエAの生試合を特等席で見せたくらいのハシャギようである。おお、おお。
34のオッサン(…と以前ふざけて言ったら二度と言えないようにしてやろう的な完全に脅された…)ンンッもとい中年にカタアシ若しくは肩までドップリみたいな、え、これもダメ?じゃあもういいよ(諦め)……
…、がこんなんみてこんなハシャイでていいんですか?と問いたくなるような鰻上りアマカケルリュウノサキガケみたいな、龍の滝登り? oh乏しい語彙がもう尽きそうですわデッスーワ(意味不明)ただでさえ内容のない文章をこれ以上空虚にするな誰も読んでクレナイぞ(戒め)…………………
みたいな。
とにかく大喜びしているのだった。これまでみたことがないほど。

…あと1コ言いたいんだけど。…………。
入っている声が、どう耳をこらしてみても彼のものなのだが。

視線をヨコに移すと、目をいっぱいに見開き、頬を紅潮させ、「おお」「うおおっ」といった歓声を上げている。
クスリでもやってんのかな…と不安になる、色々な意味で。こないだTVで観た麻薬常習者の人は、手が勝手に動いてしまってたり(やばい)、「俺は地球ダー」と叫んだり(もっとやばい)してたから、まだマシな方とは思う…けど。
突然バンバンと膝を叩かれる。いたい。
「今の見たか、???なぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!最高だ!!!なに、見てない?!じゃあもっかいだ!!」
【巻き戻し:再生(リプレイ)】
画面にはさんさんと血が降り注ぎ、見知らぬ男性の絶叫と裁判官あるいは独裁者のけたたましい笑い声が収められていた。
彼の血走った目は、TV画面を凝視したまま微動だにしない。まばたきさえも…。

なにやら良くない予感がする。
よくわからないけど、カンは多分いいほうだと思うし、本能的なのが『モウココニイタクナイヨー』と言ってる気がする!
ここを離れるべきかもしれない。
だが、経験と勘らしきものが『イマウゴクトヨクナイヨォ!!!!!!!!!!!!!!』ジットシテイロ、と告げる。
何故半角カタカナかは私も知らない。多分頭が悪いせいだと思う。
でもだけど多分この訴えは正当だ、背中を見せて逃げ出すというのは、そのまま相手に弱味をみせることに繋がるからだ。
というか残念なことに身体も動いてくれないからそうするしかない。
彼の手は私の膝をガッシリ掴んだままだし。…痛いって。
でも刺激するのはキケンかなと黙っていた。

当の彼は、ウットリ夢見るような、アイスクリーム30コぐらいまとめ食いしたよーなおかしな目つきをして、リモコンを握りしめ、

「ヨシ、もっかい見るぞ!!!それとも他のがいいか!? マダマダあるぞッ」


〜〜〜

切手、食玩、プラモデル、クルマにぬいぐるみ。
収集癖のある人間は多い。
そしてそういうやつらに共通しているのは、
『いいものを他人に自慢したい、見せびらかしたい。なんなら褒めて欲しい』
という欲だ。
もちろんこういった感情の無い者もいるだろうが、それはおそらく例外に過ぎず、多かれ少なかれ誰でも持つ普遍的なものだろう。
そして、例にもれず自分もその類だった。意外にも。自分でも驚く。

あの女はこうしてビデオをみせてやって殺さずに済んだはじめてのケースだ。
大抵のヤツは、失禁したり、泣き出したり、逃げ出そうとしたり、罵倒してきたり、やかましく叫びだしたり、「通報する」とか言い出したりするのだ。
たしかに、ほんの気紛れであっても、このわたしがせっかくコレクションを披露してやっているのに、あの言い草はなんだ。もれなく全員ビデオの新作入りした。

だがあいつは、まあ途中多少集中力に欠ける箇所はあったが、まあ及第点だ。
きちんと映画館で鑑賞するように、行儀よく座って、最後まで観ていられたからな。
アイツはボーッとしてるし、忘れっぽいし、運動神経はないし、友人もいないようで、ドンくさいしバイトも長続きしないとしょっちゅう嘆くし近頃はもう職を探す気力すらも失せてしまったようだが、なかなか見どころがある。

しばらくは手元においてあそんでやってもいいな。

〜〜〜

報告会。
あの後も私はさんざんビデオの鑑賞会に参加させられ、気付けばもう(夜の)3時だった。
普段から夜型のため(するべき職も学もないし)全然起きてる時間帯ではあったが、そりゃ部屋で一人でごろごろしてるときのハナシで、こんなビデオをぶっとおしに観せられっぱなしでなおかつ緊張しつつではキツイ。キツイ……………………ッッッッッッ………………!!!

ちなみに幸か不幸か、あの日から彼に気に入られたようで、なにやら(うす気味悪い)親しみをみせてくるようになった。
いつも他人に嫌われたり疎まれるから意外だ。
これはおかしい同士ひかれあうってことだろうか?私はあんな異常者じゃないが。でも、昔からろくでもないのにばかり気に入られたような気がする。意味わからん目に遭ったり。

そして毎日スナッフ鑑賞会への参加チケットを渡されるのだった。

ゆー〜〜〜あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜で〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っど(死)


END



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