△ ナカロマ 101
私がそう言い終わってから一瞬間を置いて、ふっと小さくリヴァイが笑った気がした。
「…そうか。お前はこれが初めてか」
少しからかうみたいな、でも安心したような声が聞こえた。
私も、そのリヴァイの声色を聞いて嫌われたわけじゃないとホッとした。
「きゃあっ!?」
そう聞こえた瞬間、顎に触れていたリヴァイの手の感触が消えたかと思うと代わりに腰の辺りに両腕が回され、ぐいっと持ち上げられた。
既視感を覚える。
足を怪我していた時もそう。
こうやって持ち上げられるまで、彼に何をされるか全く分からないなんて。
地面から足が浮いて、一瞬何が起こったか分からないまま反射的に彼の肩に捕まった。
「…!リ、…っ」
軽く持ち上げられて彼を間近から見下ろす体勢になり、驚いて下を向いた瞬間見上げてきたリヴァイの唇がそのまま口付けて来た。
先ほどの苦しいくらいの口付けと違って、ただお互いの唇を優しく合わせる行為。
今度はさっきと違って顔を抑えられているわけではないので、私が顔を上げればそのキスから逃げられそうだった。
…だけど。
ずっと触れてほしいと…
触れたいと思っていた、リヴァイから合わせられる唇に逃げるなんて出来るわけがなかった。
「…っ!」
唇が触れたまま、特に何をされるわけでもないのに体がぴくりと身震いしてしまう。
今度は自分の体の変化が手に取るように分かった。
さっきは強くキスをされて息苦しくなっただけだと思ったけど、…違う。
こうして優しく唇を合わせるだけでも息が苦しくなっていく。
きっと、キスなんてしなくてもリヴァイに触れるだけでそうなるんだと思った。
いつもはどうやって呼吸していたのかも忘れてしまうほど、胸が苦しくなって、喉が震えた。
肺が上手く空気を吸えていない気がした。
リヴァイの唇が自分の唇に触れるなんて。
…いつかはこうなれたらいいなって思ってた。
でも、どこかで叶うはずなんてないと思っていたのも、本当。
くらりと思考力を奪っていく唇の感触。
これが現実か、自分が望みすぎた故の幻想なのか一瞬また分からなくなる。
本当、なんだよね?
本当にリヴァイがわたしを好きって言ってくれて、こうしてキスをしてくれてるんだよね…?
何度もこっそり思い描いていたリヴァイのキスは、想像よりずっと優しくて、力強くて、柔らかくて…いとも簡単に心を奪っていく。
…こんなの、想像で分かるわけない。
長い一つの口付けのあと、啄むように軽くキスをされ、なんだかそれが合図のように思えて目をゆっくり開いた。
唇が離されて、は、と息をつく。
…リヴァイを見下ろすなんてそうあることじゃないな、と小さく思った。
強く腰に回った腕に抱きしめられて、また少しぼんやりした頭でまだすぐ近くにある彼の瞳を見てはっとした。
か、顔……!
こんなに息が弾んでいるのだ。
また絶対火照っている気がする。
慌ててリヴァイの首に手を回して、その肩口に顔を隠すように抱き着いた。
それに応えるようにリヴァイが私の体をぎゅっと一度抱きしめてから、ゆっくりとその力を抜いていく。
降ろされるのが分かって、私も首に回した手をほどいた。
腰の後ろまで回されていた腕が腰を掴むように当てられる。
私もリヴァイの首から手を降ろし、そのままの形で彼の腰に手を置いた。
地面に足を着くと同時に思わずまた下を向いてしまう。
西日が強くて良かった。
火照った顔もこれならあまり分からないはず、と少しホッとする。
「…なんだ、また隠してるつもりか?」
また、と言われて資料室のあの日を思い出した。
顔を見られるのが恥ずかしいって、分かってほしい。
リヴァイには…、
というか男の人には、そういう気持ちって分からないのかな。
と思ったのに、腰にあったはずの手がいつの間にか頬に添えられて顔を上げた。
あ、と小さく声が漏れる。
今度は見上げる形になったリヴァイの表情はもう怒っていなくて、いつもの優しいものになっていた。
「その顔だ。」
「……え?」
また火照ってしまった顔…見えてるの?
また変な顔を見せたくなくて必死に普通の顔にしようと意識するけど、熱くなった顔を急に冷ます手段なんて知らない…。
不安になって彼を遠慮がちに見つめ返した。
沈みだした西日を背後にしたリヴァイの顔は逆行であまり見えなかったけど、なにかを考えているような、迷っているような雰囲気はなんとなく分かった。
「−−−……俺は別に、可愛くない、とは言ってねぇだろう」
たっぷり時間を置いた後にリヴァイが発した声はかなり小さかったけど。
私の耳にはしっかりと届いてしまっていて。
その小さな一言は私の顔を更に熟れた林檎のように赤くするには十分すぎるものだった。