夢小説 | ナノ

Trojandeath



▼ セッコ夢 『夏は死のにおい』 19.8.23



セッコは、瞳ばかりらんらんと大きく、鼻は低く、裂けたような口、ガタガタに並んだ歯。
なにも言わずただ見つめられると、身体が固まり、どうしていいのかわからなくなった。

先生の家に通ううち、なんとなく仲良くなり(というか私が保護者その2になった。その1兼ボスは先生)、遊んだり面倒を見るようになった。

彼は、この間一緒にお祭りでとった金魚をもう死なせてしまったようで、四角いガラスケースの中にひっくり返った魚をぼうっと見つめていた。
「………夢主。しんだ」
「お墓作ってあげよう。アイス買おうか」
チョコラータ先生から、セッコのおやつ代を貰っているため、手をつなぎ店に行く。

日差しに照らされ、汗をかきながら歩く。
影がはっきりと濃く映っている。
歩道に死んだハチが転がり、周りにアリが群がっているのを横目で見て、近くのスーパーを目指した。
徒歩だと5〜6分くらいで着く。
そんなに大きくはないが、歯ブラシとか食料品とか必要なものはなんとなく揃っている。少し古い建物だ。
中は吹き抜けになっており、2階ではプールなど子供向けの習い事をやっている。
塩素の匂いが鼻をついた。

真っ昼間のスーパーは空いていて、アイス売り場は涼しく、気持ちがいい。
「どれがいい?棒付きのにしなね」
「う〜〜〜んと、え〜〜〜〜〜〜〜〜っと………………」
かなり体の大きな男が、夏だというのにニット帽、長袖長ズボンという出で立ちなので、辺りにチラホラいる人たちが視線を向けてくる。
彼は肌を出すのが嫌いなようで、いつもこんな格好だった。先生のうちは空調のせいかひんやりとしていて問題はなかったが、外、特にこんな夏場は大変だ。
彼はどれだけ汗をかいても、けして脱ごうとはしなかった。

セッコは風呂も嫌いだった。
先生がなんとか遊ばせながら入れてやっていた。
水は好きなようだが、石鹸で洗われるのが我慢できないのらしい。
動物みたいだなと思った。
彼の健康と清潔は、すべてチョコラータによって調整されていた。
放っておくと甘いものばかり食べようとし、自分で髪も洗えない。
戦闘は得意なようだったが、つまらない日常生活の些事を自分で「選択すること」をひどく不得手とするみたいだった。

そんな彼は周りを気にすることもなく、ガラスの中に並べられたいくつものアイスたちを見比べては唸っている。
外見と釣り合わない幼い仕草で、人差し指を口元にやり、ドロンとした目で何かを推し量る。
右手は私の左手と重なったままだ。
これで本当に小さい子どもなら、普通の光景だろうなと思う。
しかし、くっついた手の平の汗がすごいので、そろそろ決めていただきたい。

「これがいい」
と言って、やっと彼が選んだのは、二つの容器がくっついていて、シャーベットを吸って食べるものだった。というかパピコ。
おいしいけど。
「それ、棒ついてないよ。お墓つくってあげられない」
「ええ〜〜〜?これ、がいい」
「もう……」
私はもう一つ、棒付きアイスを手に取って、レジに向かった。

セッコは先ほどのアイスを半分千切って、一つを私にくれた。
コーヒー味がつめたくて美味しかった。

先生の家の庭に勝手に死んだ魚を埋め、その上に小山を作り、セッコが舐めたアイスの棒を刺し、そこらで摘んだ雑草を供えた。
「セッコ、ほら、手あわせな」
祈るんだよ、と言うと、
「うぅ、」
となれない様子で手を合わせた。
私が目を閉じると、彼も真似をした。
きっと「祈る」なんて意味は分からないんだろうなと思う。
なんとなく、この先生の家の庭が、彼が殺したたくさんの動物の墓であふれかえっているところを想像した。


夕方になり、少し日が落ちて涼しくなってきたので公園に行き、二人であそんだ。
大の大人がキャアキャアいって騒いでいるので、通りがかった人たちはジロジロ見た。
ブランコを漕ぎ、セッコが鉄棒から飛び降りた。
滑り台を駆け下り、砂場で山を作り、持ってきたバケツで水路を流し、蟻を溺れさせた。

セッコは蟻に水を掛けてやると、すごく喜んだ。
私がふざけた象のじょうろに水を汲んできて、蟻の巣や行列にかけてやると、もっとやれもっとやれと興奮した。
彼は虫を殺すのが好きで、よく潰していた。
悪意というより、ただ何も考えてないだけだと思う。
残酷な子供と同じだ。
セッコが楽しそうに笑うが、私には彼が実際なにを考えているのかわからない。

セッコは、なにか飛んでいる虫を捕まえ、千切った翅を私にくれた。
薄く透明なそれは、彼に乱暴に取られたことであちこち破けていたが、向こうが見えて綺麗だった。
小学生の頃、蝶をつかまえたとき、強く掴みすぎて鱗粉が取れ、翅をボロボロにしてしまったことを思い出した。
ところどころ赤くなった翅を見て、ショックというか、とんでもないことをしてしまった、と恐ろしくなったが、今は人間がばらばらにされていても、ああ〜バラバラになっているな眠いで済ませられるようになった。
先生のおかげだ。
ありがとう先生!

私は翅を捨て、セッコにもう遅いからそろそろ帰るよう促した。
「ええ〜〜、まだ、あ………遊びたい」
やだやだ、とガキのように駄々をこねる彼を見て、一瞬殴りつけたくなったが、彼の気に入りの菓子をポケットから出す。
「いま帰ったら、これ食べさせてあげるんだけどなあ〜」
「……!!!!!!食べたい!!!」
「じゃあ帰ろう。」
手を繋いで帰った。
昼とは違って幾分涼しくなっていて快適だった。

明日も私はダメなままで、なんにもなくて、やはり何もない頭の足りない彼と二人で、溶けるようにいるしかないんだろう。チョコレートのように。泥のように。
毎日うんざりしながらも何も変わらない、頭がいたくてもイライラしたって、やはり明日も何も変わらないんだろう。

横から彼の淀んだ瞳を見ながらそう思った。






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