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 サルタナ 18

調査兵団本部の南側。
別棟の、あの赤いソファが置いてある部屋。


その前に近くの給湯室に寄ってから、その扉の前に静かに立った。



やっぱりだ、と思う。

いつもは開いている扉がしっかりと閉じられている。
彼と同じ時間を過ごすことで、私も第六感なんてものを習得してしまったんだろうか。


邪魔する気はない。
私の顔を見れば彼は間違いなく嫌な顔をするだろうけど、それでも少しは許してくれる気がした。


とんとん、と控えめにノック音を響かせてから扉を開ける。

少し奥まったところにある本棚から顔を覗かせてみると、想像した通りの姿があった。

ソファにどかりと深く腰掛けていたその人はこれまた想像通りの表情を浮かべていた。
思った通りのその展開が内心嬉しく思ってしまう私は、どうかしているんだろうか。



「……なんだ」



鋭い視線がこちらに向けられる。


彼が怒っているのかいないのか、私はそれをあまり気にしなくなっていた。
だってそれがどちらでも怖いことには変わりないから。

にこりともしない彼に、逆にこちらが微笑んで見せる。
少しぎこちなかったかもしれないけど。
それを見て彼の眉間が更に寄せられたので、あわあわと声を掛けた。

空気を和ませることさえ出来ない。



「お邪魔してごめんなさい。
あの、差し入れです」



そういって、奥の窓辺に置いてある小さな机を動かして彼のすぐそばに置いた。

給湯室から拝借してきたカップとソーサーがかちりと音を立てる。
カップからは綺麗な湯気が上がったままだ。


彼は怪訝そうに私の様子を見ていた。

それからそのカップの中身を覗き込み、中に入った濃い赤橙色の液体を見た彼は「なんだ、それは」と呟いた。


「なんとかっていう珍しい種類の紅茶です。
私も詳しくないんですけど、良い香りがして、美味しいですよ」


同室の彼女から聞いた、リラックス効果があるということは伏せておいた。

いつもピリピリしている様子の彼本人に言えば飲んでくれないんじゃないかとも思ったから。



「そんな訳のわからないもんを俺が口にすると思うか?」

「一口だけでもどうですか。
貴重らしいですから」



そしてまた、部屋が一瞬の静寂に包まれる。

数えるほどしか貰うことのない特別なものを彼にも試してほしかった。
それは自分が好きなものでもあったし、少し香りの強い紅茶を口にするとその温かさと香りにほっとするから。

一般兵士にはまず支給されることのない嗜好品だ。

けれどその特別なものを手にしたとき、訓練という形で自分の時間まで割いてくれた彼のことが頭に浮かんでしまった。
素直に喜んでくれるとは思っていないし、いらないと断られることも想定済みだ。

これは完全なる自分の自己満足でもあった。


なので。

「…お前は俺に毒でも盛る気か」

という彼の問いかけにも苦笑が溢れる。

「なんてこと言うんですか。
お礼です、お礼。偶然手に入ったので…」


彼は神経質そうだし口にするものはさすがにダメだったかな、とあきらめかけたけれど。



「ならお前の分も持ってこい」



至って冷静な声がしたので、これには更に驚いてしまった。


「あ…、えっと。
今回貰ったのは個装のものだったのでこれだけしかないんです。」

「そんなに貴重ならお前が飲め」

「貴重だからこそ飲んでもらいたいんです」


いつものようなやり取りを何度かした後に、彼は呆れたように息を吐いた。
ちっ、と舌打ちまで聞こえた気がした。
いや、彼は確実にしたと思う。


そして、その体がソファから少し身を起こして。
カップの取っ手を手にすると、それに口を近づけた。

少量を飲み込んだんだと思う。
彼の喉元が少し上下したのが見えた。

音もしない静かな時間だった。


なんでこんなに優雅に見えるんだろう。

ゴロツキといわれる人なのに。
無法地帯だといわれる地下街で暮らしていたという人なのに、時々見せる無駄がない所作は周りの男性なんかよりよっぽど綺麗に見えた。

ビー玉のようなガラス細工の瞳は、薄暗い中では色も見えない。



「なるほどな」



抑揚のない、静かな声が耳朶に響く。
人形のような彼の肌にあたたかな湯気がかかる。

私は少し距離を取っていたからその表情をはっきりとは見れなかったのだけれど。



「───…まぁ、悪くない」



彼の眉間の皺が、また少し薄くなったようにも見えた。



  


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