△ ナカロマ 80
体重をかけないように階段を慎重に上がって、上官室のカリーナ分隊長を訪ねた。
顔を見せた瞬間に力いっぱい抱きしめられ、お互いが傷の具合を聞き合って、無事を確認して静かに笑い合った。
彼女も私が帰ってきたことは聞いていたが、重症だと聞き見舞いを控えてくれていたらしい。
分隊長の額の傷は何針も縫う必要があるほど深かったようだ。
それほどの傷を負って、それでもこうして自力で生き残った彼女に感服した。
壁外調査での詳細は彼女の口から聞くと壮絶で、あの後集落にいた巨人達を引き連れながら討伐し、全体と合流したときには味方はほとんど生き残っていなかったそうだ。
今後の班の編成も組み直すらしい。
私の固定された足とまだ包帯が巻かれた腕を見て、分隊長は私に次の調査への参加を聞くことは無かった。
所属班はまだカリーナ分隊長の班になっていたけれど、それも心配しなくていいと言ってくれた。
彼女はそれから、動けるようになってから雑用でもしてもらうよ、と笑った。
諸々の確認事項を済ませた後、骨折を早く治すにはなにが効くか、なにをすべきではないか等詳しく教えてくれた。
もちろんいきなり体重をかけるなんてことはしないように、と言われて思わず苦笑いしてしまう。
風呂に入れないことを嘆くと、彼女は何かを思い出したように微笑んだ。
「もう少しで取ってもらえるよ。石膏が取れたら、あそこに行くといい」
さすが、分隊長は博識だ。
知りもしなかった色々なことを教えてもらい、後でソニャにも教えてあげようと聞き洩らさずに記憶した。
今度はこっちから見舞いに行くよ、と声を掛けてくれた分隊長にもう一度頭を下げて、ソニャとの待ち合わせ場所へと向かう。
折れた方の腕をまだ三角巾で吊るしたソニャが、反対の手で廊下の向こう側から手を振ってくるのが見えた。
丁度廊下の真ん中で落ち合うと、興奮したように一階にリヴァイがいることを教えてくれたので思わず笑みを漏らした。
リヴァイに会うとなんだか緊張してしまうと相談したら彼女は瞳を輝かせていい傾向だね、なんて笑いながら肩を叩かれた。
そのまま無理矢理リヴァイに会わせようとするものだから、
私も必死に抵抗して、ソニャに怒られながらもこっそりと裏口から逃げるように本部を後にした。
途中、グンタさんとエレンにもう一度会ったので成り行きでソニャを紹介した。
少しの間話していると、突然後ろからペトラさんが呼びに来て、有無を言わさず二人を引きずって連れて行く。
エマはそれを気にする素振りもなく三人ににこやかに手を振り返すが、
「兵長が呼んでるから、」
と小さく二人に伝えるペトラの言葉を、ソニャは聞き洩らさなかった。
…確証はない。
だけど、本部の正面入り口からこの場所は見えているはずだ。
このタイミングで普通呼びに来る?
もし、だけど。
…もし、男二人と話すのが気に入らなかったとしたら?
「ソニャ、どうしたの?帰ろうよ」
…もしかしたら、兵長って案外余裕が無いのかもしれない。
あの日のエマの狼狽え方から何か進展があったのかと思ったけど、今日の様子だとあんまり進んでいないみたいだし。
エマは絶世の美女でこそないが、中々の美形だし女目線から見てもものすごく可愛く見えるときがある。
最近は特に、以前と比べて綺麗になったと思う。
ふふ、と思わずにやけてしまう。
他人の恋愛事って、なんで聞いてるだけでこんなに幸せな気持ちになるんだろう。
「いやー、エマは幸せ者だね!」
「えっ?なにいきなり」
自分より背の低いエマの肩に折れていない方の腕を回して、並んで歩く。
なんとなく二人の関係が見えてきたなぁ、とソニャは満足げに微笑んだ。
