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時間は刻々と迫るがバナナワニは一匹だけではない。鍵を呑み込んでしまったバナナワニが水槽に戻ってしまえばもうどれが鍵を持っているのかわからなくなってしまう。
全てクロコダイルの思うがままに事が進んでいた。
「なんてヤツっ!!!」
「くそ・・・この檻の鍵さえ開きゃあんなハ虫類・・・!!」
クロコダイルに腹を立たせるナミは拳を震わせ、自分の力ではどうにもできない事にゾロは刀を強く握る。
「そうだ!」
するとウソップがひらめいたとノエルを振り返った。
「お前ならこの檻壊せるんじゃねェか?」
「そ、そうよ!あんたならその刀でスパーンと!」
その2人の言葉に応えたのはノエルではなくクロコダイルだった。
「そりゃ無理だな。ダイヤモンド並の固さだぜ?海楼石ってのは」
「何よ!ノエルならこんなの」
「ナミちゃん」
「ッ・・・!」
「お前がどれほど強いかは知らねェが・・・海楼石の中じゃあ、手も足も出ねェよな・・・」
ニッと口角を上げて笑ったクロコダイルにノエルが初めて顔をしかめる。そして気付いたのはゾロだった。
「お前、能力者なのか・・・?」
「何だ、言ってなかったのか?そりゃあ悪いことをしたなァ」
「チッ・・・」
ウソップは純粋に驚きの声を上げルフィはいつものように目を輝かせた。ナミも驚いてはいたがさすがに頭の回転が速く、すぐに怒りに変わる。
「じゃあなんでわざわざこっちに落ちてきたのよ!ほんっとバカしかいないんだから!!」
「バカってナミちゃん・・・」
「なによ!バカじゃない!!」
騒ぐ檻を見てまた笑いクロコダイルはミス・オールサンデーを連れて扉に向かう。
この部屋はクロコダイル自身がB・W社の社長として使ってきたもう不要の秘密地下。これから水が入り込み1時間かけて自動的に消滅するようになっている。そこから出ることができなければ同時に、檻に閉じ込められているルフィ達もレインベースの湖に沈むことになるのだ。
「罪なき100万人の国民か・・・未来のねェたった5人の小物海賊団か・・・・・・一国の王女もこうなっちまうと非力なもんだな」
「・・・・・・!!」
「この国には実にバカが多くて仕事がしやすかった・・・若い反乱軍やユバの穴掘りジジイ然りだ・・・!!」
「何だと!?カラカラのおっさんのことか!!」
ユバで出会ったトトだ。クロコダイルが何を言おうとしているかわかったノエルは眉をひそめた。
「砂嵐ってヤツがそう何度もうまく町を襲うと思うか・・・・・・?」
そう言ったクロコダイル右手には小さな砂塵が渦を巻く。それが何を意味するのか、その場にいた全員が気付いただろう。全てはこの男の仕業だ。
脳裏に浮かぶのは痩せこけフラフラになりながらも穴を掘り続け、大事な水を自分たちに与えてくれたトトの姿。
「殺してやる・・・」
「ハハッ!!!ハッハッハッハッハッハッ!!!」
怒りに震える唇を血が出そうなほど噛みしめているビビ。そんな彼女のことだけじゃない、すべてのことをバカにするように笑いクロコダイルは部屋を出て行こうとする。
ビビは武器を持った手を震わせ目には涙をためて彼を睨みつけていた。
何をすればいいのかなんて最初から分かっていた。クロコダイルを殺さない限り何も終わらない。
国か仲間かと言ったが、あの男は何一つ返すつもりなどなく国の人々のこと、歴史、生き方、何一つ知らない奴に国を奪われるというのか。
「ウウッ・・・・・・!!!」
武器を持ち一度上げた腕は力なく落ちて頭も上げられなくなってしまったビビを大きな声でルフィが呼ぶ。
「ビビ!!!何とかしろっ!!!おれ達をここから出せ!!!」
「ルフィさん・・・!!」
命乞いでも何でもない。誰よりも『諦める』と言う言葉を知らないこの男はクロコダイルをぶっ飛ばすと決めているのだから。
「おれ達がここで死んだら!!!誰があいつをぶっ飛ばすんだ!!!」
「・・・・・・自惚れるなよ、小物が」
「・・・・・・お前の方が小物だろ!!!」
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