△ ナカロマ 93
リヴァイの馬を取り合えず厩舎に連れて行ってから病室に逃げ帰ったけれど、その夜はずっと鳴り止まない自分の心臓の音のせいで眠ることが出来なかった。
目を閉じていても開けていても、あのときのリヴァイのことを思い出す。
背中に感じる熱い手の感触も、
軽く顔に触れた唇も、
あの時彼に言われた言葉も。
何度も何度も頭の中でそれが再生されて、もうどうすればいいのか分からない。
頭の中は既に許容量を超えて、リヴァイとはそのあとすぐに会えるわけもなく
どこにもいけない想いを抱えて普通に生活するふりをするのがやっとだった。
馬が入れ替わっていることで誰かに何か言われるかとどきどきしながら次の数日を過ごしたけど、よく考えたら私が病室から抜け出して馬を連れ出したことが誰にもバレていないのだから、そんなこと誰に何を言われるはずもなかった。
その数日後、あの女性医師から検診を受けて足の経過は文句なしだとお墨付きをもらった。
足を引きずって歩くこともなくなり、毎日するようにしていた散歩も楽になってきていた。
…あの湖のおかげでもあるのかな?
その検診を最後に、私もソニャのように元の一般宿舎に戻ることになった。
「それでも無理はしないこと。さてと、それじゃあ…どうしようか?」
悪戯っぽく笑って見せる彼女に私はただ目を丸くすることしか出来なかった。
どうしようって、なにを?
彼女はカルテに何かを走り書きして、それを隣の看護兵らしき助手に手渡した。
その代わりに、助手から彼女に二枚の紙が渡される。
「人気者だね。
医師の許可が出たら手伝いに来てほしいって、二か所から申請が来てたよ」
それらは私に見せられることなく、女性医師は備え付けの簡易な机の上にその二枚の紙を置いてその手にペンを握り直した。
どっちにする?と少し楽しそうな瞳が私を覗き込んだ。
聞かされた選択肢は……
カリーナ分隊長の本部での手伝いか、
リヴァイ班の、旧本部での手伝い。
カリーナ分隊長の方は、聞いてたから分かるけど。
リヴァイの班のお手伝い?
…リヴァイの、そばで?
あ、や、ばい。
「え、えっと……あの」
そう思うが早いか、一気に顔の温度が上昇するのが分かった。
女性医師が私のその反応を見つめるのが分かって思わず俯く。
本人がいないところで、しかも名前を聞くだけでこんなに意識しちゃうなんて…。
真っ赤になった私に彼女はあらあら、と明るい声を出して、一枚の紙にサラサラと何かを素早く書いた。
「はは、決まりかな。リヴァイ班の方に許可を出しておくよ。
もう一つの方はそっちが落ち着いてから顔を出せばいい」
そう言ってもう一度悪戯っぽく微笑んだあと、そういえば、と思い出したように付け加えた。
「旧本部に向かう際にはリヴァイ兵長が指定した馬に乗ってくるようにって書いてあるけど、詳細が書いてないんだよね。どの馬だか知ってる?」
その言葉に、心当たりがありすぎる私は無言で頷くしかなかった。