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「#幼馴染」のBL小説を読む
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 カトレア 09

腰を引き寄せられて、有無を言わさず組み敷かれる。

下から見上げる彼の瞳からは熱っぽくて妖しい色が光って、求められる嬉しさが更に体を熱くしていった。

脚の間に体を滑り込ませた彼の手つきは少し余裕が無さそうにも見える。
前にもそう言われたように彼から何度か力を抜くように促されて。

貫かれる瞬間に身体の奥からひりつくような思いが溢れ出した。



「−−−んん、あ……っ…!!」



無意識に、それを受け入れるために大きく身体がしなる。
深く柔らかく背中に添えられた手が、それでも逃がさないように強く抱き寄せて。


この瞬間が癖になりそう。


大きな熱い圧迫感が体の中心から入り込み、ゆっくりと進みこむ熱に支配されていく。

苦しいくらいに押し広げられるのを感じるのに。
その熱が内部を伺うようにじわじわと動くものだから、全ての神経に触れられるようで余計にたまらなかった。


それでも、やっぱり前回とは違う。


圧倒的に痛みが少なかった。
今日はこの前より蕩けているから?

それとも、あの気持ち良さを知ってしまったから?


そんな熱くなったところに彼の体が侵入するのを、自分の身体は待ち望んでいたみたいだった。


内壁を擦りあげられると全身に鳥肌が立つ程ぞくぞくとしてしまう。

抗えずにその感覚に身を震わせると、仰け反った喉元に唇が寄せられた。
ふと瞳を開けるとこちらを見下ろす優しいリヴァイの顔がすぐそばにあった。
そのまま唇を合わせ、繋がったままお互いの体温を改めて確認する。

少しだけ離れた唇から、吐息とともに掠れた声が間近で聞こえた。


「痛くないか…?」


少しでも彼の体が動くと大袈裟に身体が跳ねるのでそれを堪え、息を整えながら返事を返す。


「…っ…リヴァイは、痛くない?」


痛くなんて、ない。
痛さより狂おしいほどの感情の方が勝る。

でもリヴァイはどうなんだろう。
男の人が何をどう感じるのかも純粋に分からない。
私はリヴァイに何もしてあげられてないし、これでいいんだろうか。

私ばかり気にして、リヴァイが痛かったりしたらどうしよう。

くっと一瞬だけ喉を鳴らして、軽く頬に彼の唇が寄せられてから。


「痛くねぇよ」


なんて、優しい声が響く。


痛くないのか。
………よかった。


「痛く、ないなら……気持ちいい?」


頭がふわふわする。
なんだかいつもは聞けないような言葉もするすると滑り出してしまう。

それを聞いたリヴァイはその綺麗な瞳を少し見開いて。
それからそれを柔らかく細めた。

こんなに柔らかい表情を彼はいつから見せてくれるようになったんだっけ。
こんな風に笑う顔をもっと見てみたい。

思い切り声を上げて笑うところなんて見たことがないけど、リヴァイのこの笑顔は世界で一番愛しいと思う。


「聞かなきゃ分からねぇか」


彼の口元が緩む。

あ。笑った……


「……わ、からな……っ」


いつものような呆れたような雰囲気もあるけど、肌を重ねているときの彼は見たことがないくらいどこまでも優しくて、それだけで身体の内から溶けていきそうだった。

その表情にくぎ付けになっているとふと顔が近づいて、深いキスが降ってくる。

与えられるままその熱い唇を受け止めて何度も何度も内側から絡み合った。

両腿を引き寄せられて奥の奥まで彼が突き進むと、キスと相まって身体中が切なく鳴き出した。
びく、とその甘すぎる感覚を身体の奥で噛み締め、その余韻に吐息する。


やっぱり答えてくれないのかな。


どんどんと思考を奪われていく中で、小さく思う。

確実な言葉こそ聞けないだけで、彼の行動も触れ方も、キスさえもどこまでも甘い。
充分過ぎるほど満ち足りた気分だった。


繰り返し抱き寄せられて繋がって、唇を重ねて。
この行為が愛されているのかもと感じさせてくれた。

お互いの姿だけ映すその瞳が切なく揺れたのを見て
心臓が掴まれた心地になる。


彼の息も上がり出し、整えられていたはずのシーツも段々と乱れていった。
誘われて与えられるまま捕まえられて何度も暴かれていく。

奥まで進んでから、その場所で深くまで繋げるように引き寄せられ、唇からは声にならない喘ぎが漏れる。

激しい体温の行き来の中、不意に彼の唇が耳に寄せられて、掠れる声が直接鼓膜を揺らした。


「−−−…悪くない。
お前が思うより、ずっと……」



……!


