夢小説 | ナノ

Trojandeath



▼ プロシュート夢 泥の世界B 19.6.30



アレ?どこだろう。どっちに行くんだっけ?
と方向音痴を発揮しつつ、持ち前の本能によってこっちな気がする!!とかやっていたらチョコラータとかいう医者(元医者)の診察所に着いた。
プロシュートにつけられたやけどの痕を治療して貰うために来たのだった。

「すみませ〜ん、ここ医者ですよね?診察していただきたいんですけど……」
と玄関から声を掛けると、
「あ?」
と言いながらとても医者とは思えぬ姿の人間が出てきた。でも組織にいる医者ならこんなもんかなーとも思う。

「どれ、見せてみろ」
腕をまくって見せる。
「ハァ。タバコの痕か?カレシにでも付けられたか」
「………」
と黙っていると、クククと愉快そうに笑って、
こんなんじゃフツウの医者になんか見せらんないもんなあ、
と言った。
少しムカついたが、その後は意外にもきちんと処置をしてくれた。
化膿止めを塗り、ガーゼを貼る。
かなり手際が良く、思ったよりちゃんとした医者なのだなあと思った。
「……これだけか?」
他の場所にもあるんじゃないか、ということだ。
「あ、えーと………。お腹の辺りにも……。」
そう、段々陰湿になってきたというか、他人に見えにくい場所にも付けるようになった。

「見せろ。」
「あ、そこまでは…、自分でします」
いいから見せろ、と服を捲り上げられた。
いくつかポツポツと赤い丸が付いているのがわかる。
「フンフン………」
と言いつつじろじろと見回している。
「お前のカレシは加虐主義者のようだな。」
とニヤニヤして言ってきたから、
「あ……彼氏じゃなくて…上司ていうか…」
というよくわからない返しをしてしまった。
「どっちにしろ気が合いそうだ。」
と気持ち悪く微笑んだまま恐ろしいことを言う。
こんな医者にかかりたくないNo.1の栄光を取れる!
腹部の処置が終わってからも、しばらく彼は私の身体を触っていた。
もう何にもないと思うんだけど……。
他人に触られるのは大嫌いだったが、医者はわりと平気だった。
普通、体調が悪くなっても、病院に行けば必ず良くなった。だから「医者」という存在を心から信じていたのだ。
しばらく私の腹とか腕を撫で回した後、ようやく解放された。
他におかしなところがないか探していたのかもしれない。

化膿止めと抗生物質を出してくれ、朝夕二回薬を塗ってガーゼを替えること、薬を必ず飲むことを指示された。
「これで終わりだ。」
「あ、お金を……、いくらですか?」
一応そこそこの金額を持ってきたが、組織の人間である、ふっかけられたらどうしよう、と考えていると、
「ああ、診察料はいらない。その代わり一週間後また見せに来い。経過が見たい。」
と言って、私の頭を撫ぜ、そのまま頬に手を滑らせた。
私は帰路についた。

帰ると、彼がいつものようにタバコをふかし、ソファに沈んでいる。
灰皿には既に山と吸い殻が積まれていた。
他のメンバーも吸うが、殆どが彼のものだろう。
彼は毎日たくさんタバコを吸う。
一体一日何本吸うんだろうと思いながら、
「ただいま。」
と声を掛ける。
ここでこちらに気付いた様子で、
「ああ。」
と鈍く返した。
部屋へ向かおうとすると、
「…どこ行ってたんだ?」
と尋ねられる。
彼が私に関心を持つのは珍しいような気がする。
虐めることはあっても、私の行動にはあまり干渉しなかった。
「えーと、びょ、ちょっと、病院に。」
本当は、買い物に、と言おうとしたが、物を何も持っていないしすぐにバレそうだったから、素直にいうことにした。
彼の目が変わった気がした。

