夢小説 | ナノ

Trojandeath



▼ チョコラータ夢 『プラモデル』 20.2.14

20代ほどの女性と、それよりも少し背の低い少年が並んでバーガーショップの自動扉をくぐる。
女性の方は期間限定のチーズバーガーとウーロン茶のS、少年は大きいサイズのものとアイスコーヒーMサイズをチョイスした。
お互い千円ずつ出し合い、彼女がお釣りを受け取る。
「ええと…。」
「私が550円、キミが870円だから…ええと…ええ………………???」
「もういいかせ、お前が450おれが残り130だろそんなことも分からないのか、ぐず」
と言いながら少年はすばやくお釣りを振り分ける。
彼に早口でまくし立てられ、硬貨を受け取りながら、女性はやや黙り込む。
「………だって、だって私すぐ何でも忘れるから暗算出来ないんだよ、知ってるでしょ」
彼がフンと笑い、
「お前がどんくさいのは最初から知ってるよ。」
と言ってのけると、彼女は困ったように目を細めた。


〜〜〜


お友達ができた。
そんなのずっといなかったのに!
大学を辞めてから、いや高校の頃からいなかったしいても長く続かないし、理解し合えることはなかった。だから、もうそんなもんは出来ないし全部あきらめていた。
なのに。
その私に!
彼は私よりずっと年下で、だけど私よりずっとしっかりしていた。
昆虫のような瞳で少し上目遣いにこちらを見ながら、こんなことも分からないのか、どんくさい、バカだなと冷たく罵るのだった。その様子がとても可愛らしく、ドキドキした。
ドレッドにした緑の柔らかな髪を、いくつかの束にし揺らしていた。
彼は、名をチョコラータといった。

普通に考えたら接点のない二人だが、あるきっかけで知り合い、交友関係をもつようになった。
「自分のことは自らでコントロールし、解決しないとダメだ。とくに親は頼りにならない、利用するだけして捨ててやる」と彼はよく言っており、そこが好きだった。
他人の苦しむ顔や、血が飛び散るのなんかも興奮するのだと。
わたしたちはとても気が合った。
こんなことは初めてだ。私はとてもドキドキした、心臓がうるさく鳴った。

水槽の中で、他の魚は生きて泳ぎ回っているのに、1匹だけ死んで沈んでいるサカナや、病気にかかっているサカナ、死にかけでグルグル回転しているサカナを見たり探すのが好きだと彼に言うと、自分は母の飼っていた観賞魚をピンで刺したり水にコッソリ毒を混ぜ、殺したことがある、と教えてくれた。
自分のペットの魚が死んで悲しむ母親を見て、快感を感じた、と。
また、彼女の飼育していた小鳥やハムスターも、それぞれ毒殺、溺死をさせたそうだ。
ゆっくりゆっくり死んでいくのを観察するのは気分がよかった、と語ってくれた。

彼の両親は、裕福ではあるようだが、あまり彼には関心がないのらしかった。
彼はあまり話さなかったが、ときどき会話の中で見えることには、愛情を注がれていなかった。裕福ではあるようだが、共感したり一緒に何かしたりといったことはしない。
私は彼を好いていたから、その代わりに食事を買い与えたり、品物を送ったり、手紙を書いたり、手を繋ごうと試みた(最後だけは毎回振り払われたが、だんだん向こうが根負けし、大人しく(しかしひどい顔で)繋いでいてくれるようになった。)。

私は他人の耳かきをするのが趣味だったので、彼を捕まえてはムリヤリ耳掃除を行った。
最初、彼は私の不器用(とんでもなく)を知っているから死ぬ気で身を捩りイヤがったが、何度かやってなんともないとわかると、抵抗しなくなった。
膝に彼の頭の重さとあたたかさを感じるのは心地よかったし、耳掃除自体充足感をもたらすし、それに、されている間目を瞑っている彼は年相応の少年に見えた。
頬が赤く、瞼が薄い。細く伸びた手脚は白かった。
黙っていれば幼く見える彼がこの手の中にあるというのは、一時的なものでも満足感を与えた。

