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「ノエル!」
名前を呼んだのはとある小さな港町で出会った人懐こくて冒険話の大好きな1人の少年。
振り向いてどうしたのと聞くとその子は言った。
「おれは、絶対にお前を仲間にするからな!」
「仲間?」
「強い海賊になって、おれはノエルと一緒に冒険するんだ!!」
少年を見て何も言わずにいると後ろから赤髪海賊団の船長、シャンクスが言った。
「おれの仲間をそう簡単にやれるかバカ野郎!」
「うるせェ!! もう決めたんだおれは!!」
「そもそもお前なんかが海賊になれるか!!!」
「なる!!! おれはいつかこの一味にも負けない仲間を集めて!! 世界一の財宝を見つけて!!!」
そして少年は、偉大な海賊団を目の前に大きく叫んだのだ。
「海賊王になってやる!!!」
その言葉に微笑む大人たちの横で自分が何と答えるのが正しいのかと考える。
シャンクスは少年に歩み寄り自分が被っていた麦わら帽子を手に取ると「お前に預ける」と少年に被せた。
「おれの大切な帽子だ。いつかきっと返しに来い、立派な海賊になってな」
そう言って。
少年はまだサイズの合わないそれをぎゅっと握って溢れだす涙を見せまいと俯いた。
「海賊王になれないぞ、泣き虫くん」
そう声をかけると涙を乱暴に拭って顔を上げて泣いてねェと怒ってまた言ったんだ。
「絶対に迎えに行くからな!だから待ってろよ!!」
「……ふははっ」
「何で笑ってんだよ!」
「ごめんごめん」
おかしくもなるさ。何も知らない子供とはいえ目の前にいるのは偉大な海賊なのだ。その海賊の仲間を自分の仲間にすると本人たちを前にして勧誘し、さらにはその大海賊を超えて海賊王になると言うのだから。
「これあげる」
「なんだ?」
「お守りみたいなものかな」
ベルトの真ん中にひし形に模られた赤い石が付いたバングルで、自分の首に付けているチョーカーと同じデザインのものを渡す。
「君が立派な海賊になれるように……そう願いを込めたお守りだよ」
「そっか……待ってろよ! 約束だからな!!」
「……応援してるよ」
私はイエスともノーとも言わずそれだけ言って手を振って別れた。
という昔の夢を見た。
少年の名前はモンキー・D・ルフィ。彼は今どうしているのだろうか。
今日から私はしばしこの赤髪海賊団の船を離れて旅をすることになる。船を降りることにすると話した時はシャンクスを筆頭にみんなに大反対され、「降りる」ではなく「少しの間離れる」ということで納得してくれた。赤髪海賊団に所属したままであればいいと言うからじゃあ無期限でもいいのかと言えば怒られた。
「本当に行くのか?」
「うん、寂しい?」
「当たり前だろこの野郎!!」
「ごめん。でも、お別れじゃないのよ?」
「それでもだよ……心配なんだ、おれ達みんな」
眉を下げて言ったシャンクスに抱き寄せられたかと思うと優しく頭を撫でられた。
「あんまり無茶なことはするなよ?」
「わかってる」
「たまには連絡よこせよ?」
「わかった……シャンクス?」
黙ったかと思うと自分を抱きしめる力が強くなる。そんな彼の背中をそっと撫でるとシャンクスはため息をついた。
「ひとつ、聞いていいか?」
「なーに?」
「もしこの船を離れている間にルフィに会っちまったら・・・」
「仲間になるのかって?」
言葉を発する代わりにうんと頷いたシャンクスがなんだか可愛く思えて笑ってしまえば笑うなと怒られる。
「私はこの船を降りれないんでしょう?」
「当たり前だろ。お前はおれの仲間なんだから」
「じゃあ他の海賊の仲間にはなれないじゃない。てゆうか、私は君以外の船に乗る気はないよ」
「それがルフィでもか」
「・・・・・・もちろん」
「何だ今の間は!」
そうは言われても、自分はあの時仲間になると言った覚えもそういう約束をした覚えもない。ただ「応援している」と言っただけ。そう言うとシャンクスは体を離して私を見て、その後ろでは幹部の皆が私を見て。
「女ってこえー!!!」
と声を揃えて叫んだ。
「でも……そうね……」
「な、なんだ」
「掛け持ちなんてのもありかな? あの子の船限定で」
「はああぁああ!!?」
笑って言えばみんなからは驚きの声が上がった。
「海賊団の掛け持ちなんて聞いたことねェぞ!」
「そんなことしたら殺されちまうだろうからな」
「つか何だよ掛け持ちって!!」
「面白そうじゃない?」
なんて笑いながらそのまま用意してあった自分用の船に飛び降りた。
シャンクスもみんなも各々で好き勝手叫んでいたが、最後には気を付けて、いつでも帰ってこい、風邪ひくなよ、なんて優しい言葉が飛んでくる。
「行ってくるねー!!」
大きく手を振った私は赤髪海賊団の船と逆方向に進み始めるのだ。
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