雨のち、曇りのち、晴れ | ナノ


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雲一つない青空の下、海も風も穏やかな日。
ここは偉大なる航路の入り口にある双子岬。赤髪海賊団の船を離れたノエルはここで灯台守をしているクロッカスという男とラブーンという大きなクジラに会いにここに訪れた。
姿が見えない彼らは海の中にいるのだろう。ノエルは彼らを待つため灯台を上まで上がりそこに腰掛けると好きな煙草を取り出して火をつける。ひと口吸って深く吸い込み煙を吐きだすとそのまま咥えて、今度はズボンのポケットに入れていた1枚の手配書を広げた。

モンキー・D・ルフィ
懸賞金3千万ベリー

10年前にシャンクスが命を懸けて守り大切な帽子を預けた「海賊王になる」と言っていた少年だ。海へ出たという知らせをこんな形で知ることになるとは思っておらず、しかもその写真は手配書にはふさわしくない満面の笑みなものだから初めて見た時は声に出して笑ったことを思い出す。


「楽しくやってるんだろうね」


そう呟いたのとほぼ同時、海面が大きく盛り上がりラブーンが顔を覗かせるとその体に作られている扉からはクロッカスが暮らす島船と、一緒に小さな海賊船が出てきた。麦わら帽子を被った骸骨か描かれた旗を見たノエルは目を見張る。
その船に乗っているのは自分の手にある手配書の彼、モンキー・D・ルフィなのだから。
なぜか甲板に転がっている羊の形のそれは恐らく船首で、海賊船にしては小さくて船員はたったの5人。何かの間違いでこの偉大なる航路に入ってきてしまったのではないかとノエルは驚いていた。


「ブオォーッ!!」
「ん? あ……」


しまった、とノエルは咄嗟に隠れた。
そっと下の様子を伺ってみるが気付いているのはクロッカスだけのようでルフィ達は船を岸に付け上陸する準備をしている。クロッカスのことだから自分が下りて行かなければ彼らが岬を出航するまで何も言わないでくれるだろう考え、ノエルは新しい煙草に火をつけて座り直し煙を深く吸い込んだ。これでも内心どうしようかと焦っているのだ。


「降りてこないのか!」
「えええ……」


ノエルの考えとは裏腹にクロッカスの声が聞こえてきたことでうな垂れる。クロッカスにはルフィやシャンクスのことを話したことがある為あの麦わら帽子を見てノエルが話していた少年だと気が付いたのだろう。
しかしノエルにはルフィに会うつもりは毛頭ない。「風」になるとクロッカスの側まで降りて行った。


「ん? ノエルか」
「あの子達がここを出るまで私上にいるから、何も言わないでいて」
「いいのか? お前が話していた小僧だろう」
「いいのよ」


そう言うとクロッカスの返事を聞く前にまたさっきまでいた場所へと戻る。
ノエルは自然系悪魔の実の能力者であり主に風を使って移動をする。もちろん実体を無くすこともできる為姿を見せることなくクロッカスと話をすることができたのだ。


「おーい、おっさーん!」
「ああ、来たか」
「んん? 誰かいたか?」
「いいや」
「ふーん……そっか」


ノエルは匂いのことを気にして一度取りだした煙草をポケットに押し込んだ。変に勘が鋭いというか野生の勘がよく働く子だったと昔のことを思い出す。出会ったころはルフィのことを鬱陶しく思っていた。会いたくなくて隠れていたのにどこに隠れても彼は絶対に自分を見つけたのだ。
10年前が懐かしい。ルフィの手配書が自分の手元に届いた時は驚いたが同時に嬉しかったのだ。海賊になるんだと言っていた生意気で泣き虫で我がままだった子が海賊になり「海賊王になる」ために仲間達と一緒に旅をしているのだから。


「逞しくなっちゃって……」


ルフィの言う「冒険」の始まりをスタート地点とも言える偉大なる航路入ってすぐの場所から見送れると言うことを嬉しく思うノエルの顔には笑みが浮かんでいた。



「50年もこの岬でね……まだその仲間の帰りを信じてんのか」
「随分待たせるんだなー、その海賊たちも」


話はラブーンの頭の傷のことへ流れていた。
自分をこの岬に預けた海賊達を待ち続けているラブーンだが、その海賊達はすでに偉大なる航路から逃げ出していてもういない。しかし話を信じず彼らに聞こえるよに赤い土の大陸に吠えながら頭突きを繰り返しているのだ。

─ラブーンは事実を決して受け入れようとしない─

ノエルはいつかクロッカスが話していたのを思い出す。
ラブーンがクロッカスの言葉を拒み続けるのは自分がここで待つ意味を、自分が生きる意味を失くしてしまうからだ。
それがどんなに酷なことかノエルは知っている。だからこそノエルも何とかしたいとクロッカスに協力したこともあったのだが、ラブーンのそれを辞めさせることはできなかった。
このままではラブーンは死んでしまうのも時間の問題だ。


「ごめんね、ラブーン……」


ため息を吐いたところに突然ルフィの大きな声が聞こえてきた。





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