また、嬉しそうにそこらの動物を捕まえては物体に変える彼を見るのが幸福だった。流れる血は二人の関係を象徴してくれていると思った。

「利口な奴はいないが、お前だけは手元に置いてやってもいい」
と、彼があるときこぼした。
顔がパッとあつくなるのを感じた。
指先まで血が巡っているのがわかった。
彼はトクベツだ。
彼だけはこの世界をちゃんと正しくみている。
他の人間のように、ヘラヘラ白痴のように涎を垂らし笑って「世界は安全だ」なんて言わない。くだらないことで時間を費やしたりしない。他人なんか愛さない。
自分のことだけ大事で、他人なんかモノとしか考えていない。
血が出るのがなにより好きで、自分はいっとう優れていると確信しており、だから何をしても許されると思っていて、実際にそれに見合う能力も備えている。
そして将来の無さ。
極めて死に近い不健康さ。
愛している、と思った。
彼は私を好いてはいない、まあテキトーなペットくらいは感じているかもしれないが、それ以上では決してない、ならない。
そうであるし「そうあるべき」なのだ。
世界は乾いていて、ベタついた愛なんてない。
彼がそれを証明した、する、するのだ。
「正しい世界」を。
私たちの。


〜〜〜


私は降りしきる雪の中でうずくまり、動かなかった。
寒くて痛かったが、どうしようもない。
傍から見たらよほど不審だと思うが、もう体が動かせない。重いというかエネルギーを失ってしまったようだった。
人生が簡単にいうとまあ詰んでいて、なにも出来ない自分だけが存在していた。
生まれつき頭はおかしいし、家庭はまあだし、大学も辞めてしまい、薬を飲んでも何も改善しないように感じる。もう死のう、列車に轢かれるか、車の前に飛び出すのはメーワクだからナシ、飛び降り、ちょうどいいビルが、ううん、と思い続けていたら、歩けなくなった。
ノーナシか?(知ってた〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜)
ああどうしようかなあサムイし不審度MAXだけどしばらくこうしてるか通報されたくねえなあと思案していると、長ズボンと冬靴に包まれた細い脚が目の前に近付いた。

「…お前、何してるんだ」

幼い少年の、でも大人びた声。
それが、私にとっての運命の出会いであった。


〜〜〜


「もう会えなくなる。」

いつものように話をしていたら、突然彼が切り出した。
どうして。
「親の仕事の都合でな、他へ引っ越すと決まったんだ。クソだが金は持ってるし他に行くところもない、おれも着いていく。まあなかなか楽しかったよ、ヒマつぶしにはなった、お前と話すのは」
どうして。どうしてどうして。ウソ。ウソだ。ウソ…………………………
「…………オイ、聞いてるか?」
言葉を振り絞る。
「……わたし、キミがいなくなっちゃったら、どうすればいいの」
「…ハァ?そんくらい自分で考えろ、白痴。もう少しお前はカシコイと思ってたがな」
「まあ、アレだ、そんなに気にするな、大したことないだろ」
よほど私は絶望した、ショックを受けた顔をしていたのだろう。彼が私の頭をさすってきた、ときどきしてくれたみたいに。
『大したことない?』
『大したことない』って言ったの。今。
彼にとってはそうでも、私にはそうじゃない。
彼しかいなかったいないのに。みんな頭がオカシくて気狂いみたいな人間しかいないのに?
でも…………。

