雨のち、曇りのち、晴れ | ナノ


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「ゴムゴムのオォォォォォ生け花!!!」
「生け……は?」


自分の船のメインマストを手にしたルフィがラブーンの頭を駆け上がりできたばかりの新しい傷にそれを刺したのだ。少しの沈黙の後でラブーンは目を見開いて吠えるとその痛みに頭を左右に大きく振り出した。目の前で起きていることにノエルを含めその場にいる全員が愕然とする。
ラブーンは頭に刺さったマストをルフィごと地面に叩きつけた。騒ぐ仲間達やクロッカスをよそに楽しそうに戦うルフィ。攻防が繰り返されついにルフィが灯台に叩きつけられそこにラブーンが突進していく、その時だった。


「引き分けだ!!!」


響き渡るルフィの声でラブーンの動きがピタリと止まった。


「おれは強いだろうが!!!」
「?」
「おれとお前の勝負はまだついてないから、おれ達はまた戦わなきゃならないんだ!! お前の仲間は死んだけど、おれはお前のライバルだ」


静かに聞くラブーンにルフィは更に続けた。


「おれ達は偉大なる航路を1周したらまたお前に会いに来るから! そしたらまたケンカしよう!!」


つまり、ルフィはラブーンに新しく「待つ意味」を与えたのだ。それが通じたのか、ラブーンの目からは大きな涙の粒が流れ落ちルフィに返事をするように空に向かって大きく吠えた。


「相変わらずぶっ飛んでるわ」


ルフィは後先を考えず行動することが多い、というかほとんどだ。無茶苦茶なことばかりするのだが彼のやることにはちゃんと意味があって最後にはかならず皆が笑顔になる。独特の雰囲気を持ち人を惹きつける不思議な力を持つ男、それがモンキー・D・ルフィなのだ。
冒険の本番はこれからだと言うのに船首もマストも折れてしまい自分たちの命を運んでくれる船がボロボロだと言うのに、ルフィも仲間達も微笑んでいる。それを見ていたノエルも自然と微笑んでいた。


「これが俺とお前の『戦いの約束』だ!!」


大きな筆とぺっきを持ち出しラブーンの頭に自分たちの海賊旗のマークを描いたルフィは、ラブーンがもう頭をぶつけなくてもいいように、自分たちの旗印を描き消さないようにと言い聞かせた。


「よかったね、ラブーン」
「ブオッ!」


それから麦わら海賊団は腹ごしらえに船の修理と出航の準備に取り掛かる。航海士のナミが地図を広げ取り出した羅針盤を見て叫び声を上げた。


「羅針盤が壊れちゃった……!!」


航海士でなくともこの「偉大なる航路」に入ろうとする者ならば知っていて当然だろうが彼らは何も知らずにこの海に入ってきてしまったらしい。とんだ命知らずだとノエルはため息をつく。
その後クロッカスに話を聞いた彼らは少しのハプニングを経てこの先の航海で必要不可欠となる「記録指針」を手にした一味。あとはログが溜まればいつでも出航できる。そんな彼らを見送るために様子を見ていたノエル、そしてクロッカスがルフィの様子がおかしいことに気付いた。


「……何をしているんだ小僧」


辺りをキョロキョロしながら時折匂いを嗅いで歩き始めたのだ。どうしたのだろうかと思っているとルフィはクロッカスに言うのだ。


「やっぱりよ、誰かいるんじゃねェか?」
「言っただろう、ここには私とお前たち以外は……」
「匂いがするんだよ。懐かしい甘い匂い」


その言葉にノエルの心臓がドクンと跳ねた。ルフィの言っている「懐かしい甘い匂い」というのは自分がいつも持ち歩いている紅茶のチョコレートの香りだろう。幼い頃母親がおやつにいつもくれたそれをルフィと初めて会った時にも持っていた。今でも大好きでノエルは常に持ち歩いているのだ。


「お前はいつも甘い匂いがするって言ってたな〜」


それにしてもこれだけ離れた場所にいてしかも潮の香りがする海だと言うのによく気づけたものだ。


「どうした」
「いや……ここにいるわけがねェんだ、けど」


懐かしい甘い香り、それは自分がよく知る人物がさせていた香りだ。探し出して仲間にすると決めた、その人の香り。
ルフィはもう一度クロッカスに聞いた。


「いるんだよな誰か……どんな奴なんだ?」
「誰もいるとは言っとらんぞ」
「おっさん!」
「……自分の目で確かめてみたらどうだ?」


そう言ってクロッカスはノエルがいる灯台を見上げた。





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