そう聞いた瞬間に身体中が切ない程きゅんとして、途端に痺れだした。
身体の制御が効かない、快感の波に押し流されるこの感じ。

怖いくらいに頭の中が気持ちよさに占領されていき、与えられる激情的な律動を必死に受け止める。


「あ、あっ、だめ、また…っ……!」


強く熱く貫かれて何がなんだか分からなくなる。
身体の芯がじんじんと熱く痺れだし、リヴァイに強く捕まると更にその繋がりが激しさを増していって。



「ん、っ……!リヴァイ…待って…もっと…ゆっく、り…!」


「もう…少し、我慢しろ……」



何度も腰から仰け反る自分の身体を止められなかった。

全身を包むリヴァイの肌も物凄く熱く感じて、いつもの冷静さを無くした彼の表情を見ては更に昇りつめてしまった。


ぎゅう、と強く抱きしめられると、いつもなら落ち着くはずなのにこの時だけは心が乱されてしまう。


心と身体を十分にかき乱されて、後ろから抱きかかえられるように繋がった時には揺すられる激しさに半ば気を失いかけていた。


何度も名前を呼ばれて、彼にしがみつくのがやっとの顎を掴まれて口内まで彼の熱い舌が入り込んだ。

息も絶え絶えの私に対して、リヴァイからも切なげな声が漏れて。



激しい。

リヴァイの体も、行為も、注がれる熱も、時折触れた気がした彼の感情も。

激しすぎて目の前がくらりとする。


繰り返し息を詰めて、喘ぐ声も出なくなるほど抱き寄せられた。







ーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーー

ーーー



上等なベッドのスプリングがゆったりと小さく揺れる振動に思い瞼を持ち上げた。

横になったまま目を開くとリヴァイがベッド脇に腰かけたところで、緩く服を身に着けた彼の手が伸ばされて顎を擽る。
胸元は少しボタンも開いて、袖口は腕捲りをしているのであの上等なシャツとスラックスを完全に着こなしている。

まだ小さな蝋燭がちらちらと揺れる薄暗い室内に彼の低い声が響いた。



「…気付いたか。
簡単な食事を持ってきたから、食えるなら食え」



…食事?



リヴァイが一瞬後ろを向いた目線を辿ると、ベッド横のナイトテーブルに白い皿が置かれている。
その上にはいくつか広間に並んでいた料理が取り分けられているようだった。


大きくゆっくりと瞬きをして、頭を働かそうとするけれどかなりの脱力感が体中を支配していてそれを拒否する。

指先一本、まだ動かせない。


すぐにでももう一度眠りに落ちてしまいそうな私を見て、リヴァイは薄いフラットシーツの上に重ねてあったブランケットを肩辺りまで掛け直した。


少し間を置いて、彼の手がもう一度伸ばされて頬をゆるりと手の甲で撫でていく。



「いらねぇならそのまま寝てろ、帰りまでまだ時間がある」



あれからどれくらい経ったんだろう。

時計も見当たらない部屋では、今が何時なのかも検討もつかない。

リヴァイが服を着て出て行って、帰ってくる音にも気付かなかったなんて……
そんな自分が信じられなかった。


寝てろって、リヴァイは・・・?
寝てないんじゃないの?
最近忙しかったっていうのに、体調は大丈夫なの?


そう思ったことを口にしたいのに、気怠い感覚に支配されて言葉にならない。



「リヴァイ……、」

「…どうした」

「リヴァイこそ、横になって。
隣に、来て」



寝て欲しい。

それを聞いたリヴァイはふと小さく目を細めてから、腰掛けるようにしていたベッドの上へあがってくれた。

同じ空気を分け合うように間近から目線を合わせて横になると、ふわりと感じる彼の体温にまた微睡んでしまう。

ベッドの中で見つめ合う時間が物凄く温かく感じた。
彼の体温も雰囲気も柔らかい。


枕の上に頬杖をつくその胸元に思わず擦りより、身体を寄せた。
そうすると彼の腕が肩から背中に回され、その体温と香りに包まれる。

思わずその幸せな空気にふふ、と小さく笑みが零れた。



「……なに笑ってる」



胸元で頬を緩めた私を見て、ほんの少し怪訝そうなその声はいつものリヴァイだけど、纏う雰囲気は柔らかいまま。


何をしても受け入れてくれるような、
何を聞いても今ならいつもより答えてくれそうな…。

顔を上げて間近で瞳を合わせ、その表情の変化を見逃さないようにじっと見つめる。
思い切って、その思いのまま口を開いた。



「リヴァイ…」

「……ん?」

「あのね、初めて会った時…私のことどう思った?」



そう聞くと、リヴァイは少し眉を持ち上げて質問の意図を少し思案しているようだった。
思い当たる節がないようで、とりあえず答えてくれようとする表情が手に取るように分かる。