「………………そっか、なら仕方ないよね、うん。今度お別れパーティーしようね」

彼がそんなんいらないと言ったが、華麗にムシした。


〜〜〜


二人だけのお別れ会の当日。

「カンパイ」
彼にはジュース、私はいつものように水道水を飲んだ。ウマイ。
私は彼のために珍しく料理をこしらえた。正直、あまり出来は良くなかったが、それでも彼は食べてくれた。いつもなら「こんなもん食えるか」とか言ってきそうなのに。
珍しく気を遣ったんだろうか?そんな機能ついてたんだ。
料理を食べ終えてからは、話しながらボードゲームやカードをした。
ほとんどは彼が当然のように圧勝したが、いくらかは善戦したし、ほんの数回勝てた。彼がとても怪訝そうな顔をしたので面白かった。

彼はソファに沈み込み、よく寝ている。
昼の12時から集まって、もう8時を回ってしまっていた。
普段はもう少し早く彼を帰していたが、彼が言うには「あいつらはおれが帰ってこなくても別に気にしないだろう」なのだった。
彼が憐れになって(そんなこと言ったら文字通り殺されるが)、よく頭を撫でてやっていた、その時彼は珍しく少しだけ子供っぽいカオをするのだった(本人には言っていないが)。

耳かきされているときのように、もっと脱力しきっていて、寝顔が幼い。腹部が上下していて、(いつも彼が引き裂いて遊んだ)ネコみたいだ。
普段は大人っぽくしていても、やはりまだ子供だな、と思う。

飲み物に薬が入っていることに気付かないなんて。

彼のジュースに睡眠薬を混ぜておいた。
流石にバレるかな、と考えていたが、油断していたのか、案外私を信用していたのか、そのまま飲み干してしまったのだった。
安らかに眠る彼を微笑ましく見つつ、そのまま台所へ向かい、水切りカゴに差してある包丁を手に取り、リビングに戻る。
彼がもう会えないと告げてから、何度も頭で思い描いた流れ。それをそのまま行動に移している。今のところおおよそ計画通りだ。奇妙な達成感と高揚がある。

ソファの前に膝をつく。
汚い言葉を吐き続けたやわらかな血色のよい唇。おぞましさを映した瞳。たくさんの血に塗れた小さな手。悪行を尽くしたあたたかな身体。
どれも、なにより愛しくて、懐かしい、そしてかけがえのない、これ以上ない。
こんなこと他の何にだって思えない、思わない。
世界で一番薄汚くて穢れていて悪魔のようで唯一信じていた大好きな。
だからこそ逃すわけにはいかないのだ、この手から。

包丁を振り上げ、肉に突き刺す。
何度も目の前で見てきた、彼が『見せてくれた』ように、何度も何度も上下運動を繰り返す。
目覚めた彼の瞳は、絶望に満ちていた。
「なん……………で」
掠れたぎりぎり言葉になっている声が壊れたレコードのように切れ切れに聞こえる。

ああ…………………………………………。
これが。

ずっときみの見てきた世界だったんだね。

そのまま私は彼をめった刺しにして殺した。
自分も予め用意しておいた縄で首を吊り、死んだ。



〜〜〜



アホしかいないうんざりする学校からの帰途。帰るのがダルイなと思いつつ雪に吹かれ歩いていると、ベージュの塊がみえた。
なんだこりゃと近付くと、ヒトだ。
うずくまった体勢のまま、ピクリとも動かない。体型からみておそらく女、ガキではない。少なくとも10代後半〜くらいか?
回りこんで様子を窺う。
女は完全に下というか内側を向き、こちらには気付かない。髪の質からいって、2〜30代ほどだろうか。体調が悪い、というのにしては、アルマジロのようというか、要塞に立て篭もっているふうに見える。
女を眺めつつ算段をたてる。ちょうど、実験できそうな素体が欲しかったのだ。
肉体的、あるいは精神的に弱っている人間というのは正常な判断を失っている場合が多い。付け入るのも簡単だ、しかもこちらは警戒されにくい児童だ。イタイケな少年だ。
もしなにか不利益をはたらいてきたら、処分してしまえばいい。
ニヤリと口角を上げ、さらに女に近寄る。


「おい、お前…」




END





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