△ 夢百合草 20
え…?
なんて言ったか分からなかったけど。
今の雰囲気は怒っている感じじゃなかった。
何かを要求する感じでもなかった。
何かを伝えるだけみたいな。
そして、手の中にあるのはてっきり残されていると思った彼のための食事。
着物も着てくれて、食事も食べてくれた。
淡々とした様子で私をしっかりと見据えて。
言葉は分からなかったけど…。
いま、リヴァイさん。
…もしかしてだけど。
お礼みたいなこと言ったりした?
…迷惑ではないと思ってくれてた?
放心状態で目を見開いたままリヴァイさんを見ていると、何を言ったのか通じていないと思ったらしくふいっと目線を外して客室へと入って行った。
もしかしたら、初めから通じないのを承知でただ言っただけなのかもしれなかった。
あ、えっと。
お部屋に入ったなら邪魔しちゃだめだよね。
襖は閉められなかったけど覗き込むのも悪い。
あたふたと一瞬その場で空いた食器が載ったお膳を抱えたまま狼狽えて、でも何もリヴァイさんに伝えられずに諦めて土間へ戻った。
…なんか言ってあげられればよかった。
でもなんて?
本当にお礼を言われたかどうかも分からないのに。
雪彦と母、自分の分のお膳を居間に運んだところで、丁度身支度を終えた母が居間へ顔を出した。
「おはようございます、二人とも。
遅くなってごめんなさいね…あ、ナツお魚見つけたのですね。よかった」
いつもは私と同じくらいの時間に起きる母も、遅くまで働いていた次の日はゆっくりめだ。
昨夜は実は私の方が寝付いたのは遅かったなんて気付かれてはいないようだ。
…今日は早く寝よう、と密かに欠伸を噛み殺して思う。
母は朝食を終えると出島に向かわなくてはいけないはずだ。
その前にリヴァイさんと話してもらわなくちゃ。
三人で朝餉を取りながら、私は母へ声を掛けた。
「お母さん、食べ終わったらリヴァイさんのところへ一緒に来てくれる?
何があったかだけでも聞きたいの」
「あ、俺も行く!」
私に続いて大きな声を出した雪彦を、母は少し驚いたように見た。
「あら…二人ともを手懐けるなんてね。
もちろんよ、私も話すつもりでいたので心配しないで」
ほっと小さく息をついて、私も自分の分の魚に手をつけた。
「その人、リヴァイさんと言うの?
あまり聞かないお名前ですね」
「そうなの?」
「でも日本人でも色んな名前の人がいますから、同じようなものかもね」
「へぇ、そういうものなんだ…」