△ ナカロマII 02
「決まりだな」
リヴァイがそう言って椅子の背もたれに寄りかかった時、不意に食堂の扉が開いた。
「こんばんはーリヴァイ班の皆さん!
お城の住み心地がどうかな?」
その声に、その場の全員が顔を上げる。
明るい声で入ってきたのは…ハンジさんだった。
何度か話したことはあるけれど、よく話しで聞くようなそんな変わった人には見えなかったけどな…。
「エレン。さっき言っていたのは…あいつだ」
「リヴァイ?明日の皆の予定は?」
「……庭の掃除だ。」
「ならよかった!エレン、明日からの実験が楽しみだよ。よろしくね!」
実験…?
不思議そうな顔をしたのは私とエレンだけだった。
エレンがすぐに口を開く。
「その実験とは…どういうことをするんですか?」
「…!」
エレンがそう言った瞬間、なんだかその場が一瞬張りつめたような空気になったような気がした、けど。
気のせいかな。
そんなことを考えていると、リヴァイが徐に立ち上がって扉前に立っていた私の手を引き、出口へと向かった。
…えっ、なに?
木製の年季が入った扉がギイ、と重く鳴る。
「ああ、やっぱり…」
ハンジさんがそう静かに返事をすると、それが合図のようにエレン以外の皆が椅子の音を響かせて立ち上がった。
「聞きたそうな顔してると思ったよ」
そうどこか感情を抑えながら呟くハンジさんの声を背後に聞きながら、私はリヴァイに手を引かれるまま食堂を後にした。
後に残っているのはリヴァイ班ではエレンだけだ。
ハンジさんもこんな風に置いてきてしまって、失礼にならないのだろうか。
「あの…、エレンとハンジさんはいいんですか?」
リヴァイに手を引かれたまま、その後ろから歩いてきていたエルドさんたちを振り返る。
「ああ、いつものことだから」
「エレンも一度身をもって経験した方がいい」
そう口々に零す皆さんの言葉に、私の頭には更に疑問符が浮かぶばかりだった。
「じゃあおやすみなさい、兵長、エマちゃん」
「兵長、良い夜を」
各階を分ける階段に差し掛かり、上の階へ上がるリヴァイとエマにペトラ達が声を掛ける。
「ああ」
「あ…、おやすみなさい、皆さん」
城の内部がまだ分かっていないらしいエマは、更に階段を上がっていくリヴァイとその階に留まったままの他の班員を見比べて、違う階の部屋だということを察したようだった。
律儀にこちらへ小さく会釈してから、リヴァイの背中を見失わないうちに小さく追いかけるその足音が遠ざかっていった。
二人の気配が完全に消えてから、ペトラはエルドとグンタに向き直る。
「…なに、今の?
良い夜をって、あからさま過ぎない!?
エルドがもなんであんなにエマちゃんを兵長と一緒の部屋にしたかったの?」
そこへ、フッと鼻を鳴らしてオルオが口を挟む。
「分からねぇのか、ペトラ?
俺にも分かるぜ…兵長が手を出し兼ねているところに助け船を出そうとしたんだろう」
「そんなこと…、」
とペトラが反論しようとしたが、エルドがいや、と声を出した。
「実はその逆だ。
俺はこんな状況で兵長がどう出るのか興味がある。
もしこれだけの状況でも手を出さないなら、兵長は彼女に全く興味がないことになる。
もしかしたら本当にただの団長の親戚として可愛がっている可能性もあるからな。
もしそうなら俺たちは無用な気遣いなんてしなくてもよくなるわけだ」
「…確かに、これまで全く手をだしていないようだったからな」
グンタの脳裏に浮かぶのは、可愛らしい少女が思いがけず美人に見えたあの瞬間だった。
最近更に大人びて見えるその整った容姿を前に、それこそ明らかに好意を寄せられている兵長が何もしないという事実が不思議だった。
もしかして本当に年下には興味がないのか。
それとも、女自体、恋愛自体に興味がないなんてことがあるんだろうか。
今までリヴァイの周りに女性関係の噂ですら立たなかったことを、その場の全員が思い出していた。
尊敬する上司であることは間違いない。
どんな状況でも冷静に対処できる行動力を持ってはいるし、その実力は誰が見ても文句なしで調査兵団最高のもの、引いては人類最強なのだ。
だが、その性格を考えると確かに恋愛には向いていなさそうな気もする。
俺は、とエルドが続ける。
「別にお節介でやってるわけじゃない。
兵長がやけに落ち着いて部屋を一緒にしても構わないというから、俺はそれを後押ししただけだ。
その真意がどこにあるのか確かめたい」
一理も二理もあるエルドの持論に、今度はペトラも含めて全員唸るしか出来なくなった。
「…ペトラ、お前も諦めが付いたんだろ?」
「……うん」
その返事には、いつものような元気はなかった。
それに全員一瞬戸惑って、思わず、おい、と声を掛けそうになった。
が。
「でも、エルド」
と、反対にその口がもう一度開く。
「それって…どうやって判断するの?」
その核心を突いた質問には、一同は顔を見合わせるしかなかった。