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 サルタナ 04

ああ、誰かがいる気配がしたんだから部屋に入らなきゃよかった。
そう思ったのは確かだったのに。

それでもその時の私は幸か不幸か懲りなかった。



それから調査兵団新兵としての日々は目まぐるしく過ぎていった。
どこで送る新生活もそうだと思うけれど、ここではすべてが鮮明に感じられた。
言うまでもなく命が懸かっているのだ。

当たり前だけれど訓練兵団とは違う生活。
実際の戦闘を考慮した実技と講義なんてのをこなす内に、初めての壁外調査というものが今までになく身近に感じられてくるのだった。

壁の外へ出る。
本当にその時が来るのか。

頭では分かってはいるし、何度も講義で聞いた巨人の様子も嫌というほど聞いて想像しているのにそれでもまだどこか現実味を帯びていなかった。



その間、実は何度かあの別棟にあるあの部屋に通っていた。

それは調整日に友人たちと街へ出た後だったり、休憩時間だったりしたけれど。
毎回恐る恐る足を運ぶ割には、あの噂の彼と鉢合わせすることは無かった。

壁外へ出た時の方向音痴及び方角音痴は致命的だと友人に猛特訓を受けたおかげで、今はこの別棟が本部の南にあるということも分かった。
いつ来ても人の気配がないこの棟だけれど、以前は兵士用の宿舎として利用されていたそうだ。


夕食後に与えられた自由時間の中で、息抜きの気持ちでもう通いなれたその部屋への道を進む。


扉はいつもの通り開いている。
先客もなし。
他にひとの気配もない。



部屋の奥にある椅子に腰掛ける。

少しせり出している窓枠に頬杖をついて外を眺めているうちに、ぼんやりと時が過ぎていく。
忙しない毎日の中でこの静の時間がまた頑張ろうと思わせてくれるのだった。

ソファには、もちろん、座れない。

彼の定位置には恐れ多くて座る気も起きなかった。
私の席は初めの通り、窓際に遠慮がちに置いてある小さな木製の椅子だ。
小柄な私にはこれで充分過ぎるほどだった。

小柄というなら。

そういえばあの人もそんなに大柄なわけではなかったな、と思い出す。
それどころか少し小柄な分類に入るんじゃないだろうか。


偏見かもしれないけれど。
いや、悪い意味ではなくて。
身長が高くないひとはなんだか優しく穏やかなひとが多い気がしていた。
けれどあの彼のおかげでそのイメージも綺麗さっぱりと払拭されたというわけだ。


それにしても結構会わないものだな。
私がこれだけなんだかんだと忙しいのだから、彼もきっとそうなのだろう。
当たり前といえば当たり前か。


遠くに見える訓練場の一角を見やりながらそうした時間を過ごしていた、とき。




「そんなところでいいのか」




私はその体制のまま首を回した。

藪から棒、寝耳に水。


とにかく予想外のところから声が降ってきたので、体が思うように動かない。

振り向いた先には、まさに先ほど考えていたそのひとが立っていた。


「…え!っと。あ、ごめんなさい、また勝手に入ってしまって…」


油断しきったところに声を掛けられると、きっと相手が彼でなくてもこうして声が裏返ってしまっていたと思う。


そんな私を気にする素振りもなく、彼は目当てのものを棚からいくつか手に抱えたようだった。

私物だろうか。

もしかしてここは本当に彼の私室なんだろうか。
それってまずい。

すぐに立ち上がって出て行こうとするけれど、それよりも早く彼の声がそれを制する。


「立つな。
ここは別に俺の部屋なわけじゃない、好きにしてろ。
俺は掃除用具を取りに来ただけだ」



  


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