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 サルタナ 21

何か月かの間彼との訓練はないままだった。


訓練場で会わない代わりにあのソファの部屋で見かけたりはしていた。

私が何度か通う中、彼はいたりいなかったり。

物凄く不機嫌そうな様子からはまた何か仕事を増やされて忙しいようだった。

なのでその彼の邪魔をしないように私は静かに立ち去ったり、話してもニ言三言だけの会話をするくらいだった。






彼があの紅茶を気に入ったようだったので、同室の彼女に聞くだけ聞いてみようとは思っていた。

そんなある夜。



「紅茶って簡単には手に入らないものって言ってたよね?」



就寝前の時間に、二段ベッドの上と下で他愛ない話の中、ふと聞いてみた。



「なに、この前のが気に入ったの?」

「え?うん、紅茶って美味しいよね」



彼女の質問の意味がいまいち分からないままそう返したら、彼女が不意に黙り込んだ。

それから、少し悪戯っぽい声が聞こえてくる。


「……さては、誰かにあげたな?」

「えっ!?な、なんで…」


びっくりして声が上ずってしまった。

ぎし、とベッドの上で身を起こし上の段に寝転ぶ彼女を伺うけど、くすくすと笑うばかりで顔を見せてくれない。

彼女の方は茶目っ気たっぷりに、きっとしたり顔なんだろうと想像出来た。


「この前あげたやつはいつものと少し違うやつだったのに、それを言ってこないから不思議には思ってたんだけど」

「そ、そうだったの…?」

「あげた人が美味しいって言ってたの?」

「あげたっていうか…うん、気に入ったみたい」


彼女の表情は分からなかったけれど、とても満足げな声で「そっかそっか」と返事が返ってきた。

何か含みのある彼女の言い方に少し否定をしつつ、誰かにあげたことには違いないので気恥ずかしさを感じながら。

その後すぐに話題を変えた私を、彼女は興味深そうにしながら、でも詳しくは聞かないでいてくれた。

彼女はもし手に入るようであればまたすぐにくれる、とも言ってくれ、それからは以前より頻繁に机の上に彼女からの紅茶の包みが置かれるようになった。

曰く、「お願いしてみたら案外あっさりと手に入る物だった」らしく、彼女のお相手の方も頼られることが満更でもなかったようで。
「前より仲良くなったの、ありがとう」と私の方が何故かお礼を言われて不思議な気持ちになった。


こうなってくると気になるのは、彼にそれを渡す頻度だった。
頻繁すぎるのもどうかと思い、いくつかの紅茶も机の引き出しに手付かずで取ってあるのだけれど。


部屋で会った時に紅茶はどうかと聞いてみたり、個装されたままの茶葉を要るかと彼に聞けば意外と素直に首を縦に振るので驚いた。

更にはその淹れ方を聞かれたりして。

それがなんというか。
物凄く、くすぐったく感じた。

それから彼に紅茶を淹れる際には必ず私の分も淹れるようになった。
…彼がそうしろと言って聞かないからだ。



相変わらず会話が弾むわけでもない。

彼の表情が劇的に柔らかくなったわけでもない。

ただ紅茶一杯を飲む間だけはどちらも席を立つことなく、相手の存在だけを室内に感じたまま時間が過ぎる。

彼はあの赤いソファに深く腰掛けて、私も相変わらず窓際の小さな椅子に腰かける。

初めこそその空気に居たたまれなくなっていたものの、それももう、和らいで感じていた。

何度かそうして過ごす内に彼のカップの持ち方が変わったことに気が付いた。
その手は取っ手を持つことはもう無くて、飲み口を覆い被す形で持つようになった。

飲みにくいんじゃないかとそれに気付いた時は凝視してしまったけれど、彼が私の視線に気付きながらも目を反らし続けるので、その理由を聞く事もしなかった。

独特な剣の持ち方をする彼が独特な飲み方をしても、まぁ、不思議ではないのかも知れない。

色んなことに彼なりの理屈があるように。

持ち方一つにもきっとそれなりの理由もあるんだろうなと、静かに納得した。



彼と顔を合わせるのは暫くその部屋だけだった。

それ以外で見かけるのは目の合わない彼の後ろ姿だったり、団長室に何度か出入りしている姿だけ。



こんな私でさえ兵団から少なからず成果を認めてもらえるのだ。

討伐数も、兵団全体の生存率も。
たった一人でどれ程貢献しているのかも定かではない彼はその比ではない。


一介の兵士に収まっていてはいけない人。

その戦闘力はもちろん、判断力もその視野の広さも含め、埋もれさせてはいけない逸材だ。


私でさえそう感じていたのだから、エルヴィン団長は勿論他の上官たちもそう思っていたのは明白だった。



  


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