夢小説 | ナノ

Trojandeath



▼ リゾット夢 『天国だって同じさ』 19.11.9

任務が終わりやっと帰り着くなり、部屋のベッドに倒れ込んでしまった。
スタンド能力を使用するといつもこうだ。全然動けなくなってしまう。体力がないのかな、精神力のほうかな?
でもこのことは出来るだけみんなには隠さねばならない。
仕事が出来ないと見損なわれたくないし、このせいでクビ(?)なんかされたら、ほかに行くところはない。
トントンと、扉を叩く鈍い音が響く。
「うぁい」と喃語のような返事をすると、メローネが夕食を知らせに来た。
「…大丈夫か?なんかやつれてるが」
「全然!そんなことないよ、ちょっと寝不足なだけ」
と華麗に躱し、すぐいくから先行っててと追い払った。
もっと寝たいが、遅れるのはよくない。死体のようにフラフラと廊下を蛇行していった。

「遅えぞー」と、先に食っていたギアッチョが荒い声を投げる。
「メローネから聞いたぞ、寝不足だって?気が緩んでんじゃねえのか?」
相変わらず物言いは乱暴だが、多分翻訳すると心配してくれてる…ということと思う。彼はいつも短気でキレやすかったが、へんなときマジメで律儀で、「ありがとう」とか「信頼している」とか言うのだった。素直なのだろう(ただしこう言うと怒る)
「へへっごめんごめん、任務はちゃんとやったからさ。昨日おそくまでマンガよんでて」
出来る限り疲労をみせないように配慮しつつ席に着く。
他のメンバーがダレてんじゃねえぞとか、気合入れろとか体育会系なことを笑いながら言ってくるのを、ヘラヘラ聞いていた。
他の人は、別にスタンドを使ってもそんなにつかれないみたい。なんで私ばっかりこんななのかなーとパスタを食いながらみんなの顔をボーッと眺めていると、リーダーと目が合う。
しまった。
すぐにそらせなくて、おびえながら少し俯くと、彼はとくに表情を変えず、また皿に視線を戻した。
フゥーー。
緊張した。
このわずかな緊迫に、みんなは気付かないだろう。誰も。

〜〜〜

「リーダー、この書類はここに置けばいいでしょうか。」
「…ああ、そこでいい。」
楽器のような低い声を受けて、机上に紙の束をのせる。
と、手が滑り、2〜3枚を残し、全て下に滑り落ちてしまった。
やっっっっっっっっっっっちまった………………………………………!!!!!!!!!!!!!!!!
あれだけ失敗しないよう、ミスやよけいなことをしないようにと思ってたのに。リーダーの前でだけは。
ごめんなさいごめんなさいと腰を屈め、プリントを拾いつつ彼をうかがうと、やはり予想通り、黙ったままこちらを見ていた。おそらく軽蔑しているであろう、何を考えているか分からない目で。
「…あとはおれがやっておくから、お前はもう戻れ」
紙を集め、下を見たまま彼が告げた。
こちらを少しも見ずに。
やppppっぱり見損なわれた。いつもこう。仕事がただでさえ他人より出来ないから、せめて失敗をしないようにと思うのに。他の人の前ならまだマシでも、この人の前では普段以上にミスを重ねてしまう。
ちゃんとしようとすればするほど、思えば思うほど。
そんな私に、リーダーは呆れかえっていると思うのだ。とてもかなしくなり、急いで部屋を出た。

