△ ナカロマ 95
古い物々しいお城に到着すると、厩舎の馬は二頭だけを残して居なくなっていた。
ぐるりと周囲を回って見てもひと気もない。
この馬達は予備の馬だろうか。
リヴァイ班の人達は皆丁度出払っているみたいだ。
訓練中かな、
壁外調査も控えているし。
エレンを間近で見た今でもまだ巨人になれるというのが信じられない。
次の壁外調査の日程も決まったみたいだし、巨人の姿になって外で巨人と戦ったりするんだろうか。
…それって、すごいことだ。
取り敢えず、する事もないので頼まれていた備品を城の中に運び入れた。
立派な趣の昔のお城。
こんな時にその内部を見て回りたくてうずうずしてしまう私はまだまだ子供だ。
食料は台所横で見つけた食料庫へ。
日用品なんかはそれぞれ使いやすい場所へ。
備品はどうしよう、
執務室とかあるんだろうかと一階をウロウロしていると、一室の部屋が目に入った。
机と椅子が置いてある、簡素な室内。
でもその上のペンや紙の置き方には見覚えがあった。
よく見ると書類にもいくつか文字が書いてある。
それを見て不意に笑みが零れた。
…間違いない。
これはリヴァイが置いたものだ。
そこに座っていたであろう姿を想像して、今ここに彼がいない事実に切なくなった。
鮮明に思い浮かぶその姿。
やっぱり、こんなに好き。
リヴァイに何と言われようとこの想いは伝えなきゃと思った。
それが例え自分の自己満足だけで終わったとしても、彼という存在が私の中でかけがえのないものだと、伝えたかった。
…本当に潔癖症だな、と部屋を見渡して思う。
こんなに綺麗好きになった理由なんて聞いた事もないけど、きっと性格的なものもあるんだと思う。
分かりにくいけれど真っ直ぐで、正直なリヴァイの性格。
私のことを弄ぶようには到底思えない。
リヴァイは私を悪いようにはしないって、こんなにも分かってるのに。
自分が傷つくのが怖いだけなのかな、私って。
…早く、帰ってこないかな。
つつ、と埃一つない机の上に指を滑らす。
掃除、といえば。
そういえばまだ掃除用具を片付けていないことを思い出した。
すぐに使う部屋は綺麗にしたみたいだけど、上の塔や渡り廊下はまだ多少埃を被っているようだった。
リヴァイ達が帰ってくるまで、掃除でもしてようかな。
旧本部だったという中世に建てられたお城はいくつもの塔から成り立っているようで、この全てが使われていたとしたら当時はさぞかし賑やかだっただろうと思う。
その面影は今は無く、庭は草木が生い茂り城の大部分はかなり荒れていた。
リヴァイ達が使っているのはそのほんの一部なのだろう、掃除が行き届いていたのですぐに分かった。
足元には窓から入ってきたのか砂や土埃が溜まり、どこかのドア枠や机が壊れたのか木材が落ちているところもある。
埃がかなりの量舞い散るので、多少気休めだとしても医療班や医師のように布を顔に巻いた。
物置で見つけた箒を手に、全ては片付けられなくてもある程度大きな瓦礫を片付けていった。
リヴァイ達が使っている塔からは扉を通じて一際大きい塔に繋がっていた。
このお城を見た時に一番目立っていた塔だ。
階段を上っていくと上の方に大きめの窓が造られているけれど、ガラスが大分前に割れたのか無くなったのか、今はもう窓の木枠しか残されていなかった。
自分の背丈より大きくぽっかりと煉瓦が切り取られたところに、もう古くなった枠組みだけが申し訳程度についているだけだ。
外からは風雨に運ばれた砂や土の他に、蔦のような植物まで侵入してきている。
足元は膝下の位置から窓の木枠がとりつけられていて、かなりの大きさの窓だったようだ。
当時は立派なものだったんだろうなぁと想像できた。
結構地面から距離もあるし、これは落ちたら危なさそう…
と思って顔の布を外しながら身を乗り出して塔の下を覗き込んだ瞬間、後ろから突然声が響いた。
「…エマか?お前、何して…」
すっかり誰もいないと思い込んでいた。
予想外のその声に体がビクッと一瞬飛び跳ねて、あ、と思った瞬間には覗き込むときに体を支えていた左手が木枠から外れた。
「……!」