△ ナカロマ 82
石膏が取れたのは、それから少ししてからのことだった。
重かった足がすっと軽くなった感じがしたけれど、何週間も動かしていなかった左足は動き方を忘れたみたいに上手く動かすことが出来ず驚いた。
もう固定されていないはずなのに足はまだ痛み、とてもじゃないがまだ普通に歩くことは出来ない。
「ここからが正念場だからね」
石膏を取り外しながら、あの赤毛の女性医師が少し脅すように目を光らせた。
それに怯んで、静かに返事をする。
「は、はい…」
「はは、うそうそ、とりあえず毎日動かす練習をしてね。くれぐれも無茶はしないように!」
ただ、固定していた期間よりここから元に戻す方が時間がかかるのは本当、と彼女は続ける。
なるほど、確かに筋力が全く衰えてしまっているのが分かった。
固定されていた時は多少体重をかけられたが、今この状態で全体重を左足で支えられる気がしない。
リヴァイには会えないまままた何日か過ぎていき、私の足も少しずつだけど感覚を取り戻しつつあった。
引きずるように歩くしか出来なかった左足に、少しずつ体重をかけてみる。
思わぬところで痛むこともあったけど、時間をかけて何度も試すしかなかった。
そんな頃、日常生活に支障が出ない程度には回復しただろうと判断されたソニャが一般宿舎へと戻ることになった。
実はそれより前から馬に乗れるほど既に良くなっていたのは、二人だけの秘密だ。
「あっという間だったね!でも、エマとここで会えて良かったよ」
「私もソニャに会えてよかった。普通に過ごしてたら会えてなかったもん」
「本当にね!もうこれからは兵長との進展も聞けなくなるのかぁ。それが心残り…って、そういえば、あの湖行けてないじゃん!」
「あ…」
そういえば。
石膏が取れれば、と当初思っていたけれど、それからの方が確かに大変だったこともあってすっかり頭の中から湖のことは無くなってしまっていた。
大してなかった荷物を軽くまとめてから、ソニャは私を振り返る。
「馬に乗れるようになってから行っておいでよ。きっと良い気晴らしになるよ」
「そう…だね、行ってみる」
時間が合えば私も行くから!と綺麗な笑顔を見せるソニャを建物の外まで見送りに出て、元気に歩いていく彼女が見えなくなるまで手を振った。
壁外に出て怪我をして、もう死ぬかと思ったけどこうして生きて帰ってきて。
怪我をしなかったらこうして彼女と知り合うこともなかったんだから、本当に縁って不思議だ。
人と人との、縁。
それって偶然だったり、必然だったり。
…リヴァイと私は、エルヴィンの家で会っていなかったら今頃どうなっていたんだろう。
お互いの存在を知ることもなく、出会うこともなく過ごしていたのかな。
それともどこかでどうにかしてやっぱり会えてるんだろうか。
そうであってほしい、と思う。
私が憲兵団として、王都で会ったり。
同じ調査兵団として、壁外で会ったり。
あるいはなんでもない街中で、隣に座ったりして。
どんな形であっても私はリヴァイと出会いたい。
彼と出会わない私の人生なんて、考えられない。
リヴァイと私の間にも、偶然以上の縁があることを願わずにはいられなかった。