〜〜〜

ある日の私は寝込んでいた。ベッドでぜいぜい息をし、身体の熱に苦しんだ。
任務から帰っている途中で、スデにぐったりとしかけて、足取りもフラフラし、よっぱらったようだった。
いつも任務のあとはグッタリだったが、こんなのは初めてだ。
死にかけで帰った私に、みんなは大丈夫かと聞いたが、それにすら構えず、ベッドの民となってしまったのだ。
冷えピタとか凍らせる枕、氷の入った袋(ギアッチョ製氷らしい)などをあてがわれ、親切がありがたいなあと思っていた。
意識がもうろうとし、眠りにナワをかけられ引っ張り込まれた。
薄暗い部屋で目を開けると、少しラクになっていた。
「大丈夫か」
急に声がし、心臓がドキンコなる。
この重機のような威圧感は。
リゾットだ。
星のように束の分かれた帽子をゆらし、立ったまま私の様子を見ている。
「ぅ…っぅう、は………はい、」と鼻声でなんとか返すと、「そうか」と言った。
いつからここにいたのだろう?偶然今来たのかな、というか私がその音によって目覚めたのかもしれない。
「なにか欲しいものはあるか」
「…だ、だいじょうぶ……です」
息が苦しくて上手に話せない。これ以上ガッカリウンザリされる前に、一刻も早く彼にでていってほしく、本当はお腹が空いたし水も飲みたかったがそれを黙っていた。
彼は、暫くわたしの顔を見たあげく、ちいさく溜め息をつき、去っていった。
やっと息を吐くと、ネツで情動がおかしくなってるんだろう、目から涎が出て、まだあつい頬を伝った。きったねえ。
どうして。わたしだってうまくやりたいのに。もうこれ以上嫌われたくないのに。
あまり水分が出すぎるといよいよ干乾びるなと思ったが、涎はとまらないのだった。

〜〜〜

最近は、スタンドを使うたびネツを出すようになった。
最初は1日で治っていたのが、2日、4日と、だんだん伸びてきた。なんで私はこうなんだろう。
私だって頑張りたいのに。みんなの、リゾットの役に立たなくては。
改善策を探したが、誰も知らないようだった。
みんなは心配してくれたが、私はリーダーに嫌われていないかだけが気にかかった。
寝込んでばかりじゃよくないと、ネツが下がってすぐに雑務をしていたら、
「お前はもうなにもするな!!」
と彼に怒鳴りつけられた。
日に日に視線が突き刺さるくらいスルドくなってきていると思うし、よく溜め息を吐かれて、もうどうしようもなかった。
どうしてこんなことになったのか。
終局が近付くような気がした。

〜〜〜

ある日を境に、私への任務の量がガクンと減った。
みんなで分担する家事などは変化ないが、暗殺の仕事。私にあまり、回ってこなくなった。
気のせいかもしれないし、偶然かもしれない。
それか、いよいよ見捨てられ、見限られたのか。
どちらにせよリーダーと話したいが、最近ますます忙しいらしく、なかなか立ち止まっている時間がない。
「ねえ、私、任務少ないよね?」
「あー、なんだよー自慢か?こちとら毎日いろいろあって忙しいのによォ〜。猫の手も借りたいぜ、猫!」
ホルマジオは頼りにならないなと思った。

それから1週間、2週間たち、それでもやはり雑用のようなことばかり。みんなは頑張って、私だけヒマ。みたいな時間が続いた。
そうなると、みんなは何も言わないし、思ってないだろうけど、私は居づらい。何もしていない、出来ないなら、ここにいる意味がない。価値がない。それはとてもおそろしいことだった。

「リーダー!」

もう待っていられなくなり、勇気を出し、リゾットを呼び止めた。
「…なんだ?今は忙しい。あとにしてくれ。」
これは彼のよく使う手だ。私にだけ。時々こんなことを言われては、「次」や「あと」は二度と来ないのだ。
「ちょっとだけでいいです!あの…私、そんなに仕事できませんか!?仕事も回せないほど…ですか!?」
「お前にはもう仕事を任せられない。」
とバシンと言ったきり、そのままこちらを見ようともせず部屋に戻ってしまった。

終わった。
私が余りに役に立たないせいだ。仕事が全然できないで、足を引っ張るせい。頭が壊れてるせい。きっとそう。もうダメ、あの人にだけは。あの人には、だけは、絶対。私は。


嫌われるわけにいかないのに……………………!!


