夢小説 | ナノ

Trojandeath



▼ プロシュート夢 泥の世界C 19.6.30



チームのメンバーみんなでレストランで食事をしていた時のことだ。
私は不器用があり、時々ご飯や飲み物を落としたりこぼしてしまうことがあった。
その時も、水を飲んでいて、口から少し零してしまった。
横にいたメローネがクスクス笑いながら、紙ナプキンで口元を拭いてくれた。
「大丈夫かい?」
「うん、ごめん、大丈夫。自分で拭けるよ」
服にこぼしたのは自分で拭いた。
周りで見ていたメンバーも、お前はほんと抜けてんなとか、暗殺チーム失格だとか、ゲラゲラ笑いながら言ってきた(酒で多少陽気になっている)。
和やかな雰囲気だった。私の正面(わざわざ正面!!!)に陣取って、こちらを睨みつけている彼の視線を除けば。

幸いその場では何も言われなかったが、帰ってから呼び出された。
「ちょっと来い。」
彼の部屋に通される。この部屋に来るだけで正直身が竦む。
「お前は何で食事すらまともに出来ないんだ?アホなのか。
ちゃんとしたテーブルマナーを身に付けろとまで言わないが、せめてこぼさないようにしろ。」
今日は割と理性的なようで、別に怒鳴ったりはしてこないし、言っていることも正しい。
少し安心する。
「正しい方の」彼だ。

「はい、ごめんなさい。」
軽く頭を下げる。
「あー、別にそんな謝んなくていい、次から気を付けな。」
ホッとして顔を上げると、普段通りリラックスした顔の、「普通の」彼がいた。
「そういえば、お前よォ。」
何か話し始めた彼が、突然手を上げたのでドキリとして、咄嗟に腕で頭を庇う仕草をすると、彼は髪を掻き上げただけだった。
しまった。
彼は私の動作に気付き、みるみる顔色を変えていく。
すぐに手を下げたが、もう間に合わない。
「……なあ?オイ。お前は、オレが殴るとか思ってんのかよ?何の理由もなく。」
雰囲気がどんどん澱んでいく。
「本当は殴る気なんか無かったのによォ!!!!!!!お前がそんなことすっから!!」
バシンとはたかれる。
「殴りたくなるだろうが!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
これはもう完全に自分の失敗だ。
折角今日は殴られずに済みそうだったのに。彼を怒らせずに過ごせそうだったのに…。
痛みというか衝撃に耐えるのに精一杯で、現実が遠くなっていく。
彼が何か喚いている。
灰皿を床に投げ付け、ガシャーンという音が響く。
あんなブ厚いガラス、割れるんだ。とかどうでもいいことは考えられた。
頭を庇っている腕に打撃を感じる。
先ほどのガラスの割れた音で流石にメンバーも気付いたらしく、誰かがドアを叩く音が聞こえた。
ドアが開く。
ガチャリ。
「……大丈夫?」
メローネだった。
他のメンバーよりは大ごとにならずに済むかなとか打算をしていると、私が何か言うより早く、彼が
「あー、コイツにちょっと注意してたら、ウッカリ灰皿落としちまっただけだ。気にすんな」
とメローネを追い返そうとした。
だけど彼は私が何かおかしいということに気付き、
「オレ、ちょっと君に用があって。すぐ済むから!」
と痣のない方の腕を引っ張り、連れ出してくれた。
プロシュートも他のメンバーの前では流石に乱暴はできないみたいだった。
後が恐ろしかったが、今は助かって良かった。
と思った。

彼の部屋に着くと、
「すぐ冷やした方がいいよ。」
と言って濡れタオルを差し出してくれ、殴られた場所を冷やしてくれた。
こんなに他人から優しくされたのは初めてだ。ちなみに家族も他人にカウントされる。
「もしかしてさ……。」
タオルを当てながら、彼が尋ねる。
「アイツに殴られてんの?いつも。痣とかチラチラあるとは思ってたけど……。」
「アイツ、誰にでもけっこうすぐ手ぇ出るからなあ。」と少し困ったような感じで言う。
そんなに深刻にならないよう注意してくれているのが分かる。
そうなってしまうと、私が言い出しづらくなると配慮しているのだろう。
メローネはよく気が付いた。他人との距離の測り方が一番上手で、普段はマイペースにしているが、大事なときには他人によく気を遣った。
私が何も言えないでいると、
「無理に言わなくて良いけどさ、辛いこととかあんなら言ってよ。」
「あんまこういうこと言うのガラじゃないけどさ、一応仲間じゃん。相談したいことあるなら、オレでよければ聞くよ。」
なんでこんなに他人に優しく出来るんだろう。
しかも、私みたいな奴に。私だったらメンドくさいし絶対こんなこと出来ない。
「……あの………………。」
「ウン。」
優しい顔と柔らかい雰囲気がある。いつ怒り出すか分からない彼とは正反対だ。
「ち、ちょっと……。殴られてる…けど。私が悪いっていうか……………そのせいだから…ていうか、」
しどろもどろになり、言葉に詰まる。
なんと言えば良いのかわからない。
それが彼にも伝わったらしく、
「うん、うん。なんとなくわかったよ。無理に言わなくても大丈夫。」
と言いながら、背中をポンポンとしてくれた。
なんで他人なのにこんなに良くしてくれるのか。
寧ろウラがあってくれた方が安心できる。
「……オレもさ。」
ぽつぽつと語り始めた。
「昔、ガキの頃さあ、親父がけっこー厳しい人でさ。」
「オレがいうとーりになんねえとけっこー躾とか言って殴ったりしてきてさ。」
みんな、あまり過去の話はしないから、彼が話し始めたことが、ちょっと意外だった。
「自分はちょっと偉い人だったか知らないけど。
オレにもおんなじこと求めてきてさ、オレはそんなのぜんぜん興味ないのに。
母親は、ぶたれてるオレをただ見てるだけで、助けてなんてくれなくってさあ。薄情だよなあ。」
目を細めて、ハハ、と笑う。
辛いことでも笑いながら軽く話すところに、彼の性格がよく表れているなと感じる。
「まあ、家がそんなんだったからさ。殴られるとか、助けてもらえないとか。そーゆー辛さっていうか、そーゆーのは分かってるつもりだし。…力になりたいなと、思うよ。」
最後の方で少し照れながらそういう彼は、自分の人生には限りなく足りなかったものだった。

恐ろしさを感じた。
プロシュートとは違った方向の。
例えようもなく不安になった。
ありがとう、と笑って言ってから、自室に帰り、寝ようと思っても全然眠れなかった。
そもそも夜行性だしなかなか眠れないのはいつものことだけど。

メローネより、殴って自分のことを罵倒してくれるプロシュートの方を思い出して安心し、そこでようやく眠った。




prev / next

[ back to top ]



×
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -