△ ナカロマII 04
そのころ。
「ここだ」
そう言われてリヴァイの部屋に足を踏み入れると
室内は一階の執務室と同じように飾り気のないもので、大きめの一つの窓、ベッドとクローゼット、机なんかが置かれているだけだった。
そのまま奥に目を向けると、入口とは別にもう一つ木の扉が設けられていた。
こんな部屋を見たのは初めてだった。
通常は廊下側からの一つの扉しかないと思っていたから。
続き部屋って、廊下を介さずに続いている部屋のこと?
「これが続き部屋だ」
そう思った私の考えが分かったのか、その奥の扉を開けてくれるリヴァイの後に続いてその部屋を覗き込む。
こじんまりとした小さな空間にベッドが一つあり、その部屋からも廊下へ出るための扉があった。
木製のベッドの他には何もないけれど、掃除もきちんとされているしこれならケープに包まるだけでも寝れそうだと思った。
リヴァイがベッドで寝ない、と言ったことを思い出した。
「リヴァイ、部屋も暖かいし、私ケープだけで大丈夫そう。リヴァイはいつもベッドで寝ないの?でもそれって体に悪い…」
そう言いかけて扉を開けたままのリヴァイを振り返るけど、不機嫌な顔に見下ろされただけだった。
「…俺は大体椅子で寝てる。問題ない」
いつも睡眠時間が少なさそう、とは思っていたけど、本当に座ったままで寝る気なんだろうか。
ソファとかカウチとか、少しでも横になった方がいいのに。
座って休むだけだと、睡眠も十分に取れないんじゃないんだろうかと心配になる。
もしかして、そんな状態でいつもあんなに忙しく業務をこなして、壁外に行ったりしてるの?
どんなに腕っぷしが強くたって、リヴァイは人間なのだ。
…そんなんじゃ、いつか本当に体を壊してしまう。
後ろを振り返ると彼は既に室内に戻っていた。
リヴァイはそのまま窓際の椅子に腰かけてから少し身を乗り出すようにして肘を膝に着け、両手を軽く組んだ。
息を一つついて、そんな彼に声を掛ける。
「リヴァイがベッドで寝ないっていうなら、私も椅子で寝る」
少しの沈黙。
それから、不機嫌そうな顔と声。
「…は?お前、何言ってる」
この部屋に椅子が一つしか無いことを言っているのか、
ベッドで寝ることを強要していることを言っているのか。
どちらにしても私も引く気はない。
いくらリヴァイがいつもベッドを使わずに椅子で寝ると言っても、そうしてる彼の横で呑気に自分だけ寝具に包まって熟睡なんて出来ない。
「椅子がないことを言ってるなら、一階から持ってくる。
…あ、そのまま私は一階で寝てもいいし…」
「それじゃあ意味ねぇだろ」
自分で言ってから、確かに、と思う。
ペトラさんが夜は一階は特に冷えると言っていた。
…地下のエレンは大丈夫だろうか。
「だって、じゃあリヴァイがこのベッドで寝てくれる?
そうしたら私も隣部屋でちゃんと横になって寝るから…!」
「寝具無しでか?俺は必要ないからお前が使えと言ってるだろうが」
「リヴァイがベッドを使わないのに私だけ使えるわけないでしょ!」
「俺がいいと言っている。なぜそう人の話を聞かねぇんだ」
これじゃあ堂々巡りだ。
私としてはリヴァイがしっかりとベッドで横になって欲しいだけなのに。
リヴァイは私が寝具を使ってベッドで横になれと言ってる。
寝具を移動するくらいなら同じ部屋で、私はベッドで、彼は椅子で寝る、って。
そんなことある?
そんなこと出来るわけないって言ってるのに、なんでリヴァイは分かってくれないの…!
何度か同じような言い合いをした後で、軽く息を吐いた。
リヴァイも少し呆れたように目を逸らしている。
分かってくれないリヴァイに感じるのは少しの苛立ちと、焦燥感と。
違和感、だった。
さっきから気付かないようにしていたけど。
いつもならとっくにリヴァイから言われているはずのその言葉が、彼の口からはまだ言われていない。
なんでだろう。
私から言ってしまっていいのかな?
少し静かになった室内で。
冷静になった頭で、つい浮かんだ疑問を口に出してしまった。
「あの、リヴァイ…一緒に寝る、っていう選択肢はないの?」
さっきまでと同じように目線を逸らしていたリヴァイが、少し目を見開いてから一瞬動かなくなった。
…?
「リヴァイ…?」
そうしてから、私を見上げるようにふと鋭い瞳が見つめ返す。
その唇が少しだけ動くけど、躊躇するように言葉がそれに遅れて発せられた。
「……、…お前は、いいのか」
私?
一緒に寝ることが嫌なわけがない。
私がリヴァイのことをずっと好きだったって、伝えたはずなのに。
なんでそんなこと聞くの?
「なんで?嫌なわけない…」
それを聞いて、リヴァイは一瞬目線を下げてからまた何か考えているようだったけど、直ぐにもう一度目線を戻して不思議そうな顔をしたままの私を見つめた。
「………ここに来い」
「…?う、うん」
なんだか少し雰囲気が変わったようなリヴァイに呼ばれて、少し戸惑いながらも彼に近づく。
部屋の中は頼りない蝋燭だけでは薄暗くて、外には既に月が輝いていた。