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 アリビンゲーブ 43

兵長が…?

先程の兵長を思い出す。

気のせいでは無かったの?
私を見てくれていた…?

その兵士が踵を返して歩き出したのでふらりと後を追った。

…会いたい。
声が、聞きたい。

兵長も私に会いたいと、そう思ってくれている?

彼の姿が見えなかっただけで、あんなにも心が揺れた。
彼の身に何かあったのかもしれないと思うだけであんなにも心が痛かった。

自分でも分かり始めていた。

シャツの上からでも心臓の動きが見えるんじゃないかと思うくらい胸が脈打つ。


私、兵長の事…。


厩舎の外は土の匂いがして、それは微かに湿気を含んでいる。
雨が降り出しそうだ。

兵士が向かった先は使われていない物置小屋だった。
煉瓦造りで質素な造りをしている。
薄暗い雰囲気を見て歩みが止まってしまう。


こんな所に兵長が…?


内部まで足を踏み入れてから、不穏な空気にやっと気付いた。

…そういえば、今まで兵士に案内されたことは無かった。
いつも呼び出される時は場所だけ指定されていたはずだ、と今更気付く。
加えて今は壁外調査の直後。
兵長は調査前はあんなに忙しそうだった。
今日はこんなに早く仕事を終えられたのだろうか。

歩みを止めた私に気付いて前を行く兵士が振り向く。


「エマさん…だろ?
早く行かないと、時間が無い」

「時間…?」


その兵士が前に向き直り、薄暗い小屋の更に奥まで進んでいく。
少し遠目からみるその後ろ姿に見覚えがあった。

自分はどこかでこの男を見た事がある。

ただ、その時とは何かが違う…。
もう一度その男の形姿に目をやる。

ジャケットは羽織らずにシャツに立体機動を装備している。

どこでこの人を見た?
訓練場?
壁外?

記憶を探り、その後ろ姿がベンチに座っていたのを思い出した。

あ。

あの朝、兵長の部屋から自室へ戻るとき−−−
兵士が一人、通り道のベンチに腰かけていた。

短めの金髪がその時の後姿と一致した。

この人、あの時確か…

憲兵の団服を着ていた…。


そこまで気が付いた時、後ろからゴツ、という靴音が響いた。

「…連れてきたか。
案外時間がかかったな、雨が降り始めたぞ。」

次いでぎい、と音がして唯一の出入り口が閉じられた。
背筋がぞくりと波立つ。

一人かと思い、油断した。

ゆっくりと振り向いた先には、冷たい茶色の目をした黒髪の兵士が立っていた。



  


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