〜〜〜


線路の前に突っ立って、列車を待っている。
でも「乗る」わけじゃない。
鉄が振動を始める。私は身構えた。
向こうに列車のライトが見える。遠くで踏切も鳴っている。
いまだっ、
タイミングよくコンクリートを踏み、ホップステップジャンプてな感じで鉄の塊の前に飛び込んだ。
さあ噛み砕け!
衝撃が身体に走った。


……
…身体が痛い。
でもまだ意識がある。おかしい、と無意識に閉じていた目を開け、なんとか身を起こすと、私は線路の向こう側にいた。
あんまり勢いよく飛び込んだんで、通り抜けちゃったのかな。でも私にそんな跳躍力はないし………。
地面に身体を打ったようで、いろんなとこが痛む。
何気なく手を付くと、地面ではない感触がし、咄嗟に引っ込める。見ると、私は誰か男性の上に座っていた。
「ひぇっ」
まさか巻き添え?これって私のせい?死んでないよな、と混乱したが、息はしているようだった。
見ると、随分綺麗な顔をしている。薄い瞼、高く通った鼻。「精悍」という表現が合うのだと思う。銀の髪が乱れ、美しい刺繍のようだ。
起きないのをいいことにじろじろ観察していると、彼の瞳を覆ったままの瞼が、ピクと動く。瞳が開き、バチンと目が合った。
ルビーのように赤い目に吸い付けられる。と、彼の顔が酷く歪んだ。

「お前は何をしている。轢かれたいのか!!!」

突然、獣の咆哮のような、地鳴りのような声を上げられ、ぎょっとして彼の上から転がり落ちた。いてえよう。
地面に尻を付いた私の腕を、彼は力強く掴む。
「おれがいなかったら死んでいたぞ、お前!残されるものの気持ちを考えたことはないのか?」
なおも激昂されるが、先ほどとは違い、抑えた中に怒りの充満した声となっている。
んなこと言われても。もういい加減疲れたんです………とは怖くて言えず、黙っていた。
早く帰れ、と言われたが、もうそんなことは出来ない。
すべて終わらせようと出てきたのに、彼の方がアクシデントなのだ。
突然なんとかパンマンみたいに飛んできて、村人を救うなんて。
行くところがない、と言うと、「甘ったれるな」と恫喝(でした)されたが、そのまま俯いて地面に座り込んでいると、このまま放っておくとまた同じことになるだろう、本当は勧めたくはないが、と組織の入団試験を教えてくれたのだった。
で、私はなぜか合格してしまい、スタンドを発現させた。

こんなこと言うと絶対彼に殺されるが、本当をいうと、私は助かりたくなかった。
助けてもらいたくなんかなかった。
どうせ救われるなら、もっと早かったらよかったのに。こんな全てが台無しになってからじゃなくて。
でも、一度彼に王子様かなんかのようにわざわざ助けられてしまい、失敗したのに、もう一度リトライする胆力は私にはなかった。
だけど、生きていく活力みたいのもなかった。
せっかく彼に時間を貰い、生きる場所もできたなら、あの人のために頑張ってみようかなとらしくもなく思った。

彼は、暗殺チームに配属された私に、わりと良くしてくれた。
時間があればときどき仕事を教えてくれたり、運動神経のにぶい私に、上手に動くコツを伝授してくれたりもした。
だけど、私がスタンドを使った任務を始めてから、彼の態度は変わった。
私を見る目は以前と違い監視のようになり、私のことなんか見たくないみたいだった。
失敗をし、怪我なんかすると、本当にうんざりされた。私のことを、あの怖い目で見るのだ。
最近はいっそう。

私は彼に嫌われたら、「いなくていい」と言われたら。
もうそこでオシマイなのに。
もう何もない。なにひとつないのに。
それなら、あそこで死んでいればよかったのに。
なぜ救ったのですか。
リゾット。

