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 サルタナ 02

兵団内での生活にも慣れてきたある日、私は頼まれた立体機動装置に必要な部品を探し回っていた。


本部内をあちこち歩き回るうちに、兵士の一人から今はもう使われていない部屋がいくつかあると聞いた。
そのどれもが今はもう資料室兼物置になっているらしい。

本部の建物内にいくつかあるその資料室のどれかになら余分な部品もあるかもしれないとのことだった。
そんな曖昧すぎる説明にも文句も言えず、力なく返事をした。



「はぁ。分かりました…」

「あ、別棟の方にあるかもしれないな」

「えっ!物置って別棟にもあるんですか…!?」



何年も前から在団していそうなベテラン勢に聞いてみても、どうだったかな、良く分からないなぁ、となんて答えしか返ってこない。

ひとつひとつ回らなきゃいけないなんて信じられない。
敷地内の地図も無いだなんて言われてしまった。
無いわけない。
上司のひとたちも壁外調査に関係ないことには存外適当な印象を受けた。



調査兵団敷地内には本部の建物の他にもいくつか棟が点在している。


宿舎がいくつかあったり、何の目的で使われていたのかよく分からない建物があったり。
物置や書庫が多いのも頷けたけれど、しっかりと何がどこにあるのか整頓されていないのは頂けない。
と、そこまで考えて、慢性的な人材不足という調査兵団の深刻な問題を思い出した。

人の入れ替わりが激しいのだ。
壁外で命を落とすだけじゃなくてこの兵団を静かに去る人も少なくないと聞いた。
兵団内の全てに詳しい人なんて、もういなくなっていても不思議ではない。


シビアで過酷で、戦死率、殉職率が高い調査兵団。
そんな当たり前のことは壁の中に住む誰もが知っていることだ。
けれどその実際の内情は、入団して初めて見えてくるものなのかも知れなかった。









私がその場所を見つけたのは、そうして敷地内をあちこち歩き回っているときだった。


調査兵団敷地内、別棟。


本部から見るとどの方角になるんだろう。
方向感覚に疎い私は帰り道を確認するだけで精一杯だった。

日当たりが良くて、他の建物に比べると資料も置かれている物も少ないのか小奇麗な印象だった。


だからそこの物置には探している物はないだろうと半ば諦めていたけれどそう思いながらもしっかりと室内まで足を踏み入れたのは、陽の入り具合と掃除でもされているようなさっぱりとした空気、それから誰の気配もしないその空間全体が丸きり好みだったからだ。



その棟内にはあまり部屋数は多くなくて、一階の一番奥にこれまた日当たり抜群の部屋を発見した。

物置と呼べばいいのか、書庫と呼ぶべきか。
とにかく初めに感じた印象の通り他の棟の物置に比べると物は少なくて整然としている。


物置らしく木製の棚はあるけれどそれも部屋の手前に置かれているだけだ。


部屋を見ただけでは分かりにくかったけれど、その物置の奥にカウチソファが置かれていた。


あまり見たことがない色だったので食い入るように見つめてしまった。



赤。

少し茶色寄りだろうか、それでも紛れもなく赤い二人掛けのソファだった。


は、派手だ。

誰の趣味だろう。



どこを見ても贅沢が出来る雰囲気ではない調査兵団に不釣り合いなくらいのこれは、明らかに誰かの所有物の気がしてすぐにお暇しようとしたけれど。


どんなに耳を澄ませても自分の気配を殺してみても、返ってくるのは自分の息遣いだけ。

意を決して軽くそのソファに腰かけて見たけど、その座り心地もどこか高級そうな気がしてすぐに立ち上がってしまった。


そのソファには座らずに、少しの間だけ奥にあった椅子の一つに腰掛けて窓の外を眺めていた。

大きく切り取られた窓からは午後の気持ち良い日差しが入り込み、その向こうに静かに揺れる木々が見えている。


その更に向こうには兵団の訓練場が広がっていた。


少しだけそうしながら深呼吸すると、なんだかかなりリラックスした気持ちになった。
調査兵団に来てからこんなにゆったりとした時間を過ごせたのは初めてじゃないだろうか。


すぐに立ち上がり、残りの棟の物置に向かうその足取りも軽い。

ただぼんやりと過ごすことが難しい毎日の中で、それが時々でも出来るのなら…。



ここに来てお気に入りの場所が出来てしまった。

また近いうちに来れるといいなと、静かに思った。



  


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