夢小説 | ナノ

Trojandeath



▼ プロシュート夢 入水 19.10.26

窓の外を眺める。
夜の光は、次から次へ後ろに流れていった。すごい速さで。
彼はたばこを咥えたまま、バァーーと車を走らせている。

「このまま二人でよぉ。」
横にいた彼が突然口を開いた。
ボンヤリしながら耳を傾ける。車の走行音もなかなかで、ちゃんと意識を向けないと聞きもらしてしまいそう。
これからの予定でも話すのかと思ったら、違った。

「このままよぉ、海にでも突っ込んじまうか?」

と爆弾を投げつけてきたのだ。
咄嗟に彼の顔を見たが、どんなに目を開いてみても、正面を向いたままの彼の表情は、この暗がりではよく窺えない。時々、チラチラと頼りない街灯が車内を照らし、ほんの少し一瞬彼の横顔が浮かぶ。
いつもの、群青色のような表情をしている。
私の聞き間違いかと思い、黙っていた。
「車のままだったら、生身より沈みやすいぜ。重いし、シートベルトで浮き上がらねえ。」
聞き間違いじゃなかった。つづいてた。

どうしたんだ?こんなのは、全く彼らしくない。
彼のプライドはヒマラヤよりエベレストより、成層圏より高みにあると思うし、他人に弱みを話すこともあまりなかったからだ。特に私には。これが「弱味」かどうか、私にはわからないけど…。
一体どうしたのかと思いつつ、冗談めかして、
「それもいいかもね。」
と答えると、チカチカと左にウインカーを出した。目的地はこのまま真っ直ぐでいいはずだ。
道路の上の看板には、「この先 左 〜海岸」と書いてあった(スピードが出ていて名前は読み取れなかったが、「海」というのはわかった)
彼はハンドルを左に切っている。私は半分パニックになり、
「え!ちょっと!??」
と叫んだ。
彼は、こちらを見ず、タバコを咥えたまま、ニヤリと口元だけ笑っていた。
まだ死にたくないんだけど!!!!!!!!!????
私はなんにも取り柄がないしやりたいことも特になかったが、まだ死にたくない。痛いのも、苦しいのもイヤだ。任務で、死にゆく人々を見るたび真剣にそう思った。血をまき散らしたり、内臓をブチまけたり、鏡の中でただボコられたり、血が黄色になったり?そんなもんごめんだ。仮に事故で死ぬなら即死系が良い。トラックに轢かれ痛みを感じる間もなく死にたい。
溺死なんて絶対一番かは知らないが苦しいof苦しいキングオブ苦しい殿堂だと思う、どう考えても。冷たい波が身体を包み、鼻に水が入り、耳の空気がおかしくなってキーンとして。真っ黒い中でどこが上か下かもわからない。車なら、身動きも出来ず、座席に縛り付けられたまま息ができなくなり、苦しんで地獄を見て走馬灯なんか見ちゃって意識を失うのだ、きっと。
凍死の方がいいよ、眠るように死ねるらしいし!!
必死になって彼の肩を掴む。
「ねえ!!!」
すると、ハンドルを元に戻し、
「冗談だよ。」
と笑った。

とてもそうは聞こえなかった。


END




prev / next

[ back to top ]



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -