△ ナカロマ 102
少し肌寒いとまで感じていた外気が、今はなんだか暑く思える程体温が上がっていた。
そんなわけがわからない状態で皆がいるお城の中に入ることも出来なくて、日が沈み始めた旧本部の塔の影でしばらくそうしてリヴァイに捕まっていた。
…まさか潔癖症と言われるリヴァイに、こんなにキスされる日が来るとは思っていなかった。
とっても自然に、慣れたようにキスをしてくるものだから、少し…、ほんの少しだけリヴァイのそういう過去が気になったけど。
それは自分の為にも、とてもじゃないけど聞ける気がしなかった。
どんな過去があってもそれが今の彼に繋がるなら。
今この瞬間のリヴァイが私を見てくれるなら、今はそれでいいと思えた。
…なんだか全く違う人みたいだと思うのに、彼が触れてくれることがくすぐったくて、気持よくて仕方がない。
彼の近い距離感に戸惑いつつも受け入れてしまう。
真っ赤になった顔を冷ましたいと言っているのに、面白がっているのか何なのか分からないけれど彼は何度も軽く唇にキスしたり、抱き締めながら頬や首にキスを落としたりするので私の息は一向に整わなかった。
気が付けば、いつの間にか壁まで追いやられて腕の中に閉じ込められている。
リヴァイの香りに体中包まれて、心も体も、もう逃げられない。
…逃げたくない、と思った。
今日はもう本部に帰らないと決めてからリヴァイ班の食事の用意もさせてもらおうと思っていたのに…。
そんなリヴァイから逃げられずにいたので何も手伝えていない。
結局、空が暗くなり始めた頃ペトラさんが食事が出来たと外に探しに来るまで、リヴァイの甘い雰囲気に流されてしまっていた。
「兵長ー!!どこですか!
エマちゃん到着しましたか!?もう食事が出来ますよー!」
正面入り口の大がかりな扉を開けて、ペトラさんの明るい声が辺りに響く。
まさかすぐ隣の塔の物陰にいるとは思っていないようだった。
息が上がったまま、直ぐ近くで聞こえたその声に驚いて身を固くする私とは対照的に、リヴァイは動じることもなく重ねていた唇をゆっくりと離した。
なんでこんなに余裕たっぷりなのかと、頼もしい反面少し悔しく思う。
「……行くぞ」
そのまま、ぐい、と私の手首を掴んでリヴァイは正面入り口の方へと歩き出す。
手を引かれるまま無理矢理息を整えて、つい自分の頬の熱さを確かめるように手を当てた私を彼が振り返って呟いた。
「…心配するな、もう城の中も薄暗くて見えねぇよ。」
あ、そうか。
…よかった。
姿を見せたリヴァイと私を確認して、ペトラさんが笑顔を見せる。
「エマちゃん、いらっしゃい!
お腹空いてる?今すぐにお皿並べちゃうから、食堂においでね!」
そう言って、ペトラさんは最後の準備があるのか食堂の方へと薄暗い廊下を消えて行った。
「エマ」
少しでも手伝おうと私もその後を追おうとしたけど、もう手を離していたリヴァイに名前を呼び止められて振り返る。
「…なに?」
「壁外調査まで間がない、エレンの訓練もあるから手伝いがいる。…お前もしばらく本部ではなくここに滞在すると思え」
…訓練って、巨人になるっていうあれかな。
リヴァイ班の人たちも、本部の人たちも皆調査に向けて調整している。
大したことは出来ないかもしれないけど。
私に出来ることがあれば役に立ちたい。
「う、うん、分かった。」
薄暗い中で、あまりリヴァイの姿も見えないけど。
そう返事をした私をリヴァイが見つめるのが分かった。
…?
「…眠れないなら、声を掛けろよ」
「……!」
そう言ってから、リヴァイはふっと足を動かして歩き出す。
一瞬私も固まってしまうけど、リヴァイは別に冗談で言っているわけではないのを分かっている。
冗談でも、言い返せばよかったのに。
なんだか今日はもういっぱいいっぱいだ。
二人の関係が変わった今では更にその意味が増す気がして少し息を飲んだ。
でも、と思う。
…それでも、きっと私はどんな彼でも受け入れてしまうんだろう。
さっきのあの甘いくらいのリヴァイの雰囲気に流されたら、心地よくてなんでも許してしまう気がした。
リヴァイになら本当に何をされても構わないと思える自分が、少し怖いような、恥ずかしいような。
リヴァイの言葉ひとつ、行動ひとつでいとも簡単に自分のペースが乱されてしまう。
呼吸も体温も、感情さえも。
自分のもののはずなのに、こんなに制御出来なくなるなんて。
…いつかそのうち、この甘く痺れるような感覚に慣れる日が来るんだろうか。
いつか、リヴァイを逆に焦らすくらいに余裕を持てるような日が…。
もう何度目かも分からないくらいの頬の温度の上昇に手を当てながら、ゆっくりと息を吐いてからリヴァイの後姿を追いかけた。