夢小説 | ナノ

Trojandeath



▼ チョコラータ夢 生存ifです 19.9.28



「コンコン」
診療所のドアを叩き、失礼しますと声を掛け中に入る。
そこには、いつも通り不機嫌そうな顔のチョコラータが座っていた。
「こんにちは、先生」
「ああ、またお前か。」
と言うと、すこし表情がやわらいだような気がした。
「本日はどうされましたか」
と、いやいやながらわざとらしく、まじめに聞いてくるのが面白い。
半分笑いながら、
「最近、頭痛と立ちくらみが酷くて。副作用だと思うんですけど」
と告げると、先生はふむ、と考え込むように手を顎にあてた。

私はもともと持病というか、病気ではないが、生まれつき脳が他人のように上手く動かない。不具合がある。知能には問題がない。
それを補助するための薬は、脳の働きをすこしスムーズにする代わりに、血圧を下げる。
頭痛と立ちくらみはつまりそのせいである。
ちょっと前はそうでもなかったのだが、量が増えたためなのか、運動が足りてないのか、近頃悪化してきた。頻繁に、そんなに強くはないが頭が痛むようになり、しゃがんだ状態から立つと、フラフラしたり目の前がモヤのように暗くなった。
毎日ではないがだるくて眠ってばかりになってしまうこともある。しかも昼間眠気がくる。
仕事をしていてしょっちゅうこんな症状が起こると困るが、薬は減らせない。現在の4mgでやっと少し脳が冴え、3mgでは足りないのだ。

こういうとき、本来ならば、その薬を処方する、通院している組織外の病院に行くべきなのだが、次回の診察日までまだ日があるし、でもこれは大丈夫なのかとやや不安で、医者にはかかりたい。
だから、組織の召し抱えの医者であるチョコラータの元を訪れたのだった。
先生は元来外科が専門で、こういった内科的なことはまあ畑違いなのだが、彼はなぜか高血圧の人に「与えるべき」食事であるとか、弱ってきた認知症の患者にかけるとよい言葉といった、内科や精神面への知識も豊富であるらしかった。有能なのだと思う。
ウデは確かだし、私は彼を医者として信頼しているからわざわざ訪れるのかもしれない。

「う〜〜む、頭痛なら痛み止めでもだしとくか」
「そっちは大したことないのでいいです。立ちくらみが困るんです、目の前が暗くなったりして」
ハァ、と先生はため息をつき、
「本当はこんなことをするはずではなかったのに…アイツのせいだ…」
などブツブツ言っている。『ジョルノ・ジョバァーナ』という単語も聞き取れた。私たち「パッショーネ」のボスの名前だ。若干15歳とか聞いたが本当だろうか。
以前から、先生はボスの名を聞くと、ウッカリ牛乳を拭いた雑巾とか、毒虫を食ってしまったみたいな顔をして、「アイツはクソだ。」と言うのだった。
どうやら面識があるのらしい、そしてとてもひどい目にあわされたようだ。
先生は、いつも意地悪なことを言っていじめてくるので、そんな姿は想像できず、笑ってしまう。ざまみろともちょっと思う。
私は彼がボスになってから入ったので、以前のことはあまり知らない。

「もうアレだ、お前はそんくらい我慢しろ。」
面倒になったのか、そこそこ鬼畜なことを言ってきた。
「先生?」と詰め寄ると、わかったわかったと手をひらひら振り、頭に乗せてきた。
どうも子ども扱いをされている気がしてムカつく。
「どうせ、お前は夜中起きて昼頃目を覚ますみたいな生活しているんだろう。まずそこを見直すんだな」
グシャグシャと髪を乱してくる。その手を避けようとしつつ、
「昼じゃないです!最近は頑張って3時くらいまでに寝て、10時くらいまでには起きるようにしてます!!」
私は自分の尊厳を守るため国を挙げ戦った。しかし、
「ハイハイじゅうぶん夜行性で昼夜逆転だろう」
即負けた。敗戦してしまった。領土の取り合いに敗れた私に、
「適度な運動もしておけよ、さあ帰った帰った」
とだるいときの私よりはるかにやる気なさそうに、しっしっと手で追い出すジェスチャーをしてきた。戦勝国の余裕だ。
お腹の辺り、身体の内側がメラメラといやな風になる。こういうときの切り札をわたしは知っている。

「ボスに『先生がサボってる』って言いつけますよ」

チョコラータがこちらを見た。
大嫌いな人間を見るような顔で。
この場合、『私が』嫌なのではなく、『ボスに』報告されるのを恐れている。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜わかったよ!なんとかしてやるからそこに座れ」
白いベッドを指差す。
ここは、あまり規模はないが、何人かは入院できるくらいの設備がある。このベッドは診察用に置かれたものだ。
私は指示されるまま腰を掛ける。
このベッドと、謎の薬棚や医療器具のようなものだけ置かれた部屋で、先生とふたり。
シーツはひんやりとして、なんとなく落ち着かない。
学生の頃、逃げるのに使っていた保健室に少し似ていて、ぼうっとするような、あるいは明瞭に冴えるような気分になった。

