△ アリビンゲーブ 13
突然背後から低音が響いて、反射的にばたん!と開いていた扉を強めに閉めてしまった。
声がした方向に顔を向けると、右隣のドアに右手を掛けた兵長が立っていた。
いつもの涼しい顔だ。
この人は普通に声を掛けられないのだろうか。
「惜しいな」
今日もラフなシャツ姿。
彼自身からか彼の部屋からか、微かにまたあの香りがする。
ケープやジャケットを羽織っていない彼は、かなりカジュアルな印象を受けた。
肩もかなりがっしりとしていて、隆々とした筋肉も薄い服越しに分かる。
着痩せするタイプなのか、シャツだけだとまるで違う人のようだ。
「兵長、この部屋は…。」
誰も住んでいない部屋。
家具さえもないので間違いないだろう。
「ああ、今は誰も住んでない。」
−−−今は。
以前までは、誰か彼の親しい同僚でも住んでいたのだろう。
壁外で命を落としたのだろうか。
顔色も変えずに話す兵長の瞳を探ってしまう。
私を見ているようで、時々遠くを見ているような気がするのは気のせいだろうか?
「……」
「来んのか、来ねえのか。」
ぐっ、と言葉に詰まり、決めたはずの覚悟を思い出す。
この人は決断を速く下す人間らしい。
自分の直感を信じられるタイプなのか、他人にもそれを要求するのだろう。
確かに戦場ではその決断の速さが結果を生むのかも知れない。
…でも、私は多少迷っても後悔のない決断をしたい。
私は私。
それは譲れない。
すっと息を吸い込む。
気分は戦場に向かう時のそれに近い。
「失礼します。」