×
nanoへのご支援
- ナノ -


 夢百合草 21

朝食を終えて食器を流しに戻したあと、三人分の御膳を重ねながら母は立ち上がった。


「さて、じゃあそろそろ噂の彼に会いに行きましょうか?」

「…!うん!」


それを聞いて私は土間で片付けをしていた手を止めて着物の裾をたくし上げ、板床へと上がって
居間にいた雪を廊下に呼び出した。

重ねた膳を土間横の所定の位置に戻すと、母は私達二人を肩越しに振り返ってふわりと微笑んだ。


母に続いて廊下を渡り、居間からさほど遠くないその客室へと向かう。

まだ半分以上開いたままになっている襖の前に膝をつき、母は部屋の外から短く声を掛けた。



「リヴァイさん、失礼いたします」


どきどきとしながら私は母の綺麗な所作を横から見ていた。

ここまではまだ日本語だ。
これは私にも分かる、と当たり前なことを思ってしまう。

そして廊下から柱に隠れるようにして私と雪が見守る中、母はゆっくりとその襖を最後まで引いた。


部屋の中を見た母の目が、何を思ったのかは分からないけれど少しだけ見開かれた気がした。
それが気になって、部屋の外から私達も思わず客室内を覗き込む。

リヴァイさんは既に起き上がっていて、窓の障子を開けて外を見ていたようだった。
窓際に佇む整った横顔がこちらを振り返っている。


お膳はまた綺麗に部屋の隅に寄せられ、蒲団も乱れることなく整えられていて、また変に感心してしまった。

お母さんはこの人になんて聞くんだろう。
それから、この人はあの落ち着いた低い声でなんて答えるんだろう…。



雪と私が固唾を呑んで見守る中、母は静かに日本語ではない言葉を口にした。

リヴァイさんの名前も言ったようにも聞こえた。

それに対して、リヴァイさんの表情が今まで見たことのないものになる。
まだ外の方を向いていた体を母の方へと直して、母の言葉に対して受け答えをしているようだ。

私達には分かるはずのない異国の言葉。

それでも母のように機会と努力があれば異国の言葉も操れるようになるのだと分かってはいるけれど、やはりこの日本人の母と異人さんが言葉を交わすという光景を目にすると不思議に感じる。


何度かそうしてやり取りをする中で、ふと違和感を感じた。

二人の、いや特に母の様子がおかしい。

珍しく戸惑ったように瞬きを何度かして、なんだかとても怪訝そうな表情だ。



「母さん、どうしたんだ?」


雪彦も同じように感じていたらしく、私がそう思ったと同時に声を出した。


「うん……」


心配になって思わず二人で身を乗り出すと、不意に母がこちらを見て手招きをした。

…?
な、なんだろう。


「二人とも、こちらに来てみなさい」



  


Main>>home