やっぱり、こういう時のこの人って分かりやすい。



「初めて会った時?
…ああ、お前が俺のことを見て怖がってた時のことか?」

「そ、そうだっけ。」



怖がってた…?
目付きが悪いと思ったことは覚えているけど、逆に自分の記憶にないことを聞いて目を見開く。

そうか、最初の頃は確かに彼のそばにも寄り付かなかったかもしれない。


「……何が聞きたい。その時は愛想のねぇガキだと思ったくらいだ」

「そう…」


それは自分でも否定出来ない。

寧ろ今では愛想が良くなったのかどうかも少し疑問だ。
自分がもう少し可愛らしい、甘えられる性格だったら、とあのないものねだりを思い出して少し声が沈んでしまった。

その声の変化に気付いたのか気付いていないのか、珍しくリヴァイはそのまま言葉を続ける。


「お前が俺の後を付いて来るようになったときは驚いたがな」

「あ、そうなったきっかけも分かってなかったの?」

「……きっかけ?」

「そう。あ、でもいいの。それは秘密」



リヴァイが全ての感情を教えてくれないなら、私だっていつからリヴァイを意識していたかなんて言うこともないはずだ。
こちらだけ相手の好きなところを言ってしまっては負けのような、変な対抗意識が自分の中にあって自分で笑ってしまった。

リヴァイにとってはなんでもないことだったとしても。
受け入れてくれるような些細な気遣いが物凄く嬉しかったなんて、胸の内に秘めた小さな秘密を彼に言う日は来るのだろうか。

それもリヴァイは覚えてないかもしれないし、やっぱり自分の中で大切に覚えておこうと思った。

自己完結した私の様子を見て、今度はリヴァイが怪訝そうに眉をひそめた。
それでも構わず先を促す。

リヴァイのことが怖くなくなったのは、いつからだったんだろう。



「あ、それで、それからは?」



知りえなかった当時の彼の気持ちをこうして聞けるようになるなんて信じられない。

どんな小さな感情も、許してくれるなら知っていたい。
好きな人のことをもっと知りたいと思うのは、きっと普通のことだ。


何年も前のことを思い出すように目線を合わせたままリヴァイの意識がどこかへ戻る気がした。
すぐにその瞳には今の私が映って、それがからかうような表情に変わったので少し身構えた。



「お前が良く笑うようになって慣れたかと思えば、その癖に一丁前に泣いてない振りもしてたな」

「……!」


あの夜のこと?
や、やっぱり覚えてたんだ…。

声色は少し意地悪そうなのに、リヴァイには昔から全部見透かされていたのだと少しくすぐったい心地にもなる。



「その時もまだ…ただのエルヴィンの親戚のガキだという認識はあったはずなんだが」


「あったはず?」



ほんの少し見えなかったリヴァイの気持が解かれつつあった、のに。



「…まぁ、そういう事だ。」



突然、そう言って話を切り上げてしまった。
途端に焦り出した私を横目に、リヴァイの顔にはいつも通りの意地悪そうな色が浮かぶ。




「え…っ、そういう事ってどういう事?」


「この話はこれで終いだ。」




結局大事なところは何も聞き出せず。
落胆して睫毛を伏せると、少し考えるような間を置いてからリヴァイの声が降ってきた。



「……お前の質問に答えたんだ、次は俺だな?」


「…?」



うん、と返事をする前に一気に捲くし立てられる。
今日のリヴァイはいつより言葉数が多い気がする。



「夜会には二度と来るな。
夜会だけじゃない、他のも全て断れ。
誰に何を言われてもだ。……いいな?」



それって、質問じゃない気がするけど。


「返事は」


強めの視線と声が更に近づいて、慌てて頷いた。


「は、はい」



・・・・・・。

なんだかまたリヴァイのペースになっている気がする。



「あとはあの訳が分からねぇ服と酒だな。
俺のいないところでああいう服を着るな。酒も駄目だ」

「…服?私服のスカートはいいでしょ?」



抗議の声を挟む暇もなく、矢継ぎ早に言い渡される禁止事項に、咄嗟に精いっぱい噛みつくことしか出来ず。

確かに今夜のドレスは露出度が高かったけれど、それでも着飾ること自体は悪い気はしない。
化粧もヒールも、いつもは縁がないだけに少しのお洒落でも出来るなら嬉しい、けど。


「短いのはなしだ」

「短いのって……」


そう言われても短いスカートなんて持ってもいない。

そういえば調査兵団に来てから私服でリヴァイに会ったことってないかもしれない。
あの湖では服を着ていないときに会っているし……、って、あ、思い出しちゃだめだ。

返事に詰まった私にリヴァイが顔を寄せる。



「……分かったな?」

「はい…」



反抗なんて、出来るわけもない。




  


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