夢小説 | ナノ

Trojandeath



▼ プロシュート夢 「u星より愛をこめて」 19.7.17



ある任務の中で、ペッシを庇い列車に轢かれて死んでしまったプロシュートの葬式を執り行っているとき、隣に人影を感じた。
顔を正面に向けたまま横目で見やると、そこには顔に黒い影を落とした彼が、たった今葬式を催されているその彼が、立っていたのだった。
生き返ったのかと思ったが、お棺の中には彼の死体が横たえてあるし、それに立っている彼は、なんというかへんだった。
綺麗に整えられてある死体とは違い、全身真っ黒い影のように、死んだときそのまま、ようやくといった感じで立っていた。
スタンド攻撃かとも思ったが、微動だにしないし、恐ろしいのでそのことは誰にも口には出さなかった。

そこから(恐らく)幽霊である彼との生活が始まった。
彼はどうやら私にしか見えないようで、特に話しかけてくるようなこともなく、無言で、潰れていない方のドロリとした左目でこちらを見つめていた。
彼の見た目は、死んだ時の様子のまま全身赤く染まっており、なかなか凄惨だった。
轢かれたとき地面に身体の右側を強く打ち付けたようで、そちらは酷い有様だった。目は潰れ、手は取れ、脚はグチャグチャになっていた。
彼の死体を見たチームのみんなは、かなりショックを受けていて、それは私もそうだったが、みんなは葬式でそれは終わってしまって、あとは感情の整理だけだった。
しかし私は毎日それに直面した。

血みどろの彼は常に私にくっついて、監視をした。
生きていた頃もそうだった。
彼は、いつでも私を見ていて、失敗すると怒鳴りつけた。
死んでからもそれは変わらないようだった、というか死んですることがなくなり、ますます悪化していた。
ただ無言で、私のそばや、少し離れたあたりに突っ立って、表情は影になりよく窺えなかったが、私に対しての怒りを時々感じるのだった。

私にプライバシーという高等なものはなくなった。
彼は私が寝ているときも、仕事をしているときも、シャワーを浴びているときでさえも見張っていた。
段々神経がおかしくなってきた。
夜も彼が見ているのでよく眠れないし(でも疲れているから、恐怖に陥りながらもいつの間にか眠りに落ちていた)、生前彼に叱られたというか八つ当たりされたことを思い出し、いつも怯えた。
しかし反対に、彼はどうやら活気が出てきたようで、なんだか死ぬ前の彼のような輝きさえ感じるようになった。容姿はそのままだったが。
彼はユウレイらしく、私の生気を吸い取っているのかもしれない、と思った。

生きてても死んでいても自分を苦しめてくる彼は、一体なんなのだろう。
なぜ私にそんなにまで固執するのか?全く理解し難かった。
少なくとも、親しみとか愛情のようなあたたかいものでは絶対無いし(すぐ怒ってきたり悪口を言ったり、時には(加減してくれたとはいえ)手も上げてきたからだ)、嫌いならそれはそれで、彼の性格からいうとある程度距離を置くはずだと思う。
それじゃあ何だというのか。
過去に彼は、
「なんでオレがわざわざこんなことするのか分かるか」
と聞いてきたことがあった。
「私がわるいから?」と吃りながら答えたが、彼が言うには、「お前のため」なのだそうだ。
私は、そのとき彼のことを理解しようとするのを諦めた。
友人もおらず(過去の友人も2〜3人しかいないし、関係が長続きしない)まして恋人なんていたこともないような私は、他人の感情を読み測るのが苦手だった。
いつも空気が上手く読めず、一人だけ浮いてしまうので、いつからか人前では出来るだけ喋らないようにした。
しかし、それにしたって彼の意味不明さは別格であった。

毎日身体が重かった。
多分これはユーレーとかそういうことでなくて、精神的なものだと思う。ストレスだ。
彼が死んだとき、私はずっと彼にそうして虐められていたので、彼のことを尊敬もしていたが、正直一番に思ったのは、
「もう虐められなくて済む」
ということだった。
虐めというか叱責というか、でも他のメンバーにするのとは温度の違うものを受け続けていた。
へばりつくような感じの。
もうあれを受けなくて済むのかと、やっとあの目で監視されなくて済むんだと思った。安心した。
その罰なんだろうか。
ペッシは彼の死をただただ純粋に悲しんでいたし、なんなら毎日部屋で一人で泣いているし、(しゃくりあげる声が聞こえてくる)どうせならそっちに出てやるのが人情(もう人じゃないけど)だと思うのだが。
さっぱりよくわからない。
混乱しきっていた。

彼の視線から逃れたくて、家ではずっと毛布とかタオルケットを被っていた(暑苦しかったが、背に腹はかえられない)。
食事を取るのも怖かった。
また、彼が生きていたときみたく、「なんでモノをこぼさねぇで食べらんねえんだ!」とか「食うのが遅い」とか言われるんじゃないかと、もう何も喋らなくなった彼にビクビクしながらなんとかもそもそと(相変わらずしょっちゅうこぼしながら)食べていた。

もう限界だ。
これまでも、みんなに話そうか、相談しようかと何度も考えたが、それは出来なかった。
皆の中で彼のことはまだ生のままだし、それに自分の方がおかしいと思われかねない。強いショックを受けておかしくなってしまったんだと。
もしかしたら自分の妄想なのではと考えたこともあったが、それはない(と思う)。
こういうことがあった。
夜にフト目を覚ますと、真っ暗闇の中で赤い小さな光が見える。
薄ボンヤリとして輪郭のない赤に暫くみとれていたが、目を凝らしてよく見ると、彼がいつもしていたように、自分のタバコをふかしているのだった。
「幽霊ってタバコなんか吸うのかよ」と「火事になりませんように」と思いつつそのまま寝ると、目覚めたときハッキリと煙の匂いがした。
匂いさえ、五感すら妄想と言われてしまえばもう仕方のないことだし、幻視幻臭だと言われればそうかもしれないが、私にとってはそれが事実で、例え妄想でも自分にはどうしようもない。という点で幽霊と何も変わらなかった。

なんとか助かろうと思い、塩を撒いてみたり、(信じてもない)いろんな神に祈ったり、ネットで見た除霊方法を試してみたり(除霊術と称し降霊術を書いているものもあってヒヤヒヤした)、十字架を吊るしたりしてみたが、どれも効果はちっとも無いようだった。
寧ろ嘲りをなんとなく感じ取れた。
生前の彼風に言うなら、
「オレにそんなの効くと思ってんのか、ええ?ブス。」
と言う感じだろう。(似たようなセリフはしょっちゅう言われていた)
彼の攻撃(視線)に耐えられなくなり、もう殺されるくらいなら自分で死んでやろう!とフミキリまで行ったこともあったが、やはり踏ん切りが付かず、列車を何本か目の前で送ってから、下を向いて家に帰った。
私が迷っている間も彼は変わらずこっちを見つめていた。

死にたくても生き汚いので死ねない私は、これからも毎日毎日毎日彼の憎悪のような視線が突き刺さるのに耐えるしかないのであった。

彼がなぜ私にまとわりつくのか、一体いつまでこれが続くのかは知りようがなかったが、明日も何も変わらないだろうということだけわかった。





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