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ドラムを出て5日目──
ルフィがアラバスタまでの食糧をすべて食べてしまいサンジ君に怒られるわ、カルーを釣りの餌にするなんて馬鹿なことをしたルフィとウソップがビビに怒られるわ、そんな賑やかな空間で私とゾロはいつものように昼寝をしているわ。
メリー号は今日も平和である。
「ふわあぁ〜・・・サンジ君お茶くださーい」
「喜んで〜!!」
「昼寝はもう終わりかノエル」
「んー・・・ゾロがねー」
枕にしていたゾロがなんだか落ち着かない様子でトレーニングをするからと昼寝をやめてしまって、そのまま寝ていてもよかったけれど一度目が覚めてしまったらルフィ達の騒がしさが気になって寝れなかったのだ。
「ノエルとゾロは仲良しだな!いつも一緒だ!」
「ん?そうね。好きなのよ、あの子の隣」
「いいなーおれも一緒に昼寝してぇなー」
「いつでもおいで。チョッパーなら大歓迎よ」
「本当か!?いひひー」
「で?君は何をしてるのサンジ君」
「え?・・・おわっっちぃ!!」
話を聞いていたサンジ君は注いでいる紅茶がカップから溢れている事に気付かず口をあんぐり開けて茫然としたように私達の方を見ていた。
「大丈夫かサンジー!!」
「珍しいことがあるもんだねェ〜」
そこにチョッパーを呼ぶルフィとウソップの声が聞こえてきた。サンジ君が大丈夫だからと言うとちゃんと冷やすようにと言って彼はラウンジを出て行った。
お待たせしましたと言って出された紅茶は相変わらず美味しくてそれを笑って伝えればサンジ君はいつも通り目をハートにして幸せだと言ってくるくると回りだす。
「・・・なに、どうしたの」
かと思えばまた思い出したかのように落胆したかと思うと正面に座って煙草に火をつけた。
「ゾロの隣が好きだなんて・・・よりによって何であのクソ剣士・・・!!」
「何でって・・・温かいし心地いいし気持ちよく眠れるし、枕にもなってくれるし。幸せだなと思えるのよ」
「なッ・・・!!」
目も口も大きく開いて固まったかと思うと静かに煙草を灰皿に置いてサンジ君はそのままテーブルに顔を伏せてしまう。そんな彼が何を思っているのかわかった私は笑って頬杖をつきあからさまに残念そうに話してみる。
「サンジ君は、気づいてなかったんだ」
「え・・・」
「ふ〜ん。そっかそっか〜」
「え、なに!?」
そう言ってバッと顔を上げたサンジ君にグッと顔を近づけて教えてあげた。
「私がお茶をするときは必ず君のそばにいるのに」
するとサンジ君はピタリと止まる。恐らく今までのことを思い返しているんだろう。
私がお茶をするときは基本的にラウンジにいる。それは彼がそこにいるからで、彼が外にいれば自分も外でお茶をする。
「君は仕込みや私たちのデザート作りでキッチンに立っていることが多いから、2人で話す時間ってあまりないでしょう?」
「あ・・・」
「だから、君が私の為に淹れてくれた紅茶は君の側でいただくの。それが私のサンジ君との幸せな時間よ」
頭をくしゃくしゃと撫でるとサンジ君はみるみるうちに顔を赤くして、せっかく上げた顔をまた伏せてしまった。そんな彼が可愛くてつい意地悪をしてしまう。
「膝枕した時も思ったんだけど、サンジ君もそんな風に照れるのね」
「なッ!」
「だって、耳まで真っ赤よ?」
「クッソ・・・!」
「私にはみんなそれぞれとの幸せな時間があるの。もちろんみんなで一緒に笑ってるときが一番幸せなんだけど」
「そりゃ同感だ」
やっと顔を上げてくれたサンジ君の言葉に嬉しいなと思い笑うとサンジ君は紅茶を淹れ直すと言ってまたキッチンに向かってしまった。
「君の思う幸せは?」
「そうだな・・・俺の作ったものを美味そうに食ってるあいつらを見てるときだな」
「ふ〜ん」
「・・・・・・」
「いつもありがとう、サンジ君」
「お望みあらばいつどんな時でも出してあげるさ!」
こちらを振り向かずに言うサンジ君の耳はまだ赤いままで、意外な一面を見れたなと得した気分になる。多分今の私は新しいおもちゃを見つけて喜ぶ子供のような目をしていると思う。
この船の上に乗ってまだ日は浅いけれど、私にとっての幸せな時間がたくさん溢れているのだ。
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