「…?病院?どっか悪いのかよ?」
心底わからないといった様子だ。
多分、彼にとっては小さなやけどくらいは病院にかかるほどのことでもないから、わからないのだろう。
「あ、えーと……、」
袖をまくり、ガーゼの貼った腕を見せる。
「これ……。」
理解したようで、そして雰囲気がガラリと変わった。
いつもの、あの息のできないようなビリビリした空気が広がる。
ヤバイと思い、それじゃ…とか言って部屋に向かおうとすると、
ドスのきいた声で
「オイ。待て」
と言われる。
彼はソファに脚を広げてやや前傾になり、両肘をそれぞれの太ももにかけていて、表情はよく伺えなかったが、『怒っている』のはよく伝わる。
全身が置物のように固くなる。
彼は、自分の右側をポンポンと叩き、座れ。と合図をした。
ビクビクしながら横に、そうっと浅めに腰掛ける。

「あのよォー。オレがなんのためにこんなことしてやってると思ってる?」
完っ全にいつもの、タバコを押し付けたり暴言を吐くときのニュアンスだ。
「え………、と わたしが………悪い から……………?」
息を吸おうとしてもうまく入ってこない。
頭だけグルグルまわって、でも口から言葉は全然出てこなかった。

ガシと顎を掴まれる。
完璧に獲物を狩るときの目をしている。獣のような。
「オメーは勘違いしてるぜ。
オレは『お前のために』やってやってんだ、わかるか?」
「お前は手がかかる、他のヤツより。だからオレが面倒みてやってんだろ?わざわざ。なあ。」
彼の言葉を「聞いている」というより「皮膚で受け止めている」という感じがする。
世界が少し離れ、彼を一歩引いて見ている自分がいる。
彼の言葉は、音声となって鼓膜を揺らした。
同時に、世界に接近した自分もいて、恐怖でどうしようもなかった。とにかくただ黙っていた。

恐ろしいのに、彼の瞳から目が離せない。
美しいブルーの瞳だ。
早く誰か帰ってきて、解放されないか、そればかり考える。
「医者に、どこの医者に行ったか知らねえが、俺がやったって言ったのか、ン?
ひどいことされてるから助けてくださいってか?ぁ"あ"!!???」
突然彼がブチ切れる。
いつもこうだ。
どこで、何が彼の怒りの引き金になっているのか、いつも分からない。
とにかくわかるのは、「私に対して怒ってる」ってことだけだ。
いつものように訳の分からない理不尽な(そして恐らく彼には「道理の通った」)暴言を浴びせられ、フラフラになって部屋に戻る。
どうしてあんなに嫌われなきゃいけないの………。
私はそんなに悪いことしてないのに。少なくとも、自分ではそう思うのに。
他のメンバーがミスをしても、彼はそんなに怒らない。
「次は気をつけな」
とか、そういったことを言うだけだ。
でもそれが私なら、ここぞとばかりに怒鳴り散らす。
たった今まで冷静でも、地雷が地面に沢山埋まっていて、それを私が踏んでしまうように。
その地雷によって、私の腕や、脚はばらばらになるのだ。
でもそれは精神のことだから、誰にも見えない。見えないのだった。

そして、私は明日も、自分にはよく分からないことで彼に叱られる。「八つ当たり」される。
明日も何も変わらない。
それだけはわかっていた。



彼は私が薬を飲むのを嫌がる。私が薬を飲んでいると、必ず不快そうな顔になる。
元々不安を抑える漢方と、脳が働くようにする薬の二つを出されていて、漢方は朝夕食前に、もう一つは夕食後に一錠。飲むのだが、彼が見ると嫌そうにするから、いつも部屋で隠れて飲むことにしていた。

今日医者に貰った抗生物質を、忘れないようにと食後にウッカリ含んだところ、彼は目ざとく見つけ、「何ヘンな薬飲んでんだ?お前は。」と言われた。
彼のこの、「私の領域」に踏み入ってくる感じ。ズケズケと。遠慮なく。
これは、私が世界で最も憎んでいる人に似ているな、と感じた。




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