△ ナカロマ 77
ただでさえ女性との接点が少ない兵士にとって、同じく兵団の敷地内で生活する女性兵士はやはりいつでも気になる存在ではある。
そんな中で、少しでも見目が良い女性兵士というのは決まって男性兵士の間で話題になっていたりする。
ーーー本人達の、気付かないところで。
エレンを新しく加えた特別作戦班、通称リヴァイ班は異例の立て続けの壁外調査の後、本格的にエレンの巨人の力を掌握する為に旧調査兵団本部の古城跡への移動を準備していた。
移動するための荷物をエレンとグンタが荷馬車に乗せて行く。
リヴァイとその他の班員は別の場所で手分けして作業しており、後から合流する予定だった。
裏庭近くの荷馬車を停めてあるレンガ道で、すぐ近くの階段に腰掛けて何人かの男性兵士が談笑している。
特に聞こうともしていないその会話の中で、『104期の、』という単語にエレンは耳ざとく反応した。
『新兵にも何人か可愛いのがいたな〜』
『ああ、金髪の子と黒髪の子だろ?』
『古株の兵士はもう頼り甲斐がありすぎて女として見れないからなぁ』
『生き残って欲しいけど、逞しくはなってほしくないよな』
くだらない。
命を懸けて戦う兵士の考えることじゃねぇだろう、と内心舌打ちをしてその場を離れようとしたが、その兵士達が『おい、』とお互いを小突きあって静かになったのを不思議に思って目を向けた。
その兵士達の目線の先にいたのは、遠目からも均整の取れたスタイルと顔だと分かる少女だった。
現に兵士達は好奇心に溢れた表情でちらちらと廊下をこちらへ歩いてくる彼女を伺っている。
小柄な背丈ながらもすらりとした手足に小さい顔。
栗色のゆるくウェーブした髪は変わらず愛らしい雰囲気だが、以前よりは幾分か長くなったようだった。
…そのせいかどうか分からないが、彼女の雰囲気も少し変わった、とエレンは感じた。
可愛らしい顔立ち、だったはずだが、伏せがちな睫毛と以前より少しだけ大人っぽくなった表情は、可愛いというより綺麗な女の子という方がしっくりくる。
女っていうのは、短期間で一気に大人びるものなのか。
その手にはまだ松葉杖が握られている。
あの森でリヴァイが彼女を助けてから大分経ったというのに、そんなに重症だったのか。
男性兵士達も、グンタも、エレンも、見惚れていたわけではなくともその場の彼女に引き寄せられるように目を向けられずにはいられなかった。
彼女のふんわりとした儚げな雰囲気と、纏う瑞々しい空気に思わず手が止まる。
「なんだか、急に綺麗になったな」
そう呟いたグンタの声に、エレンは同意したが返事をしなかった。
ゆっくりと歩を進めていたエマが、段差で一瞬体勢を崩して松葉杖が転がった。
あ、とその場の全員が思ったが、足を動かしたのはグンタとエレンだった。
荷物をどさりとその場に置いて走り寄る。
「エマさん…、」
「大丈夫か?」
エマは廊下の柱に捕まって、転びはしなかったようだ。
声を掛けられてぱっと顔を上げる。
「…あ、リヴァイの班の…!」
ふわっと嬉しそうな笑顔を見せる彼女に、兵長がなぜこの少女に弱いのか分かった気がした。
さっきの兵士達からまだ視線を感じたが、ここは気付かないふりをして彼女をこの場から促すのが得策だと思った。
エレンが松葉杖を拾って手渡すと、それを受け取りながらエマは恥ずかしそうに二人に礼を言った。