△ アリビンゲーブ 29
軽く水浴びを済ませて室内に戻ると、丁度サシャが起きてきたところだった。
「あれ、珍しく今日は早いですね〜」
「たまには、ね」
良かった。
彼女は全く疑っていないようだ。
奉仕らしいことは出来なかったものの、彼を受け入れられたのは確かだ。
鈍い痛みさえもなぜか嬉しい。
この浮き足立ってしまう気持ちを、誰ととは言わずにサシャに打ち明けてしまおうかとも思ったが、また後日に取っておくことにした。
身支度を整え、朝食を取る為に連れ立って食堂へと向かう。
「よう」
「おはよ」
自然に同期の顔ぶれが集まって座る。
雑談の中で、誰かが不意に零した。
「そういえば、最近憲兵団とごたごたしてるって聞いた?」
「ああ、調査兵団と憲兵団のトップ同士がまたやり合ったんだろ?」
「そうなの?」
「見えないところでは結構下っ端までとばっちり受けたってな」
そうなのか。
憲兵団は調査兵団とは異なり内地での職務であるため、希望者が後を絶たない。
壁内部の秩序と治安の維持と統率を主な任務としているが、実際は怠慢が横行している。
自分たちの保身の為に理不尽なやり取りを行う兵団として他兵団だけでなく市民からも反感を買っている。
上位成績者のみ入団が許されるので、お高くとまっている態度にも納得だがそれに正面から異議を唱える調査兵団とは犬猿の仲というわけだ。
政治に対しての影響力も持っているので、かなり性質が悪い。
何度か憲兵団兵士と会話を交わしたこともあるが、噂の通りかなりやりにくい人達だったのは覚えている。
「この前も乱闘騒ぎがあったって…」
「会議でも上同士が相容れないらしいな」
調査兵団の敵は、巨人だけではないのだ。