「上着を捲れ。」
「え?」
眼前に仁王立ちした先生から声が落ちてくる。
「お前が『ちゃんと診ろ』って言ったんだろう、さっさとしろ」
と言いながら、丸い滑車付きの椅子をガラガラと引き寄せ、向き合って座った。
威圧感がすごい。
普段も診察のときは対面する形になるが、こんなに距離は近くない。
骨格は整っていても、変な髪とメイクだし、なにより表情。
普段、笑ったり怒ったりしているとわかりにくいが、今みたく少し気を抜いて見えるようなときなんかは、ハッキリとわかる。
先生の目は、なんというか、昆虫のようなのだった。
およそ、感情の通じ合う哺乳類の表情ではないな、といつも感じる。
こうして至近距離で向き合うとますますだ。

「ホラ、早くしろ。」
と言いつつ、勝手に服をめくり上げ、腹を触ろうとしてくる。
「ギャー!無理!!」
私は腹や首とか、身体を自分以外に触られるのが嫌いで、耐えられなかった。家族でも。くすぐったいというか、とにかくいやなのだ。不快だった。
Tシャツの下にキャミを着ていたので、布地一枚越しにではあるが、先生の手が胴をまさぐる。
医者なせいか、診察であるからか、案外平気だった。
とくに、くすぐったさや不快感は感じなかったが、身体のかたまる感じがした。
「低血圧なのになんでさわるんですか、何かわかるの?」
と今んとこ大人しく触診をされながら訪ねる。
すると、

「まあ、低血圧の対処法なんかは、さっき言ったくらいだ。ちゃんとメシを食って、生活リズムを整えて、運動する。
だから、これはまあ単なる趣味だ。私のシュミ。」

と言ってのけた。

は?
「お前だってわかってるように、私はしたくもない仕事をあのクソなガキに無理矢理させられて、ストレスが溜まっている。だから、わたしにだって娯楽が必要だろ?パフォーマンスを上げるためにも重要なことなんだよ。よかったな、私の役に立てて」

鬼畜。サイコ野郎。
というかお前が入院しろ。黄色い救急車に連れ去られて一生戻ってこなくていい。
と叫びだし、暴れようとするのだが、なんだか動けない。
別に薬を盛られたワケでも、副作用のせいでもない。
ここの、この消毒液の、「病院」のにおいと、先生からする、薬剤と、おそらく整髪料とかスプレーだと思われる、私のあんまり好きじゃないスースーした匂い。
真っ白い白衣と、シーツと、カーテンと、天井の清潔さ。
先生の、物のように感情のよめない顔。へんな目。
それらが身体をしばって、動けなくさせていた。
なんというのか、金縛りか。なぜか、何かが、「動いちゃいけない」と命令してきた。

どす、とベッドに背を倒される。
このまま殺されんじゃね〜だろーなと考えていると、先生の顔がグッと近付いた。
「いいのか、にげなくて。」
耳元でボソリと落とされた声は、耳介、三半規管、蝸牛を通り、脳に達した。
その頃には、とっくに別の言葉になっていた。

『絶対逃がさない』

恐ろしいというかうまく身体を動かせず、先生の顔が見られない。
左手首を固く掴まれる。
「いたっ!」
先生はニヤニヤしながら私の頬に右手を添える。
スリスリと手を上下されて頬をなでられるたび、ややくすぐったいのと、おそろしいのと、恥ずかしいのとで、変な気持ちになってきた。なんだかドキドキする。恐怖の割合が高いと思われる。
顎に手を添えられ、上を向かされる。
ええ、と思い、先生の顔がドアップになり、息づかいまでわかる。私はストレスと緊張に耐えられず、ギュッと目を瞑った、そして互いの唇が触れそうになった刹那。

「バタン!」

と乱暴にドアが開いた。
現れたのは、金髪の髪を額の辺りで輪のように巻き付け、変型学生服のようなものを身に着けた少年。
つまり、ジョルノ・ジョバァーナその人であった。

目を見張っていると、
「ちゃんと仕事をしているか見に来てやったぞ、チョコラータ。」
と、心底冷たい声で言い放った。
「げえっっ…………………!!!!!!!!!!!!!!!」
先生が見たこともないくらい青褪めている。これが「血の気が引く」って状態なんだな、というお手本のようで、おもしろい。
「お前の監視は、とても部下には任せられない。危険すぎるからな。まあぼくの部下に手を出したら即バラシますけど」
と言うなり、こちらを見、
『ゴールド・エクスペリエンス!!!』
と叫んだ。
一瞬、なにか衝撃のようなものがあったと思うと、私の上に被さっていた先生が空を飛びつつ、口と胴から血を流している。
「きみ、気を付けた方がいい。釘は刺してあるが、コイツは残忍なヒトゴロシなんだ。何十、何百人も殺めている」
知らない。そんなこと初耳だ。ヤバそーなヤツとは思っていたが。じゃあさっきは本当に殺されるところだったのでは?人間は基本的にある程度親しい人間に触れられると、頻度が高いほど気を許したり油断すると聞いたことがある。
油断さしといてブッ殺すつもりだったのだ、危ない!!!!!!!!!!!!!!!!
あと本当にボスが子供なことにとても驚いている、そんな場合じゃないかもしれないが。

「クソ………………ジョルノ・ジョバァーナめ………………………あと少しだったのに…………」
満身創痍のボロクズみたいな先生がなにかうめいている。
電池切れかけのファービーみたいで、滑稽だ。
「さあ、もうぼくらは帰りましょう。こんなところに長居は無用だ。」
ボスから背に手を回され、緊張する。
そのまま、私たちは診察所をあとにした。







「う…………クソ…………………ジョルノのヤツわたしをこんな目に遭わせてタダですむとおもうなよ……ウッうぐああ!!!!」
「わたしは諦めないからな、待ってろよ、夢主…………………………!!!!」





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