△ ナカロマ 100
そうぽつりと零した瞬間、それまで私が俯くままにしてくれていたリヴァイの手に力が込められて、今度こそぐっと強めに顎を持ち上げられた。
−−−!?
「………こんな、だと?」
驚きながらも突然合わせられたリヴァイの瞳は、西日の強いオレンジ色の中でなんだか今まで以上に目つきが悪くなって見えた。
こんなに間近で凄まれるとさすがに威圧されてしまう。
お、怒ってるの?
…なんで?
私、なにか変なこと言った?
「今のはどういう意味だ、−−−お前。
違うやつならあるのか?
…憲兵団にいる頃に誰かに何かされたのか?」
…!?
「な、っ…」
なんでそうなるの…!?
こんなキス、って、キスの経験もないからそう言っただけなのに…!
じゃあなんて言えばよかったの?
リヴァイもリヴァイだよ。
なんでそんなに発想が飛躍するの…!?
「……エマ。」
…ありもしない容疑で疑われている気分だ。
顎を固定されて、半分睨むようにこちらを見つめる瞳はほんの少しも逸らされない。
でも、彼の顔はいたって真剣で、真面目に聞いているようだ。
否定しなきゃいけない、のは分かる。
…でも。
異性の経験がないなんて言うのが少し恥ずかしい。
私はずっとリヴァイに片思いしていたから、他の男の子なんて見る暇もなかったのは本当だけど…。
自分が誰からも選ばれなかったということにもなるし。
それは私に色気とか魅力が無いってことにもなる…。
憲兵団にいるときも、周りの友人の多くは恋人がいたり、その時はいなくても経験はある子が多かった。
キスの経験さえもなかったのは少数派で、友人の間では私くらいだった。
リヴァイしか見ていなくて、会えない期間もずっとリヴァイのことを考えてたって。
そう、言っていいの?
そう言えばいいの?
そんなこと言ったら重いやつだと思われない?
…正解が、分からないよ。
「…お前に、無理矢理触れたやつがいたのか?」
無理矢理…?
なんだかその瞳の中に、切ない色が見えた気がして息を飲んだ。
ダメ押しでリヴァイからそう聞かれて、私はついに降参した。
彼のこんな瞳に見つめられたら嘘もつけないって分かってた…けど。
それは私の隠したい気持ちでもあったのに。
リヴァイがいつから私のことを一人の異性として見てくれたのかは分からないけど、私だけ一方的に自分の気持を言うなんて。
…しかも、当の本人からこんな形で促されるとは思っていなかった。
全部本当のことを言わなくてもいいって、どこかで分かっているはずなのに。
この瞳に見られるとそんな思いもどこかへ消えてしまう。
重たいと思われるかも知れないのに。
馬鹿なやつって、引かれるかもしれないのに。
「……そ、」
漸く言葉を発した私を少し眉を顰めたリヴァイが間近で見つめる。
…長年の淡い片思いの蓋を、本人の目の前で暴かれるなんて思いもしなかった。
でも、本当に、わたしって悲しいくらいリヴァイに嘘がつけない−−−。
目を逸らしたかったけど顎を掴まれていてそれも出来ず、諦めたように目を出来る限り伏せた。
「そ、んなひと……いない。
リ、リヴァイ以外…誰にも触りたいと思ったことない。」
言いながら、自分の言葉に思わず目をぎゅっと瞑った。
「キス自体もだけど…っ
ずっと好きだった人と…こんな風に、キスすること全部が初めて、って言ったの…!」
言い終わってから、はっと放心した。
し、信じられない。
こんなこと言わせるリヴァイも、
こんなことを全て馬鹿正直に言ってしまう自分も。
…こんなことで、感情的になりすぎて少し泣きそうになっている自分も。