〜〜〜

彼女と最初に会ったのは、アイツが列車に飛び込もうとしてたときのこと。
ずっと線路を見ている女がいるなと、なんとなく通りすがりに思っただけだったのだが、どうも目がおかしい。
ただ列車を待ってるってんじゃない、異様な、思いつめた目だ。
何を考えてるかは、すぐわかった。

その時思い返したのは、あの子のことだ。
おれが14のころ、タッタ7歳だったいとこは、最低な酒酔い運転のクズに轢かれ、亡くなった。
おれはその場面を見てはいないが、ありありと想像できた。
横断歩道を青で渡っていて、踊り出してきた車にはねられ、身体がひしゃげ、血がたくさん出た。あたたかかった手もかたくなり、もう元にはもどらない。二度と。
おれは、そのとき初めて『殺意』というものを知った。
それからずっと、おれの頭にあったのは、あの子を守れなかった後悔、無力感。
いつも心にそれがあった。

その女は、もう少し近づき、しばらく眺めていると、思った通り駆け出したから、後ろからぶつかり、車両から逃がした。
いとこの代わりではないが、救わねば、と思った。

〜〜〜

「アイツは使えない。いつ組織の不利になるかわからない。他に飛ばしてくれ」

リゾットが上にそう伝えたのは、夢主がチームに来てからちょうど1年目のことだった。
なにもわからないまま、彼女は普通の、港やカジノなんかを統括するようなチームに配属されることとなった。
この頃は、もう、少し能力を使うと、鼻血が出たり、貧血を起こしたりし、まともに任務をこなすことは困難となっていた。

〜〜〜

「さびしいな〜〜お前がヨソ行っちまうなんてよ。ゆっくり休めるといいな」
「ありがとう…。」
みんながいろいろな言葉をくれて、嬉しいはずなのにほとんど頭には残らなかった。

〜〜〜

良かった。
夢主の身体の疲労は、スタンドの使用によるもの。なぜそうなるかは分からないが、確実に彼女の生を削り取っていく。運命など信じないが、死のそれに縛られるかのように。
ここでなければ、任務で頻繁に能力を使用する機会もないだろう。
これでやっと。「ちゃんと」。守ることができた。
きっといとこの分まで。
そう思うと、おれは肩の力が抜け、ホッとした。
生きているなら、ちゃんと幸せになって欲しい。おれの近くではなくても。
言わなくても、この気持ちは伝わって欲しいし、伝わるだろう、そう思った。

〜〜〜

私は理由も分からず、他のチームへ移動させられることとなりました。
いや、理由はわかっています。
私が何の役にも立てないから。
せっかく命を救って貰ったというのに、恩も返せない出来損ないだから。
仕方のないことです。
でも、こんなことになるなら。なるのなら。
こんなこといったら、きっとまた怒られるけど。
私はやっぱり、助かりたくなかったです。
あの時、せっかく助けてもらって、居場所ももらえたのに、全て台無しにしてしまう自分の愚かさなんて、もう感じたくなかった。
だから、あの日、私は死のうとしたのです。
運命など信じませんが、もしかするとあるのかなと思いましたし、きっと変われるのかもしれない、あなたのために変わらなくちゃと思いました。無駄にしないため。
でもダメでした、やはり。ずっとそうだったのだから、考えずとも分かることだったのに、すごいことが起こったから、頭が悪くなったみたいです。
私は、あなたに嫌われても、ウンザリされても。
あなたのことを慕っておりました。
助かりたくはなかったけど、あのとき救っていただいて、うれしかった。
でも、もうダメなんですね、私は。
お役にたてなくてごめんなさい、期待を裏切ってしまって。ほんとうに。
リーダー。
私は。



そんなに役立たずでしたか。



〜〜〜


それから数カ月後、リゾット・ネエロは彼女が異動先で仕切っていたカジノでの揉め事に巻き込まれ、死亡したと聞くのだった。


END




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